<緊急寄稿>棚卸日記 Vol.11「挿入も禁じるべきだし、それ以外の被害も網羅されるべき」
2022.06.01
AV新法の議論の中で『性交禁止』の是非が問われています。
結論から言えば私は「是」ですが、今回は法案に盛り込んでほしい主張とは別に、個人的な懸念をもう少し多角的に検証してみたいと思います。※今回の記事には、性的な表現や残酷な描写を含みます。フラッシュバックの心配がある方は読み控えることをおすすめします。
まず、「性交禁止」や「犯罪助長コンテンツの禁止」といった本題に入る前に大前提として、私は「AV全般に同意を取る課程が省略されてる時点で、すべて暴力であり、また暴力を助長するものだ」と考えています。(対等な関係性でしか成立し得ない「性的同意」を金銭授受で正当化することはできません)
今回は個人的な懸念を例に挙げたいと思いますが、これは決して、一般社会で誰がどのような性交をするのかについてジャッジしたり、性行為の内容の妥当性に優劣をつけたり、"健全度" を序列化するための議論ではありません。
好きな人同士が同意の上で楽しむプレイで、身体的被害が発生しないものなら全て健全です。逆に所謂"ノーマル"なセックスであっても、同意がなければ暴力です。
こうした点を踏まえて、まず大前提として、今回議論の俎上にあがってるのは「AVによる被害」だという点を十分に共有した上で展開したいと思います。
では、AV被害の被害者とは一体誰でしょうか。被写体となり撮影された女性はもちろん当事者ですが、AVの影響を受けて行動化した男性にAV的な性行為を強要された女性たちも当事者です。AV新法は撮影される女性の被害にフォーカスしてますから、後者については今後別途議論の必要があると考えます。
また、「こういうリスクがある」という具体例を挙げれば挙げるほど「それ以外はOKなのか」「それ以外は健全なのか」と言い出す人がいますが、そんな話はしてません。
「どこまでを犯罪助長と見做しどこからを健全とするか?」といった"健全なライン"を探る目的ではなく、どんな被害の類型があるか洗い出し、全ての被害者が救済対象から取りこぼされないように検討するための議論が必要なのです。
何度も言いますが、同意がなければすべて暴力です。
◆「性交禁止」は必須だが、それだけでは不十分◆
まず、性交禁止は必須です。これについては様々な人が既に主張していることなので、私の見解は割愛します。ここで注意したいのは、挿入さえなければ「ソフトプレイ」と見做されたり、被害が軽微なものだと過小評価されるようなおかしな論調に傾斜しないように配慮が必要だという点です。
私の根本的な主張は、「セクハラ全般、民事で慰謝料が発生する性質の行為はすべて性暴力」と考えてますから、挿入を禁止するだけでは不十分です。
すると、「挿入だけ禁止しても意味がないなら挿入を禁じる必要はない」と言い出す人がいますが、そんな話はしてません。挿入も禁じるべきだし、それ以外の被害も網羅すべきだという話をしています。(なお、私個人の意見としては、性交禁止の根拠に売春防止法を挙げることにはためらいがあります。売春防止法それ自体がセクシズムを拡散させる役割を果たしているため、個人的にはなくなってほしい法律なのです。今回、性交禁止の根拠として挙げてしまえば、売春防止法の有用性/正当性を暗に肯定し、存在意義を黙認することにならないかという懸念があることをここに書き留めておきたいと思います。もっとも、他に法律がないからどうしようもないのですが)
◆法の目を掻い潜る脱法マーケットにも対策を◆
1999年に児童ポルノ禁止法が成立したあと活性化したのは、小中学生といったジュニアアイドルを極めて面積の小さな下着や水着、絆創膏などで乳首や局部だけ隠した状態にさせて姿態映像を撮影した「着エロ」というジャンルでした。
これらは間違いなく扇情的であり、男性購入者の性欲を喚起する目的で作られていたのに、裸ではない=ポルノではないという脱法的な詭弁で飛ぶように売れました(なお、2009年の児童ポルノ法の改正により18歳未満の出演作の制作が事実上禁止されましたが、それでも不十分です)
このように、裸体だけをポルノと定義した結果、着エロマーケットが活性化してしまったように、性の商品化を法で規制しようとするたびに、どうにかして利益を得たい搾取業者とのいたちごっこになってしまうことが懸念されます。
同様の現象は性産業でも起きています。本番だけを禁じる売春防止法の建付けの瑕疵で、いわゆる「ヘルスサービス」といった本番以外のプレイのエグさは加速しましたが、それらは本番行為ではないため「ソフトプレイ」と呼ばれてしまう。
過去に何度も、そういった「法の目を搔い潜った脱法的なマーケット」が賑わう矛盾をみてきた立場からすると、本番禁止だけでは不十分、ということになるのです。
◆着衣でも被害は発生する◆
なお、今回はAVの取消権が主要テーマとなりましたが、私個人の主張としては、着エロもグラビアも網羅すべきと考えています。そうすると、グラビアはどこからどこまでが? と、キリがなくなってしまいそうですが、露出面積の多寡に拘らず、本人が嫌だと感じたとき、その苦痛を軽視せずに、削除権と取消権を保障すべきです。
また、最近流行ってる「排泄コンテンツ」などでは、着衣のものも多数あります。
ですが、これらを鑑賞することで性的興奮を覚える人がいて、彼らの需要を満たす目的で撮影されてるのですから、これもポルノと定義して撮影行為を禁じ、取消権の保護対象にすべきです。(私は自分自身が摂食障害なので、Twitterで摂食障害当事者だけをフォローしてるアカウントがあるのですが、そこで「簡単な撮影アルバイト」といったツイートがタイムラインに流れてくることがあります。調査目的だとバレないように、お金に困った女性のフリをして「どんな内容なんですか〜? お仕事に興味あります」とDMしたら、「簡単な動画撮影で、嘔吐、脱糞、放尿、母乳はギャラ+α」というハードな回答が来ました。嘔吐や排泄を商品化しているのです。しかも、風俗嬢ではない女性たちに「おいでおいで」と手をこまねいて。)
女性たちが「おなら」をするシーンだけを集めたマニアものなどにも着衣のものがありますが、これも広義の凌辱として規制の対象にすべきです。
精液(ザーメン)を食べさせる「食ザー」というコンテンツも根深い人気があります。
もともとはただのフェラチオだったのが→口内発射で興奮する→ごっくんに興奮する→「ぶっかけ」という凌辱行為に興奮する、と支配欲や嗜虐心がエスカレートした結果誕生した加害行為です。
着衣の女性もいますが、これも嗜虐心と支配欲の充足を目的として制作されていますから、禁じるべきです。
また、男性が女性に尿を掛け飲ませる「強制飲尿」やスカトロも暴行や傷害罪と定義すべきです。例えば、車などに糞尿を付ける行為は「損壊」とみなされ器物破損罪に該当するのに、なぜ女性の身体にはどんなひどいことをしても金銭授受で正当化されてしまうのでしょうか。
※注意※以下、残虐な描写を含むので、体調の悪い方や、フラッシュバックが心配な方は飛ばしてください。
私の知人で、豚と獣姦させられた人がいます。
豚のペニスは螺旋状の鈎針型です。体重40キロ台の女性の膣に対して巨大です。
知人は膣が避け、出血し、大量の精液を出され、あまりの激痛に気絶したそうです。(こうした例を挙げれば、「それは極めて特殊な状況だったんだろう、ほとんどは健全だ」と言い出す人がいますが、当時は事件化されなかったことが、今は事件化される社会になった、とは思えないのです。グルーミングされていて、自分の被害に気付くまでに何年もかかることがあります。告発されないだけで、私は今でも水面下でこうした被害はどこかにあるだろうと考えています。ですから、獣姦は禁じるべきだし、十分な抑止力を発揮するためにも撮影者には厳重な罰則規定を設けるべきです。知人は犬とも獣姦させられていました。また、動物以外にも、膣に虫や魚を挿れるといった行為も傷害罪でしかありませんから禁じるべきです)
こういった過激なコンテンツへの需要は唐突には発生しません。
いわゆる「ソフト」なポルノに飽きた人たちが求めるのです。
何度も指摘されていますが、日本のAV市場で展開されるポルノの多くは、単に性的であるだけでなく、支配欲の充足を目的に作られているのです。支配欲のエスカレーションを防ぐには、支配欲の根源にある心理と向き合う必要があるように思います。
◆AVで展開される肛門性交は虐待行為でしかない◆
「AVに於ける肛門性交を禁じるべきだ」という声がネット上であがったとき、同性愛者に対する偏見を助長する、ソドミー法の再来ではないか、とバッシングの声が沸き上がりました。
一口に肛門性交と言っても、ゲイカップルの間で同意の上で行われる肛門性交と、性風俗店やAVで行われる肛門性交はまったく趣旨が違います。後者はシス男性による女性への虐待行為です。前者と後者では、同じ「肛門性交」という表記であっても質には大きな差があります。
冒頭で共有した通り、「AVによる被害」として問題視されてるのは後者の肛門性交です。
日本で流通するAVの圧倒的多数がシス男性向けに作られたものですが、AVのシーンではこれら行為が支配と虐待のツールでしかなくなってしまってる上に、実生活で模倣する男性が続出してることが問題なのです。女性の肛門にペニスの挿入を試みる男性は、(膣より締め付けがキツイはず)と妄信してます。そして女性には前立腺もないのに、(この女は「アナルイキ」で絶頂に達するはず)と期待しているのです。
◆肛門にはモザイクが掛からない◆
また、現在のAVに於ける自主規制の運用では、肛門にはモザイクが掛からないことが多いです。女性器にはモザイクが掛かるのに、肛門にはモザイクが掛かりません。肛門にペニスが挿入されればペニスにはモザイクが掛かりますが、肛門にアナルバイブなどを挿入する際はモザイクが掛かりません。
もっとも、モザイク自体が脱法目的の自主規制でしかないため、モザイクさえあればよい、という意味ではありません。(性器をモザイクで隠す処理は、わいせつ物頒布等罪を回避するための自主規制として始まったとされています。「モザイクの向こう側では実は挿入してない」というバレバレの建前のために掛けられるようになったのです)
2017年の刑法改正で、「肛門性交」及び「口腔性交」についても、被害者にとっては、濃厚な身体的接触を伴う性交渉を強いられるものであって、「性交」と同等の悪質性・重大性があるとして、強制性交等罪の対象に含まれるようになりました。
同意なき性交類似行為の被害の甚大さが社会的に認められつつあるものの、AV業界は未だにやりたい放題で、肛門性交に対してなんらの自主規制すらもなされていないのが現状です。
AV出演被害防止・救済法案では「性行為」とは
性交若しくは性交類似行為又は他人が人の露出された性器等 (性器又は肛門をいう。以下この頁において同じ)を触る行為若しくは人が自己若しくは他人の露出された性器等を触る行為をいう。
と定義されていますが、現在の所謂「適正AV(※まったく適正ではありません)」に於けるモザイクの処理範囲の違いからも、「性交禁止」とした場合、「肛門性交は性交ではない」といった言い逃れをされる可能性がゼロではないのです。また、肛門性交だけを禁じた場合、肛門に器具を挿入して拡張するだとか、大量の牛乳を完腸して肛門から噴射させるといった明らかな虐待行為が「違法ではない」ことにされてしまい兼ねません。
傷害罪に匹敵する虐待行為であっても、契約プロセスさえ「適正」であれば「適正」だと居直られてしまう惨状をこのまま放置することはできません。
こうした懸念からも、肛門性交や肛門への虐待行為についての議論を回避すべきではないというのが私個人の見解です。もちろん、このような議論がLGBTQ当事者の方への偏見を強化させることがないよう極力配慮が必要だと考えていますが、その原因を作ってきたのは、被害に遭った女性たちではなく、虐待行為を「文化」として流通させてきたプロダクションと男性社会なのです。
もし「LGBTQへの偏見を強化させるな」といった批判を向けるのであれば、被害者ではなく、こうしたAVを作ってきたプロダクションと、歓喜して買い支えてきた男性社会に向けてほしいです。
◆被害の類型を洗い出す◆
性産業に於ける加害のバリエーションは眩暈がするほど多岐にわたります。
今回の記事で言及したのは、ほんの一部でしかありません。
性交禁止は不可欠ですが、本番・挿入の有無に力点を置けば、それ以外の方法で支配欲や加害欲/嗜虐心を喚起させるコンテンツが濃度を増すのは明らかです。
こうした懸念を念頭に置いた上で、予見し得るリスクを如何に防ぐかが重要だと思います。
AVに限らず、着衣を含む性的画像記録すべてに射程を広げて、無期限・無条件の取消権、削除権を保障すべきですし、加害行為を助長させるリスクに鑑み製造そのものを規制すべきだというのが現時点での私の考えです。