TALK ABOUT THIS WORLD フランス編 ウクライナ戦争の中のフランス大統領選
2022.04.08
ウクライナ戦争で「マクロン大統領ががんばっているね」という声が日本からも聞こえてくる。が、フランスは大統領選の第一回投票が二日後の4月10日)にあるということは、知られているだろうか。
つまり「がんばっているマクロン」もひょっとするともうすぐ大統領の座を追われるかもしれないわけだ。
とはいえ、3月8日に立候補を正式発表したマクロン大統領の人気は上がっている。1月1日からフランスが欧州連合理事会議長国となった。そこで勃発したウクライナ戦争、ヴェルサイユにEU首脳を集めて戦争対応を協議し、プーチンとの対話も繋いでいるマクロン大統領だ。日夜奮闘する姿をメディアが流すことも手伝って、このまま大統領選は盛り上がらずに再選されるのかと思わせる。
Effet drapeau (旗下結集効果) という言葉があって、国際危機や戦争の期間中には、政府また政治指導者の人気が上昇するそうだ。実際、ここで大統領を変えてしまってはウクライナ戦争に対処するのに困るのではないか、とは私でも考えてしまう。しかし国際政治で忙しい現職大統領は他候補との討論にも出て来ない。今後5年間の内政があまり議論もないまま決められてしまうのはどうなのかとも思う。大統領選そのものを延期すべきだったんじゃないだろうか。
ウクライナ戦争は、フランス国内の関心事を完璧に変えてしまった。大統領選の候補者たちは、昨日まで議論していたことをサッと反故にして、別のことを語り始めた。
大量移民の脅威を語っていたことはケロッと忘れて、ウクライナ人の避難の権利を語り出し、悪者はプーチンになり、イスラム過激派の話は誰もしなくなった。ロシアへのガス依存が問題になり、エネルギー問題が前面に浮上した。ガス・石油の高騰の反映で物価が急上昇し、購買力が問題になった。
各候補は、内政ではなく戦争対応や防衛に関して話さなければならなくなった。フランスは、ウクライナ戦争に参戦しないということでは、すべての候補のコンセンサスが取れている。戦争ではなく経済制裁を強めることをほとんどの候補が打ち出している。武器供与に関しては、左翼のヤニック・ジャドとアンヌ・イダルゴが積極的だが、マクロンはあくまで防衛的なものに限ると慎重である。マクロン、保守のペクレス、極右のルペンとゼムールは防衛費増大を打ち出している。
ロシアのウクライナ侵攻は、勢いの良かった極右のマリーヌ・ルペンとエリック・ゼムールは、ロシアのウクライナ侵攻以前、親露的だったため、ロシアのウクライナ侵攻で勢いを削がれた。
ゼムールは、プーチンを非難しながらも、ロシアが暴挙に出た背景にはNATOの東方拡大があることを指摘している。複数の候補がアメリカの影響力からの独立を目指す複数の候補者がフランスのNATO統合司令部からの離脱を訴えている。極左「屈服しないフランス」のジャン=リュック・メランションと共産党のファビアン・ルーセルもこのケースで、段階的にNATOからの離脱を目指している。
3月、物価上昇率が前年比4.5%を記録した。およそ40年ぶりの上昇率だという。そんな中、選挙民の最大の関心は購買力を支える政策となった。保守系の候補は主に様々な税控除を、左翼系の候補は最低賃金のアップを打ち出している。
この記事を書いたのは1週間前だったのだが、公開されないでいるうちに異変が起きた。
盛り上がらない選挙戦だったが、投票日直前になって、マクロン支持が下がったのだ。この5年の任期の間、マクロン政権がアメリカのコンサルタント会社マッキンゼーに政策の作成などを依頼していた(しかもマッキンゼーはフランスで脱税)という事実が暴かれたことが影響したのだろう。投票日2日前、最新の調査では、マクロンは2ポイント落として26%、2位に国民連合のルペンは2ポイントアップして23%、そして3位に「屈服しないフランス」のメランションが2ポイント増やして17.5%でつけている。
マクロン対ルペンで決選投票になれば、53%対47%でマクロンが勝利すると予想されているが、その差も前回調査より縮まっている。ひょっとするとルペン大統領誕生の可能性も排除できない。