朝鮮民主主義人民共和国の「人工衛星」、失敗に終わったそうですね。事前のニュースをほとんどリアルタイムで見ていなかったので、世間一般がどのくらい注視していたのか定かではありませんが、「北朝鮮が・・・」というフレーズは、必要以上にセンセーショナルに報道される傾向にあると思ってしまうのは私だけでしょうか(以前は「北朝鮮」と言った後に「朝鮮民主主義人民共和国」と必ず言っていたのに、いまでは補足して報道することも少なくなった気もします)。今回の「人工衛星」騒ぎで、「北朝鮮による『人工衛星』を称するミサイル発射に係る対応について」という文書が、各学校に文部科学省大臣官房総務課から教育委員会経由で発出されていました。「万が一落下物らしき者を発見した場合には、決して近寄らず、警察・消防に連絡すること」という内容でした。この通知、九州だけ? それとも全国的? 人工衛星の心配より、原発事故の心配のほうが深刻だろうと思いますが、いかがでしょう。
福島大学の放射線副読本研究会が今年の3月に『放射線と被ばくの問題を考えるための副読本~“減思力”を防ぎ、判断力・批判力を育むために~』(監修:福島大学 放射線副読本研究会、著作・編集:後藤忍)を出しました(以下「副読本」)。近々出版も予定され、電子ファイル版は、後藤忍研究室(環境計画研究室)のウェブサイト(https://www.ad.ipc.fukushima-u.ac.jp/~a067/index.htm)に掲載予定だそうです。雑誌『週刊金曜日』でも、近々取り上げられる予定とのこと。地元福島からきちんとした情報発信をしていくことは、とても大事なことだと思います。この春のニュースでは、福島大学の合格発表が大きく取り上げられたり、「絆」だ「復興」だと「前向きな」ニュースが意識的に流されているように受け止めているのは勘ぐりすぎでしょうか。「前向き」なのが悪いのではなく、「原発事故の危険性」や「東京電力や国の責任」「被災地の人たちの心配や苦悩」など、目をそらしてはいけないはずのことから目をそらさせるための報道がなされているように思えて仕方ありません。
世の中の報道がそのような流れにある中で、今回福島大学の放射線副読本研究会がつくった冊子は非常に意義があると思っています。少々長くなりますが、この副読本の立場や意義をお伝えするために、「はじめに」から引用します。
「2011年3月11日に発生した東日本大震災により、東京電力(株)福島第一原子力発電所の大事故が起きて、放射性物質(ヨウ素、セシウム、プルトニウムなど)が大量に放出され、福島県を中心とする広い地域の大気や水、土壌などが汚染されてしまいました。
汚染された地域では、高い放射線量のため、長期にわたって人の居住が制限される地域が生じました。事故以前に設定されていた年間の追加被ばく線量(医療除く)限度を超える放射線を浴びてしまったり、その恐れがあるために、多くの人々が避難を余儀なくされました。避難の途中で亡くなった方や、原発事故の影響を苦にして自殺に追い込まれた方もいました。東日本の各地で、水道水の摂取や一部の食品の摂取・出荷が制限されることとなり、日常生活にも大きな悪影響を及ぼしました。
放射性物質は、その影響が収まるまでにとても長い期間を要するため、これから私たちは放射線による被ばくの問題と向き合っていかなければなりません。
そのような中で文部科学省は、2011年10月に小・注・高校生向けの放射線副読本をそれぞれ作成しました(以下、新副読本と省略します)。新副読本は、福島第一原子力発電所の事故の後に作成されたものですが、事故に関する記述がほとんどなく、放射線が身近であることを強調し、健康への影響を過小に見せるなど、内容が偏っているという問題点が指摘されています。また、原発事故の前にも文部科学省と経済産業省資源エネルギー庁が作成した原子力に関する小・中学生向けの副読本(以下「旧副読本」と省略します)があり、事故後に回収されたり、ウェブサイトから削除されたりしましたが、これらも原子力の推進側に偏った内容となっていました。
今回の原発事故で教訓とすべき点の一つは、偏重した教育や広報により国民の公正な判断力を低下させるような、いわば“減思力”を防ぐことです。そして、放射線による被ばく、特に低線量被ばくによる健康への影響については、正確なことは分かっておらず、専門家の間でも見解が一致していません。このような「答えの出ていない問題」については、どのように考えていけばよいのでしょうか。
私たち、福島大学放射線副読本研究会のメンバー場、学問に携わる者として、また、原発事故によって被ばくした生活者として、このような不確実な問題に対する科学的・倫理的態度と論理をわかりやすく提示したいと考え、この副読本をまとめました。今回の副読本では、国の旧副読本・新副読本における記述や、原発推進派の見解を積極的に載せることでバランスに配慮しながら、そこに見られる問題点を指摘することで、判断力や批判力を育むことができるように工夫をしました。もちろん、この副読本も、批判的に読んでいただいて結構です。
この本の内容が、より多くの子ども達や放射能汚染に苦しむ方々、そして、広く一般の市民のみなさまにとって、放射線と被ばくの問題を考えていくための一助となれば幸いです」
昨年10月に本校にも『知っておきたい放射線のこと ~高校生のための放射線副読本~』(発行:文部科学省 著作・編集:放射線等に関する副読本作成委員会)という新副読本が全校生徒分及び全教職員分送られてきました。中身は、福島大学の副読本が指摘しているように、自然界や医療関係で、いかに身の回りに放射線があふれ、利用されているかが説明され、今回の事故についての記述はほとんどなく、事故の写真もイラストも一切載っていません。この文科省発行の副読本は、よくも悪くも大した扱いはされずに、ほとんど読まれもせずゴミ箱へ。もし子どもたちがじっくり読んで内容をそのまま鵜呑みにしてしまえば、間違った知識が植え付けられる恐れのあるものでしたので、もったいない予算の使われ方をしたものだと思います。「心のノート」のように、使ったかどうかをチェックすることがないといいなぁ・・・と心配もしていますが、もし、文科省の副読本を使ったかどうかチェックされる日がきたら、批判的な見方もできるように、福島大学の副読本と併せて使って行きたいと思います。