◆身近になりすぎた性売買◆
かつて「風俗は最後の砦」と言われていたはずなのに、いつの間にか社会人デビューのドアを開けたすぐ先に「パパ活」や「風俗求人広告」が待ち受けるような社会になってしまったと感じます。性売買の入り口にあったはずの「この先入るな危険!」の看板 (つまり、心理的抵抗感や性産業への新規参入に警鐘を鳴らす存在) は少しずつ撤去され、「生活に困ったときの福祉窓口はこちらです」といった行政の案内看板が存在しない代わりに、街中を派手な風俗求人のトラックが駆け巡り、「お金ない子注目☆稼げる!高収入バイト!」と風俗に誘導する求人広告に遭遇する頻度が劇的に高い社会…
◆「風俗は楽しい」というプロパガンダ◆
最近では、SNSに於ける女性インフルエンサーによるキラキラとした誘導も顕著です。 「こんなに簡単!こんなに稼げる!」と経済力を誇示する投稿をし、充実した暮らしぶりをアピールすることで、一般社会で報われなかった女性たちの羨望の的になります (実際は本当に高収入を得られる人はごく僅かですし、そのためには想像を絶する苦痛を伴うのですが)
こういった女性インフルエンサーは、大抵の場合「スカウト」と言われる女衒と結託していて、自分のフォロワーとなった女性たちがスカウトの求人にアクセスするよう誘導しています。インフルエンサーの裏で巨額の利益を得ているのはスカウトで、女性をひとり性風俗店に斡旋すると、その女性の毎月の売上の15%を「永久バック」として受け取れます。
つまり、その女性が紹介先の風俗店に在籍し続ける限り、なにもしなくても不労所得を得続けることができるのです。スカウトは同時進行で複数の女性を「管理」しながら新しい獲物を狙いますが、女性が斡旋先店舗に長く在籍すればするほど利益になるので、他に人間関係を持たない孤独な風俗嬢の仕事の愚痴を聞き、労い、励まし、甲斐甲斐しくメンタルケアをすることで、関係性依存に陥らせ、長期継続的に搾取します。
最近摘発されたあるグループは、月に3000万円の収益があったと報じられました。
スカウトは、提携店舗を紹介する求人ツイートを女性たちにRT拡散させ、拡散に貢献した見返りとして女性たちにAmazonギフト券を配布したり、その他にも様々なインセンティブをつけることで獲物を捕獲するチャンスを拡大させています。こうして拡散に協力する女性たちをある種の共犯関係にさせることで、自分たちの責任を矮小化させ、被害が告発されにくい構造を作っています。
このように、性産業へ誘導する社会的要素は年々巧妙化する傾向にあり、わかりにくい姿で規模を拡大させています。
◆極一部の成功したサンプルにしかライトを当てないTV◆
メディアに於けるAV女優への憧れを喚起させるような取り扱いも増えてきました。 AV女優のコメンテーター化 (元祖は飯島愛さん、今は紗倉まなさんなど) や、恵比寿マスカッツなどの娯楽化/カジュアル化、AKB→AV転身といったストーリーが、ある種の華やかさを持ってメディアで取り扱われるようになりました。
こうしたテレビ業界の動きは、長らく性を売る女性に押し付けられてきた「堕落した訳アリ女性」といったスティグマを除去することには成功しましたが、反作用として、視聴者たちが本来持っていたはずのAV女優になることへの抵抗感は巧妙に剥奪されてしまいました。 そして賑やかで華やかなバラエティ番組は決して、AVに出て後悔してる女性にマイクを向けることはありません。
◆風俗の面接に行くことは自分の意志と呼べるのか◆
こうした求人に誘導されて性産業に吸収されてしまう女性たちに対し「金に目が眩んで自分から面接に行ったんだろ」「スカウトに騙されてホイホイついてく方が馬鹿だ」「楽して稼ごうとするからそんな広告に釣られたんだろ」といったバッシングが必ず起きますが、そういった被害者非難は、公道にいくつも穴が開いてるのに公費で修繕せずにそのまま放置して、「落ちた人が悪い!注意力不足のせい!」と責めるようなものです。罠に陥れる穴をそのまま放置してきた社会の責任を問うこともせず、穴の上から見下して優越感にひたるのです。落ちた人に手を差し伸べることもしなければ、助けを呼ぶこともせずに。
社会に仕掛けられた様々な罠を避けられなかった人に対して「自業自得だ」と非難し、自己責任に帰結させる論調が日本社会に根付いて久しいですが、仕事 (お金) に困ってない人や、社会的な承認を得て精神的に安定している人は、求人広告が視界に入っても注意を引かれずに済むという特権的地位にいるのです。 例えるなら、道路脇にどれだけ自動販売機が並んでいても喉が渇いてない人はわざわざ足を止めたりしないのと同じことです。必要がないから無視できるんです。
◆無関心層は無関心でいられる特権性から降りてほしい◆
安定した職と安心して眠れる場所がある、あるいは誰かの扶養庇護下で経済的に安定してる人たちはわざわざ求人広告に注意を払いません。社会的な承認を既に獲得している人は、今から別の何かになろうと焦ることはないでしょう。他者に自己責任論を押し付ける人の多くは、そうした自分自身の特権性に無自覚なまま、自分が安定職に就けたのは「努力の結果」だと信じています。そして彼らは、経済的/精神的に不安定な人の足元を見るような求人広告の存在を批判することもなく、常態化した経済格差に疑いを持つこともせず、ただただ罠にハマる人を「馬鹿だ」と責めることで優越感に浸るだけで何もしません。何もしないということは構造の温存に加担する行為と同義です。自分には関係ない、自分はあんな馬鹿なことはしない、などと断罪せずに、少しでも視野を広げてほしいです。
◆トラウマ治療の保険適用化を◆
また、過去に受けた性被害のトラウマから、敢えて危険な環境に近付いてしまったり、自ら傷付きに行ってしまう女性もとても多くいます。これは、被災した子どもが「地震ごっこ」をしてしまうことなどで知られる「トラウマの再演」と呼ばれる症状のひとつです。
本人も自分が傷付いていることを自覚できないため、一見楽しそうに見えたり、積極的/能動的に見えるのですが、実際は再被害に遭い続けてしまうのです。自分が傷付いてることをリアルタイムで自覚することが困難なため、自分がボロボロになってることに気付くのは、大幅なタイムラグを経てからになります。こうした女性たちに必要なのは、言うまでもなく医療ですが、現実にはホストやスカウトといった搾取者たちが、こうした女性たちを関係性依存に陥らせ利用し搾取する、という被害が多発しています。トラウマ治療を保険適用化してほしいです。
◆性産業へのハードルを下げ、誘導する社会的要因を洗い出したい◆
街中の風俗求人看板、「パパ活」アプリの広告、バニラトラック、職安のメンズエステ求人票、風俗嬢が風俗の仕事について自虐的に面白おかしく描くマンガ…
日常生活にもネット空間にも、「身体を売る行為は大したことじゃない」と性搾取被害を矮小化するメッセージが溢れています。そして、(性売買マーケットの存在意義を暗に肯定するために政治は性差別を放置してるのか…?)と訝りたくなるほど、女性が正規ルートで報われる道が少ない。受験で差別され、就活でセクハラに遭い、男性と同じ能力があっても待遇は差別され、給料は三割引きにされてしまう。結婚して夫の扶養に入ることで獲得できる経済的安定や社会保障と、夫のモラハラに耐える苦痛がトレードオフになってる。
◆参院選、女性議員を国会に◆
真面目に頑張ってもどうせ報われない現実を毎日のように思い知らせてくる性差別社会に疲弊した女性たちに対して、人助けのような顔をして罠を仕掛け、経済的な弱みにここぞとばかりに漬け込む性風俗斡旋業者。
正規ルートのパイを増やす努力を怠る政治と、特殊ルートにパイがあるかのような罠を仕掛ける業者は、裏で結託してるのか?と疑いたくなるほど利害が一致しているように見えます。
先日、5月1日のメーデーで 『#女性が一人でも生きていける社会に』というツイデモがあり私も賛同しましたが、この声を国会に届けるには性差別に抗議してくれる女性議員を増やさないといけません (日本の国会には、おじさん政治に加担し、「女性を差別する女性議員」も混在してますから、女性候補者なら誰でもいいと言うわけではありません。きちんと性差別や格差の問題に取り組んでくれそうな候補者を応援しましょう)
7月の参院選まで3か月切りましたが、どうにか投票率を上げて、一人でも多くの女性議員を国会に送りたいです。