先日3月14日、知人の女と共謀して58歳の男性を地下鉄の車内で痴漢の犯人にでっちあげたとされる男子大学生が容疑者として逮捕されました。この男が逮捕されるにいたったのは、共謀した女が出頭したことによるようです。
この事件は、犯人にでっち上げられた男性が涙ながらに冤罪の悔しさを語るニュースとして、大きく報道されました。
一方、警視庁の発表では、昨年電車で起きた痴漢の犯罪件数は2201件で、過去最高の数になったそうです。痴漢被害は、届け出ていない被害者も多く、「実際は数十倍」と考えられるということです。2201件の数十倍ということは、仮に50倍として110,050件!!! 10万人上の女性が痴漢の被害 にあっているということになります。
犯人にでっち上げるなど許されることではありませんが、冤罪以上にあまりにも痴漢犯罪が社会の中であふれているという情けない日本の状況。犯罪者の男どもが世の中にあふれかえっているということです。
先に挙げた痴漢でっちあげ事件の報道では、「最近痴漢の冤罪が増えてきている」というお決まりの文句が必ず付け加えられて報道されていました。まるで、女性が男性を陥れようとしているかのように・・・(考えすぎでしょうか?)。今回の報道は、世にある痴漢犯罪があまりにもありふれているのでニュースに もならないが、滅多にない痴漢冤罪は、男を守る格好のニュースとして大っぴらに取り上げられる、そういった印象を受けました。
この報道によって、本当に痴漢犯罪にあっても、被害女性が「もしかしたら冤罪と思われるかもしれない・・・」、警察側が「でっちあげじゃないの?」と女性を疑う恐れが高まるかもしれない、そんな思いを強くしました。
今回の痴漢犯罪をでっちあげた大学生について、あるニュース番組で女性コメンテーターが、「こんな犯罪をでっちあげるような子に育ててしまうなんて、私たち母親にも責任がある」などと語ったらしく、その番組を見た私の友だちは、「母親だけの問題か? 男に媚びるな!!父親の子育てはどうなっている! 」と怒り心頭したとか。私も同感です。
この友だちは高校生の時に、通学のバスの中で痴漢被害にあったことがあるそうです。そのとき友だちは、勇気を出してその犯人の腕を掴み、「あなたねえ!!」と、犯人を追及したと言います。あっぱれ!! 勇気ある行動です。
ところが、そのことを登校後、学校の教員に報告したところ、「何をされるかわからないのに・・危ない行動をとったなぁ」と、その友だちをたしなめるような言葉を発し、まるで悪いことをしたかのような物言いだったというのです。
このようなまわりの大人の言動が、被害者への二次加害となり、痴漢にあっても黙ってしまう、泣き寝入りにさせてしまう状況を作り出してしまいます。あくまでも痴漢した奴が100%悪い。スカートが短かろうが、セクシーな服装をしていようが、女性の側に非はありません。しかし、まだまだ世の中には、「夜 遅く一人で出歩く女にも問題がある」「露出度の高い服装をしていたんだから、襲われても仕方ない」などといった犯罪者を擁護するような言葉があふれているのが現状です。
先日読んでいた『〈性〉と日本語 ことばがつくる女と男』中村桃子著(日本放送出版協会)に、「言葉の乱れ」はなぜ若者、そして女性に対してのみ語られるのかということについても述べられていて、「男なんだから丁寧なことばづかいをしないさい」とは言われない、日本語には女性と男性のダブルスタンダー ドがあるという指摘もされています。
また、中村さんはご自身の20代のころのエピソードとして、電車の中で友だちが酔っぱらいにからまれた出来事を次のように分析しています。少々長くなりますが引用すると、
「趣味のサークルで一緒だった五、六人の女性で夜電車に乗っていたことがある。楽しくおしゃべりをしていると、30代の男性会社員らしき酔っぱらいが、私たちの中で最も女らしい感じの女性にからんできた。最初は無視していたが、あまりにしつこかった。すると、彼女が突然その男の胸ぐらをつかみ、『なん だ、てめえ、しつこいんだよ。文句があるなら外へ出ろ!』と叫んだのである。車内は、異様な静けさに満たされ、男性は次の駅で降りてしまった。私たちも沈黙し続けた。だれもが、頭の中で、これまでの女らしい彼女のイメージと彼女の言葉づかいのギャップを埋めようともがいていた。しばらくしてサークル内で、彼女がヤク ザとつき合っているといううわさまで流れた。けれども、私たちは新しい彼女と以前よりも親しくなり、うわさも次第に消えていった。
しかし、この場合のような継続的な関係がない時には、『なんだ、てめえ、しつこいんだよ』という言葉づかいによって、その女性の「品格や人格」が誤解される可能性が非常に高い。だから「うわさ」が流れたのである。その言葉づかいによって、車内の同情を一気に失う可能性すらある。女性が痴漢に遭っても『 やめてください』と頼むしかないのはこのためである。」
痴漢は犯罪であること、被害者は悪くないことを伝え、「女なんだから丁寧な言葉づかいをしなさい」とは決して言わず、痴漢をしない男に育てていく・・・学校でできる痴漢犯罪防止をあれこれと考えた日でした。