TALK ABOUT THE WORLD フランス編「フェミニズムとポッドキャスト」
2022.08.18
フランスではフェミニズムのポッドキャストが百花繚乱だ。日本でも北原みのりさんのフェミニストステーションが有名だけれども、数はまだそれほど多くないのではないか。その点、Spotifyや Apple podcastでフランス語で探すと、とても全部は試しきれないほど無数に出てくる。
残念ながらフランス語学習者でもなければ直接聞いても役には立たないのだけれど、話のタネとして有名なものを幾つか紹介しよう。
まずLa Poudre(火薬という意味と白粉という意味がある)。2016年に始まったpodcastで、ジャーナリストのローレン・バスティドが女性の作家、アーチスト、活動家、政治家などをインタビューしたもの。オーソドックスな発想だが人気があり、視聴者は累計で一千万人を超える。インタビューの一部は同名の書籍にまとめられた。
Fille de lutteは直訳すると「闘いの娘」。これはフェミニズムの思想が家庭でどのように継承されたかに焦点を当て、フェミニズムの歴史に名を残す女性の娘や孫娘に話を聞いている。モード・アリミは、妊娠中絶が非合法だった時代に中絶した少女の弁護をして無罪を勝ち取った弁護士ジゼル・アリミの孫。シルヴィー・コンデは、2018年にノーベル文学賞の代替賞を受賞した、グアドループ出身の作家マリーズ・コンデの娘シルヴィー・コンデなどが登場する。過去のフェミニズムを担った世代がすでに鬼籍に入ったり高齢になり、フェミニズムの「伝統」や「継承」が語られることが興味深い。
Quoi de Meuf ? (何か新しいことは?という意味の表現Quoi de neuf ? と女性を表す俗語のmeufを掛けたタイトル)も代表的なフェミニズム・ポッドキャストだ。著名人や専門家が、ポップ・カルチャーについて、フェミニズムや、インターセクショナリティ(人種やジェンダーだけでなく、階級、セクシュアリティなどをめぐる複数の抑圧が互いに交差して差別構造を形づくっているのだとする、キンバリー・クレンショーが提唱した考え方)の見地から意見を交わす。
Intime et Politique(「私的なことと政治」と訳しておこうか)は、性差別やステレオタイプに立ち向かうドキュメンタリー・シリーズ。現在までに、家庭内性暴力をテーマにしたシリーズやセックスワーカーに語らせたシリーズがある。
この他にも市井の女性たちの声を伝えるポッドキャストや、ラジオ局やテレビ局が制作した番組のリプレイなど、フェミニズムに触れようと思えば数限りない。その内容には今日のフェミニズムの多様性が現れている。
とりわけMeToo以後、フェミニズムは広範に広がった。2016年に自分のことをフェミニストだと自認していたフランス人は52%だったのに対し、2021年10月の調べでは、68%に増えている。とりわけ、若い世代にフェミニズムが浸透している。
MeToo以後、誰もが自分の経験を語るというフェミニズムが一般化したが、ポッドキャストはTwitterとともに、この新しい形のフェミニズムにとりわけ適したメディアなのかもしれない。