ラブピースクラブはフェミニストが運営する日本初のラブグッズストアです。Since 1996

banner_2212biird

中絶再考 その26 10カ月も空けてしまった! 激動の「中絶薬承認」に向けた2022年

塚原久美2022.11.30

Loading...

アジュマブックスの編集者さんから「そろそろ連載の続きを・・・」と控えめに促されて、はっとした。気づいたら最後に本連載を更新したのは2月3日。ほぼ10カ月間も書けていなかった。言い訳でしかないけど、時々、思い出してはいたものの、とても手を出せる状況ではなかった。

今年は本当に異常な年で、一つ何か依頼された仕事が終わったと思うか思わないうちに、次の仕事が入って来て、そのあいだに忘れていた仕事の校正など後始末がまたやってくる・・・という感じで息つく間もない感じだった。売れっ子の作家さんでもあるまいし、こんなのは生まれて初めて!

でも、それくらい「中絶問題」への世間の関心が高まったということなのだと思う。言うまでもなく、今年の私への仕事の依頼はすべて中絶か、あるいはリプロダクティブ・ヘルス&ライツがらみ。先日、試しに数えてみたら自分で書いたもの、インタビューを受けて書いてもらったものを合わせて30本以上の記事が出ていた。講演もだいたい月1ペース。

実は今朝も、朝日新聞のweb論座に「世界的にスタンダードな経口中絶薬を厳重管理の対象にしてはならない 安全な中絶へのアクセスを妨げないために」として 投稿原稿が掲載されたところだ。

いや、つまり仕事を「受けている」ばかりではなくて、やるべき仕事を自分で増やしている側面も大ありなんですね・・・。アジュマブックスから来月出版予定の『中絶薬のことがわかる本』のために、イギリスのアクティビストに「あなたの書いたものを訳して新刊に載せていい?」と問い合わせたら、「誰が忙しくしてるんだっけ?」とからかわれてしまった。仕事量がとんでもなく増えてしまったのは、昨年12月にラインファーマ株式会社が経口中絶薬を承認申請して以来、1年間くらいで承認されると言われてきたので、「この1年が勝負!」と思って、必死に情報提供をしてきたためだ。

集会も開いた。
だけどここにきて、一時期ほどには取材が殺到しなくなった。
取材を受けたのに記事になっていないところも多い。皆、承認に合わせて記事を出すつもりで、今か今かと待ち構えている感じがある・・・。
11月14日の参議院議員会館での院内集会/行政交渉の場で、
「母体保護法で中絶に配偶者同意が必要としているのはなぜなのか」
と質問したところ、厚生労働省母子保健課の担当者は、
「当時立法した趣旨がどのようなものだったかについては明確なお答えは困難」
と答えた。要は「わからない」ということだ。ハフポストは、

「中絶、配偶者の同意はなぜ必要?『立法趣旨は不明』な70年以上前の法律に、女性は今も縛られている」

と報じたが、総勢20名くらいは来ていた他の新聞社やテレビの記者たちのほとんどが、今、中絶薬に関するニュースを出してくれないことが残念でならない。

一方、#もっと安全な中絶をアクションの側でも動画を準備中だが、テロップを付けるためにアップロードが遅れている。IWJは院内集会/省庁交渉のほぼすべてを中継し、編集した動画も残してくれている。いくつもの迫真の場面があった。

法哲学者の斎藤有紀子さんによれば、

「医師には応召義務といって求められた医療を必ず提供しなければならない義務がある。しかし、母体保護法の『指定医師必携』と呼ばれるマニュアルには、母体保護法指定医師は『適応がないと判断した時は手術を拒むことができる』と明記されている。指定医師が、『医学的な根拠によるのではなく、社会的な背景なども含めて判断することを法的に担わされている』」。

つまり、医者が道徳的判断や社会政策的な裁定者になり、女性たちの運命を握っているわけだ。

それだけではない。「俺の子を勝手におろしたな」といちゃもんをつけてくる男がいるからと、保身のために法的に不必要だと厚生労働省が言っている場合まで、「念のため」にと恋人だろうとDVや強制性交の加害者であろうと、相手の男性からの「同意書」を取っている指定医師たちがいる。
なのに、それを取り締まる手段がない。
おかげで産みたくなかったのに産まされる結果になってしまった女性たちが現にいる。梶谷風音さんの実施したアンケートでは、「配偶者の同意をもらえないために産まされた女性が13%もいた」という。

「ウェブサイトでは、パートナーの同意がいるとか、親の同意がいるとか書いている。間違った情報は国が正してほしい」

と風音さんは訴えた。斎藤さんも、

「夫がNOと言えば妻は手術できないのは、何の根拠に基づくのか」

と問いかけた。
未婚の場合はいらなくても、既婚の場合は必要だというのは、「夫」という立場に特別の権利が付与されていることになる。女性は結婚したとたんに、自分のからだに関する自己決定権を夫に奪われる。そんなことがあってはならない。

「配偶者同意要件の制定過程がわからない」
と答えた厚生労働省の母子保健課担当者に対して、
「何のために(配偶者同意要件が)あるかわからないのか?」
と会場はブーイングに包まれた。社民党党首の福島みずほ議員が、

「何のためにあるのかわからない、なくしても問題がない。なのに法律で要件とされているから、夫の許可がないと女性が中絶薬をのむことができないというのは、ありえない」

と熱弁をふるい、共産党の小池晃議員が、

「これだけ女性の人権を奪っておいて、厚労省はわからないと言い、総理は答弁を避けた。これで権利制限するとはありえない話ですよね」

と迫った時には、どちらも拍手が沸き起こった。
他にも、経口中絶薬に中期中絶薬プレグランディンと同様の厳しい管理が課される可能性もある。
これについては、ぜひ朝日新聞の論座をお読みいただきたい。

とにかく、承認が出てしまってからでは遅すぎる。
厚生労働省と日本産婦人科医会と製薬会社のあいだで厳格な管理事項を固めて承認してしまったら、そのまま何十
年間も同じ状態が続くことになりかねない。
避妊ピルも、緊急避妊ピルも、アクセスしにくい取扱い規則や価格などが内々で決められてから世に出されたので、使いにくいものになってしまった。

おかげで、どちらも日本ではあまりにも普及していない。ただ承認されるだけではダメで、どう使えるようになるのかがとても重要。だから利用者の側から要求を突き付けていく必要がある。

今こそ声のあげ時なのです! 署名もぜひお願いします!!

朝日新聞論座「世界的にスタンダードな経口中絶薬を厳重管理の対象にしてはならない
安全な中絶へのアクセスを妨げないために」
https://webronza.asahi.com/national/articles/2022112100002.html?page=1

IWJ動画:11 14 セーフ・アボーション院内集会・行政交渉 「国際基準で使える経口中絶薬を!」
https://www.youtube.com/watch?v=BPqEWRv8Q74

ハフポスト11月16日記事:「中絶、配偶者の同意はなぜ必要?「立法趣旨は不明」な70年以上前の法律に、女性は今も縛られている」
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_637207bce4b002e882137917

署名もよろしく! 
Change.org「女性の中絶の負担を減らしてください」


 

 

「中絶がわかる本」(アジュマブックス)好評発売中!

Loading...
塚原久美

塚原久美(つかはら・くみ)

中絶問題研究者、中絶ケアカウンセラー、臨床心理士、公認心理師

20代で中絶、流産を経験してメンタル・ブレークダウン。何年も心療内科やカウンセリングを渡り歩いた末に、CRに出合ってようやく回復。女性学やフェミニズムを学んで問題の根幹を知り、当事者の視点から日本の中絶問題を研究・発信している。著書に『日本の中絶』(筑摩書房)、『中絶のスティグマをへらす本』(Amazon Kindle)、『中絶問題とリプロダクティヴ・ライツ フェミニスト倫理の視点から』(勁草書房)、翻訳書に『中絶がわかる本』(R・ステーブンソン著/アジュマブックス)などがある。

RANKING人気コラム

  • OLIVE
  • LOVE PIECE CLUB WOMENʼS SEX TOY STORE
  • femistation
  • bababoshi

Follow me!

  • Twitter
  • Facebook
  • instagram

TOPへ