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唯女論 第一回「風俗へ行け」とセックスワーク論

黒田鮎未2022.11.04

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はじめまして。私は長年風俗で働き、現在は小さな会社で事務員をしながら静かに暮らしている一般人です。好きな食べ物は餃子とそうめん。よく行くチェーン店は富士そばです。もっぱら紅生姜天そばと春菊天そばを頼みます。近頃は更年期障害におびえている中年の女性です。ずっとフェミニズムに興味を持ち自分なりに本を読んだり考えたりしてきました。このたび、なぜかLOVE PIECE CLUBさんという、とてもキラキラして自分とは遠すぎるように見えていた媒体で自由に書いてよいという驚くべき機会をいただきました。ただの女が、ただの人間として、必死に、時にぼんやり生きながら考えていることを正直に書いていけたらいいなと思っています。よろしくお願いします。

私の毎日の息抜きはTwitterです。知る人ぞ知るガチ中華、話題の最新映画や生活に役立つちょっとお得な情報を求めてTwitterを開いたつもりが、今日も性犯罪者のニュースが流れてきます。

この手のニュースにいつも必ずつくコメントがあります。「なぜ風俗に行かなかったのか」です。

ところで最近はフェミニズムがブームですよね。冷笑系? と軽蔑されるかもしれませんが、個人的にはこの流行に軽薄さや危うさを感じています。ブームにも意味があり、良かったこともたくさんあるでしょう。
しかし私はひとりの野良フェミとして輝くフェミニズムに不信を感じるのです。

昨今女性の人権に対する意識は間違いなく少しずつ高まってきています。
同意のない性行為は暴力だ。絶対に許されないとのコメントに心の中で大きくうなずきます。
するとときおり混じる「風俗へ行け」。
瞬間的にすべてがばかばかしくなりスマホを壁に投げつけたくなります。

しかしそのコメントは悪意や揶揄やまぜっ返しではないのです。それは合理的な解決策でありスマートな提案なのです。
その人は知っているのです。風俗とは性暴力が許される場所だと。
そしてそれを広めようとしている「フェミニズム」があるような気がします。

不信の原因はここです。
ようやく巷で認識されはじめるようになった性暴力の問題。しかし、それを同意のもとに金で取引する場所がある。それを認めようとするフェミニストたち。

長年風俗で働いてきました。その間のことは正直忘れられるなら忘れたいです。そこには契約や、ましてや同意などはありませんでした。あるのはただ死なずに生きた事実だけです。
いわゆる昼の仕事だけで生活ができている今、改めて「風俗へ行け」という言葉が体の芯を刺してきます。風俗という「仕事」とはなんなのか、考えざるをえないのです。

お金があればどんな欲望もかなえることができるというメッセージがあふれているこの社会で、「性欲は我慢できないものだからプロに解消してもらうのがよい、彼女たちは金をもらうことであらかじめ同意しているはずだ」と放埒に開き直る男たちを放置し、「売る女」ばかり持ち上げ応援してみせるのがなぜ先進的とされているのでしょうか。

「性犯罪でお縄になるくらいなら金払って解消しろ」とか「きれいに遊ぶのは男として粋だね」という都合のいい価値観を巧妙に裏から支えているのが「セックスワークイズワーク」という主張ではないでしょうか。

ある人はいいます。セックスワーカーは体や尊厳を売っているのではない。癒しや テクニックを売っている。嫌なことや危ないことは断ることができると。
だとしたら残念ながら私は「セックスワーカー」ではなかったしそんな人には会ったことがありません。

またある人は言います。セックスワークは特別なものではない、ファーストフード店で働くようなものだと皆の意識を変え偏見をなくせば、客は乱暴なことをしないしルールを守るようになる。その結果セックスワーカーたちはより安全にはたらことができる。セックスワークを廃止させようと言う人たちは性的なことを嫌悪しているのだろうと。
逆に笑えてきますが、どうやらこの論理は大学で教えるフェミニストや左派の活動家やリベラル政党にも人気のようです。

私は自分で言うのも変かもしれませんが、多少は人権意識のある人間だと自負していたし、これからも学び、善き人でありたいと心から思っています。もともとは左派と呼ばれる彼らの人権意識に大枠で同意していました。しかしこの件に関してだけは理解できないのです。
私に知識や教養がないからでしょうか?
人権意識がたりないからでしょうか?
性への偏見や嫌悪があるからでしょうか?

ほんとうに長い間業界から抜けられませんでした。その経験がそう簡単に「セックスワーク」という軽薄すぎる言葉に納得してくれないのです。そこで行われていることはお金で取引きされたレイプではないでしょうか?
レイプを受けることに、素人もプロもあるでしょうか?人は痛みを日常的に受けると、麻痺していきます。この業界に「プロ」はいません。ただ「慣らされた人」がいるだけだと思っています。

こうやって性産業を批判するととにかく勉強しろと言われるのですが、レイプがレイプでなくなる方法があるなら教えていただきたいです。どうやって毎日何人もの男性と安全に同意をとるのか教えていただきたいです。
学者さんはフィールドワークから始めていただきたいです。どう尊厳が守れるのか証明してください。安全に働くとはいったい具体的にどんな状態のことなのか、生活がかかっている当事者に負わせずご自身の言葉で説明していただきたいです。

セックスワークを認めよ、と言うだけなら簡単です。悲惨な実態は知られていないし、そもそも職業フェミニストとして食っている人たちには初めから縁のない世界でしょう。それに性の多様性、当事者の主体性と聞くとなんだかそれだけですごくいいことのように聞こえるし、左派の男性もここぞとばかりにノリノリですよね。

メディアに出てくるキラキラしたフェミニストや、ジェンダー論の教授やなんかが
「性産業をつぶしたいという偏狭で差別的な人たちがいる。その人たちは従事者達に偏見があり、かわいそうな被害者と決めつけ、弱者扱いし主体性をおとしめている、それはフェミニズムではない」
などと最先端の思想のように説き、勉強熱心な若者や、反差別をステータスにする意識高い人たちが目を輝かせながらそうだ、そうだ! 売る権利! 当事者の声を聞け! と我こそ真のフェミニズムだと旗を振るのです。彼らはいったい現場の何を知っているのでしょうか? 何を見たのでしょうか? どうやって「勉強」したのでしょうか?
その輝くアジテーションを目にするたびまた壁にスマホを投げつけたくなります。

富裕層の服やバッグの広告を載せたファッション誌で、キャリアのために代理出産をするハリウッドセレブたちが「セックスの喜びを享受するのは人として当たり前の権利。ワーカーをリスペクト」といくら美しく言おうともそれをただありがたく拝聴する義務なんてないし、私たちはもっと地に足をつけてもいいのだと思います。

より新しい旗を掲げれば成功でしょうか? いったい誰がそれを振り、ほんとうは誰を応援しているのでしょうか?
私たちはその旗を見上げてばかりいるうちに大きなものを見落とし、また意図的に無視してきたのではないでしょうか。

急いで「アップデート」をしてしまう前に一緒に考えてみませんか。

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黒田鮎未

黒田鮎未(くろだ・あゆみ)

輝きたくないフェミニスト。元風俗嬢。現在は非正規会社員&飲食店店員として生計を立てている頑張りだけがとりえの中年女性。最近は更年期障害におびえている。

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