TALK ABOUT THIS WORLD ドイツ編旅のイン & アウト
2022.06.15
4月後半までの4週間、子どもとともに一時帰国していた。3月からドイツからの入国者についての水際対策措置が緩和されていたので、到着後の隔離施設行きは今回はなし。一年前に体験した3日間の隔離施設滞在が楽しかったのか「また隔離ホテルに行きたーい」と無邪気に言う子どもに「そうねえ、でも隔離じゃなくていいかな」と苦笑いで返す私。
入国前後のPCR検査や入国後の自主隔離義務はあるけど、前回よりもだいぶ気が楽に、と思いきや、戦争の影響の減便で予定していた飛行機が本当に運航するのかが確定したのは1週間ほど前。ホッとして準備もし終えてと思っていたら、前日に旅行代理店から電話が。
「ご存じだと思いますが……」「ああ、やっぱりそうですか……」その日の朝のニュースで聞いた空港職員のストライキで、飛べない、というか、空港に入れないので、出発が翌日便に変更……。
幸い、遅めに受けていたPCR検査の結果はまだ有効なので、日本の実家に到着がずれることを連絡し、気持ちを切り替えてアイスを食べに出かけた。その日はぐんと気温が上がってアイス日和。大好きな近所のアイス屋さんに並んでふと思った。ちょっと待て。結構ここ、人がぎゅーっと並んでるし、アイスは店員がショーケースから直接すくってサーブしてくれるそのタイミングで、万一ウイルスがうつったら……。おりしもドイツの感染者指数は爆発的な数をまだ記録していた頃。しかし病床ひっ迫率は低いままとのことで緩和が始まっていた頃だ。
とはいえ、保育園や学校で定期検査を受けている子どもたちの中ではバンバン陽性者が出て、その家族も自宅隔離、とかそんな話が毎日のように出ていた。我が家は昨年末に罹患(りかん)していたとはいえ、ウイルスの株が違うからまたかかる可能性もあるわけだし、それで数日後の日本入国の際の検査で陽性と出てしまったら……。自分でも神経質になりすぎと思ったが、不安は拭えず家族を説得して行列から外れた。代わりに近くのスーパーでスティックアイスの箱を買い、市民農園の一角にある人気のないベンチに腰掛けて、目の前の満開のマグノリアを眺めながらアイスを堪能したお花見もまたよし。
一夜明けた翌朝、「本当に出発できるの?」と心配して電話をかけてきた実家の母と話しながらラップトップを開けたら、旅行代理店からメールが入っていた。嫌な予感がしてメールを開くと、理由は不明だが、今夜に変更されていた便が欠航になっていると。なぬ!? あわてて電話を母から旅行代理店に切り替えると、とにかく航空会社と連絡が取れ次第折り返すが、今夜飛べないことは確かだと。となると今度こそPCR検査の結果が無効になり再検査が必要だが、急がないと判定結果が明日までに間に合わない!
すぐさま家庭医に電話をして再検査をしたい事情を伝えると、今来てくれればすぐ対応できるとのことで、急いで子どもと家を出る。アシスタントの女性が手早く検査キットを用意してくれているその時に代理店から電話がかかってきて「再検査しなくても大丈夫ですよ!」。すみません! 検査ストップしてください! とあわててアシスタントの人を止める。厚生労働省の情報では、こういう緊急事態の場合は検査結果の有効期間をもう24時間延長できるのだとか。はああ、ギリギリセーフの情報が入ってよかった……。
日本に比べて割安とはいえ、PCR検査は一人50ユーロもするのよ。ちなみに飛行機が欠航になった理由は「中国の軍事演習で空域制限を受けて飛べなくなったとのこと」。迂回ルートになるとこういうこともあるんですかね。
やれやれと家に帰るが、昨夜、予約購入しておいた空港駅までのドイツ鉄道の特急券は事前割引券だったのでパーになる….….。ほんと悔しいけどしかたない、とあきらめていたら、購入していた特急便が何の理由だか知らないが運休に。あらら、ドイツ鉄道あるあるだけど、おかげさまで払い戻し手続きができた。あはは。
とまあ、すったもんだのあげく、当初の予定より2日後に無事フライト。同じような理由で待たされた人たちが乗り込んできたので、この時期にはめずらしく満席となり、寝そべる子どもの足が席外に飛び出ないように気を使ったが、迂回ルートによる13時間強(通常のドイツー日本の直行便は約11時間)のフライトでも我が子はおとなしく過ごしてくれて助かった。
到着直後のPCR検査結果を待つ間、一緒になった2人の子連れのお母さんと話をした。そのお母さんいわく「6歳以下の子どもは搭乗前のPCR検査は義務じゃないというからしなかった」えっ!? 一年前は赤ちゃんでも義務だったが変わったのか! まあ確かに在ドイツのほとんどの子どもは保育園や学校でのコロナ検査義務があるしね。うちの子どもの検査代50ユーロ、もったいなかったな……。そのお母さんの一家も数週間前に揃ってコロナ陽性となったそうで「うちも年末に罹ったので、今回ドイツに帰る時には罹患証明で入国できて助かりますけどね」と言ったら、なんとなく不思議そうな顔をされたような(その理由はのちにわかる)。
お互いの子どもたちも全員無事陰性で、子どもたちは荷物受け取り場へ向かう長い廊下を楽しそうに手を繋いで走っていく。お互いの無事で楽しい里帰り滞在を願って別れると、迎えのない我が家は空港バスに乗り込むべく、あわてて荷物を引きずりながら券売機へ向かう。券売機の前では、大きなトランクを引いた若い2人の外国人女性が渋谷に行くためのバスのルートを尋ねてきたが、渋谷へ直行するバスはなさそうで、新宿まで向かってそこからタクシーか電車で移動する例を伝える。空港のロビーはがらんと人気がなく、以前は混雑していたインフォメーションカウンターも閉鎖されていて誰にもたずねることができないのだ。それにしてもまだ一般の外国人旅行客は入国できない中、彼女たちはどんな理由で日本に来ているのだろう。日本行きの飛行機にも、日本人以外の乗客が結構乗っていた。いろんな人たちがいるんだなあとぼんやり思う。
もう歩けない、と半泣き顔の子どもを励ましながらなんとか空港バスに乗り込んでホッとする。検査時間が長引いてもっと遅い時間になったら高額払ってタクシー移動しかないと覚悟もしていたので、よかった、間に合って。3月初旬から危険指定外地域からの入国者は入国後の検査が陰性であれば、その後24時間以内の公共交通機関での移動が認められるようになったため、今回はこうやって普通にバスに乗って帰ることができる。一年前は隔離施設に移動するまでの間も、窓も座席シートもすべてビニールで覆われたバスで移動したんだっけ。同時期に帰国していた友人が「バイ菌扱いだ」と怒っていたことを思い出して笑いそうになる。隔離ホテルで出されたちゃんとした弁当と友人が送り込まれた狭い隔離ホテルの「費用ぼったくり」弁当の中身の格差も、今となっては笑い話だ。そして、数万円もかかる専用タクシーで空港から実家まで移動したことも。ある意味、奇妙なVIP対応だったなあ。
あっという間に都内のバスの停留所に着き、眠り込んでいた子どもを起こしてバスを降り、幸いすぐに捕まえたタクシーに「普通に」乗り込んでやっと実家に着いた。ここまでのドア・ツー・ドアで24時間の旅、無事に着けてよかった…...。
さて以降、実家での1週間の自宅隔離待機を求められているが、近所への散歩程度は許可されているので、子どもや両親を誘って外に出る。満開の桜の下で、一瞬マスクを外して写真を撮る。そういえばドイツではマスク着用義務が緩和された。交通機関や医療施設などの屋内を除いて法的な着用義務はなくなった。感染者指数は半年くらい前であればあり得なかったようなバカ高い数値のままなのだが、病床ひっ迫率が低いままということで、そういう判断になった。つまり感染してもそれほど恐れることはないよ、っていう意味だ(そんなことは公では言わないけど)。ちなみに周りでも世間一般でも、3回接種してようが、一家まるごと感染した例がバンバン相次いでいたが、緩和なのだ。
でもそもそも、屋外でマスクの着用義務があったのは感染拡大がひどかった冬の頃くらい、それも人の集まる場所に限られていたから、屋外だろうが屋内だろうがずっとマスク、という日本のようなシーンはドイツではなかった。もっともこの時期は花粉症のためのマスク着用は喜んでするけれども。
日本滞在時のマスク体験は、ここに書かずとも皆が知るところだと思うので割愛するが、さあ今度は滞在終わってドイツへ帰る時のことである。現在ドイツ入国にあたっては、EUで承認されているワクチンの2回接種または3回接種証明、またはコロナ罹患証明か入国前のコロナ検査陰性証明の提出が必要とされている。
我が家は昨年末に罹患して6カ月有効の罹患証明が発行されていた。ところが1月に入り、ドイツ保健省は、オミクロン株への置き換わりによってコロナウイルスの感染力が強くなったとの理由で、罹患証明だけ有効期間を6カ月から3カ月へ変更した。我が家はその前にデルタ株に罹患していたので、この変更決定は無関係だろうと思い込んでいたのだが、3月末、親戚の罹患証明パスが無効になっていたと聞いて調べてみたら、我が家のものも3月半ばで無効になっていたことが判明。その時、空港の出口で一緒になった子連れの女性の不思議そうな顔を理解できた。彼女たちがギリギリ有効なのに、我が家がまだ有効だと聞いておかしいと思ったのだろう。しかしまあワクチン接種の有効期限については変更になっていないのに、罹患による抗体の有効期限は短くなるっていったいなんなの? ちなみに隣国のスイスの罹患証明の有効期間は9カ月である。国によって違うウイルスがいるとでもいうのだろうか。
まあ国のルールなので従わないわけにはいかない。幸い6歳以下の子どもは証明提出の義務がなくて助かるが、子どももウイルス媒介する可能性は同じなんだけどね……。なんといってもドイツ入国に必要な証明書付きのPCR検査は3万円近く、そして入国前48時間内に受ければよい抗原検査でも1万5000円と、とにかくドイツに比べて日本では「ぼったくり」とも思える高額なのだ。そしてこの抗原検査、ドイツではオンライン診療のものもある。セルフキットを使って自分で検査をする様子を医者がビデオ診療して証明を出すという方法だ。
ふとそれを思い出して検索してみると、あった! ルフトハンザ航空が提供しているサービスで、なんとたったの9ユーロ。万一に備えてドイツからいくつかセルフキットを持ってきていたのでそれが使える。飛行機到着予定時刻から48時間をさかのぼり、さらにドイツ時間での営業時間に合わせてオンライン登録を済ませ、専用アプリを起動して、パスポート番号などの必要情報を入れた後に、自分が検査をしている様子や陰性の線が浮き上がった検査バーをスマホのビデオ機能で撮影してアップロードする。すると20分後くらいに、医者の名前とサインの入った陰性証明がメールで届いた。
これは便利! 実はあせってビデオ撮影を失敗し、再度やり直したので、もう1回分の検査代金を支払ったが、それでも合計で20ユーロ程度である。ああ、なんて合理的で素晴らしいの!
さて、実は帰りの便も予定のものは10日ほど前に欠航が決まり、8時間後の朝便に振り替えられたのだが、幸い羽田発だったので父が車で送ってくれることになって助かった。思いがけず家族で早朝ドライブとなり、慣れない道をあーだこーだ言いながら車を進め、空港のロビーで朝食代わりのあんパンを孫と分け合う両親を見てほっこりした気分になったが、その後本屋を探して上がったレストランフロアはことごとくシャッターが閉まり、その閑散ぶりがシュールだった。江戸の町を模したこの通りが開くのはいつになるのだろう。
そうして乗り込んだ帰りの便では、乗客が少なかったので3席すべてを使うことができた。とはいえ、飛行時間は長い。欧州行きは偏西風の向かい風を受けるために余計に時間がかかり、本来はフランクフルトまでの直行便が、14時間半かけてウィーンまで、そこで給油後に1時間飛んでフランクフルトに到着、という長旅だった。羽田の搭乗口で話を交わした母娘はベルリンへの乗り換え便へと走っていき、我が家はここから電車に乗り換えだ。空港のサポートサービスを頼んでおいたら、案内担当の女性がとても親切な人で、ルーマニア出身だというその女性はスラブ語訛りのドイツ語で、駅のプラットフォームまで連れていきますと、私たちの重いバッグやスーツケースを一緒に引きずって近道を案内してくれて、さらにプラットフォームで顔馴染みの警備員たちに私たちの乗車の手伝いを頼んでくれた。この助け合いの感じ、ドイツに戻ったって感じだなあ。
その彼女の案内で入国審査に進んだ時、審査官に言われるままにパスポートや査証を出し、子どもを抱き上げて顔合わせをさせて、で、それで終わりだった。あれ? コロナ検査の証明書は? という喉まで出かかった言葉を飲み込んだら、それでおしまいだった。東京のチェックインカウンターで必要書類の確認として見せたから、それでいいのだろうか? 付き添いの女性は、飛行機から降りてもまだマスクをしたままだった私に両手を振ってこう言った。「もう空港内ではマスクはしなくていいんですよ!」そっかあ。なんだか拍子抜けした。ちなみにその2週間後くらいに日本からドイツに入国した人は、預け荷物もなくオンラインチェックインしたので東京でも証明書について問われず、ドイツの入国審査でも問われずで、あれ? と不思議に思ったまま、スルーしちゃったとか。それにしても、日本でコロナ検査に何万も払わなくて本当によかった……。
離陸する飛行機の窓から見えた東京のごちゃごちゃした街並みが愛おしく見えてしまったりするのは郷愁かな。大変ではあったけど、やっぱり帰ってよかった、としみじみ思う。
©️ Aki Nakazawa
この記事を書いている頃、日本政府もドイツ政府も6月から危険地域以外からの入国者の各証明提示義務を撤廃する発表をしました。すでに4月半ば、ドイツ連邦議会の下院で、全成人についてのコロナワクチン接種義務法案が否決されました。オミクロン株に置き換わり、その義務化の必要性がなくなったとの理由だそうで、夫や友人たちが次々にそのニュースを日本にいる私に転送してくれました。一方で、3月から施行された医療や介護関係者の接種義務については先日、連邦裁判所で義務の正当性を認める判決が出て、それに対する反対運動やデモが再び盛り上がってきています。最近は大手のメディアも、ワクチン接種後の副反応に苦しんでいる人々の記事を取り上げるようになり、接種キャンペーンが始まって一年以上が経過した今、もっと明確な検証や報道を期待したいところです。戦争のニュースに隠れがちになってしまったこの話題ですが、まだまだ終わりそうにありません。やれやれ。