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スクールフェミ おかしいと思ったら声を上げよう 〜右傾化した問題集に変化が起きた〜

深井恵2022.10.13

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右傾化する副教材」と題して2018年7月のコラムに書いた漢字の問題集に、変化が起きていた。「右傾化する副教材」とは何だったかというと、漢字の問題集に掲載されている問題文に、軍隊用語が対応されていたことを指す。当時のコラムの内容を振り返り、その後どんな変化が起きていたのか説明しよう。

漢字の問題集は、国語科の副教材(学習材)として、1年生に入学した時に一冊、購入してもらうことが多い。前年度に選定し、新年度に間に合うようにする。たいて、入学してから卒業するまで、3年間、同じ漢字の問題集を使う。
前任校に異動した当初、2年生の担当になったため、「2年生はこの漢字の問題集の何ページから始まります」と、引き継ぎで教えてもらい、問題集の途中から使い始めた。毎時間、国語の授業の最初に漢字小テストを実施する。1回のテスト範囲は、問題集の1ページ分。20問程度の問題の中から、10問選んで出題する。
この漢字はぜひ読み書きできるようになってほしいというものを選んで、毎時間出題しているのだが、「なんだか、この問題文、変だな・・・」と思う書き取り問題文が数多く掲載されている気がしていた。変だと感じた問題文は次のようなものだった。

「陸軍のタイショウを務める」「攻撃のキョテンを確保する」「セイエイ部隊を派遣する」「グンジュ産業が成長する」「ギョライを搭載した潜水艦」「センケン隊と合流する」「負けてゾクグンの汚名を着せられる」「他国にシンチュウする」「苦しい戦況にもユウカンに戦う」「敵状を探るためにセッコウを出す」「おとり作戦で敵をアザムく」「戦没者のエイレイに手を合わせる」「戦闘機がミサイルにゲキツイされる」「銃にダンガンを込める」

これらは、2018年当時使っていた漢字の問題集にすべて掲載されている書き取り問題文だ。まだ他にもあった。

「反政府組織をダンアツする」「祖父は陸軍のタイサだった」「不審船に向かってイカク射撃をする」「叔父は陸軍のジュンショウだった」「軍艦にミサイルがトウサイされる」「太平洋カンタイが演習を始める」「敵のカンテイを全て撃沈する」「戦場ではジュウダンが飛び交う」「戦地でリョシュウの身となる」「勇敢に戦ったが結局ホリョになった」「祖父はかつて陸軍のイカンだった」「従軍中はタイイの指揮に従う」「兵士が村にトンエイしている」「大統領は全軍のトウスイだ」……。

以前から、ジェンダーの視点では漢字の問題集をチェックしてきていた。「この問題文を作ったその出版社の担当者の人と感覚」が問題だととらえていた。国語辞典の意味の書き方にしても用例にしても、その文章を書いた人自身のジェンダー感覚が、言葉となって表出されるので、「女は〜」「男は〜」という固定観念の考え方の持ち主であるならば、ジェンダー・バイアスのかかったものとなる。そう考えていたので、教科書会社や問題集の出版社の方が来校した際には、ジェンダー平等の視点も盛り込んでほしいと必ず訴えるようにしてきた。

しかし、この問題集は、ジェンダー平等の視点だけでは足りない傾向を感じた。当初は、一昔前の古い感覚の持ち主がこの問題集の文章考え、版に版を重ねて今日に至っているのではないかと考えていた。

だが、その問題集の初版は2009年。その後2年おきくらいで改訂を重ねていた。初版が2009年であることに驚きを禁じ得なかった。漢字の問題集がこんなことになった理由として思い当たったのは、2006年に「改悪」された教育基本法だ。教育方法が改悪され、学習指導要領も変わり、その下での教科書検定……教科書に関しては、世間も注目し、マスコミも問題視していた。教員側も警戒を強めていた。その影響が、問題集にもあらわれたのかと背筋がゾクッとした。教科書は教科書検定により報道され注目されるが、副教材が注目を浴びることはほとんどない。大学の研究対象にもならないだろう。

気づいた者が声を上げなければならないと、問題集の出版社の担当者が訪ねてくるのを、軍隊用語の問題文すべてに付箋をつけて待ち構えていた。漢字の問題集は多くの付箋により、幾重にも「つけまつ毛」をつけたような状態となった。出版社が訪ねて来た時、「お待ちしておりました……」と丁重に話を切り出した。軍隊用語を用いた書き取り問題が多数あること。日ごろから子どもたちが軍隊用語に馴染んでしまうことが危惧されること。「搭載」の書き取り問題は何も「ミサイル」ではなくても例えば「最新機能を搭載したビデオデッキ」でも可能ではないのか等々。
出版社の担当者は、子育て中の女性であった。彼女は「自分の子どもがこんな問題集で学ぶことを思うとゾッとします」と言い、「社に戻ったら伝えます」と答えてくれた。

それから3年。筆者は異動し、異動した先でも同じ問題集が使われていたため、次の改訂がどうなっているか期待しながら日々の授業で漢字の問題を使っていた。異動した年、改訂版が出た。授業と問題集を使いながら、「あれ? 問題文が変わった気がする」と気づいた。

じっくり改訂前と改訂後の問題文を比較してみた(改定前→改定後)。

「陸軍のタイショウを務める」
→「剣道の試合でタイショウを務める」

「戦争中はグンジュ産業が成長する」
→「雨具は登山のヒツジュヒンだ」

「ギョライを搭載した潜水艦」
→「空が曇りエンライが聞こえる」

「他国にシンチュウする」
→「仕事で2年間パリにチュウザイした」

「敵状を探るためにセッコウを出す」
→ ※この問題文がなくなり、「ハイセキ」を2回練習する作りになっていた。

「戦没者のエイレイに手を合わせる」
→「父はレイチョウルイの研究者だ」

「戦闘機がミサイルに撃墜される」
→「信用をシッツイする行為はするな」

「不審船に向かってイカク射撃をする」
→「猫がうなり声をあげてイカクする」

「叔父は陸軍のジュンショウだった」
→「大学でジュンキョウジュを務める」

「軍艦にミサイルがトウサイされる」
→「最新機能をトウサイした自動車」

「敵のカンテイを全て撃沈する」
→「五隻のカンテイが救助活動に加わる」

「勇敢に戦ったが結局ホリョになった」
→「ホリョの解放を求める」

軍隊用語がすべてなくなったわけではないが、かなりの数が変化していた。4年前筆者が出版社の担当者に言ったから変わったのか、言わなくても変わったのかは、出版社に確認しないとわからない。だが、この問題集の変化は「おかしいと思ったら声上げることの大切さ」を生徒に語るうえで、大事にしたいエピソードのひとつとなった。

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