連載二回目になりました。バッシングが怖くてエゴサもせずに、連載のことを忘れて過ごしてたらあっという間に〆切がきてしまい、慌ててパソコンに向かってます。
◆バッシングされる役回り◆
現役風俗嬢時代に経験したことや現場でみてきたことについてSNSで発信し始めると、いわゆるクソリプと言われるバッシングのリプライが日常的に投げられるようになりました。「自分で風俗を選んだくせに後から「不本意だった」とか言い出すな」「金が欲しくてやったのに被害者面すんなよ」「売春は違法」「被害の捏造」「後出しじゃんけん」みたいなものがとても多かったです。
私は確かに金を受け取って男性客に跪き、上目遣いでちんこをしゃぶって生きてきた人間ですが、ではなぜ私には金が必要だったのか? なぜ服を脱ぐことでしか金を稼ぐことができなかったのか?
クソリプを付けてくる人たちの中で、当時の私が置かれていた背景まで掘り下げて関心を持とうとする人はほとんどいなかったです。
当事者が置かれた背景を理解しようという気持ちからフォローしてくれる人もいましたが、そういう人は唐突に非難する言葉を投げたりせずに、当事者の言葉に耳を傾けてくれました。
クソリプを付けてくる人たちにとって風俗嬢は「理解するに値しない劣った存在」だったのです。自分が持ってる風俗嬢へのバイアス(偏見、先入観)を疑うこともなく、一方的に決め付け、断罪する。こういう人たちに「理解してください!」と懇願したところでいい結果は生まれないし、理解を請うこと自体が不服なので淡々とブロックしてましたが、そもそもなぜこんなに劣った存在だと思われてるのか、彼らが風俗嬢を劣位に置く根拠はなんなのかと疑問に思いました。
不思議なもので、見ず知らずの匿名のアカウントからのバッシングであっても、集中的にバッシングされると精神的にかなりのダメージを受けました。投げられた言葉は私の生き方を根本から否定するようなものばかりで、直接会って物理的に殴られてる訳じゃないのに堪えました。結果、SNSで発信を始めてから8か月で、私は自分のアカウントを非公開にしました。
言いたいこと、書きたいこと、知ってもらいたいことは山積してるのに、これを言えばこういうバッシングが来る…と予見できてしまい、被る不快感を回避するために沈黙を選びたくなってしまう。引退してから何年間も沈黙してきた私が、必要に駆られてやっと語り始めたのに、その口を塞ごうとする人の数の多さに圧倒されてしまいました。
こういったバッシングはフェミニズムのバックラッシュと同質で、歪んだ社会構造に対して現状維持を希望する既得権益者たちによる「俺が女を消費する権利を奪うな」という叫びにも聞こえました。
告発する当事者を否定するモチベーションの熱量に圧倒されながら、じわじわと委縮し、意欲が削がれていくのを体感しました。
◆女性だけが責められる国◆
2020年暮れ、大阪梅田地下街「泉の広場」で「立ちんぼ」と呼ばれる女性たちが一斉に摘発を受けたというニュースが流れました。
容疑は売春防止法違反。「売春客待ち疑い」という解釈を根拠に61人の女性が現行犯逮捕され、釈放された後同容疑で書類送検され、罰金刑を受ける結果となりました。
本来であれば「立ってる行為」自体は処罰対象ではありませんが、これが「勧誘行為」に該当するという強弁で警察は一斉摘発に踏み切ったのです。
女性たちは何時間もただ立ち続けるだけで、自ら男性に声を掛けたり腕を引っ張るなどの「勧誘行為」は行ってはいませんでした。それどころか、女性たちを選び、声を掛け、交渉を持ち掛けるといった「勧誘行為」をしていたのは男性たちの方だったのです。
ところが逮捕されたのは女性だけでした。
なぜ男性は逮捕されないのでしょう。
自分がセックスしたい女性をキョロキョロと物色し、容姿をジャッジし、品定めする男性の方が遥かに加害性が高いはずです。どの女性が自分の性的興奮をより喚起するか、よりよく勃起でき、よりよく射精できそうか…そんな目で女性たちを物色する男性が公共空間をうろついてることの方がよっぽど恐ろしいはずです。
ところが売春防止法は、『売春が人としての尊厳を害し、性道徳に反し、社会の善良の風俗をみだすものであることに鑑み、売春を助長する行為等を処罰するとともに、性行又は環境に照して売春を行うおそれのある女子に対する補導処分及び保護更生の措置を講ずることによって、売春の防止を図ること』と規定しています。
女性の尊厳を侵害する加害者は男性であるにも拘わらず、処罰対象は女子に限定されています。更生の必要があるのは、女性を性的に消費することになんの躊躇いもない男性たちの方では?
この法律自体がジェンダーバイアスを拡散させる役割を果たしてることもあり、近年では売春防止法を廃止させ、新たに女性を支援する法律を制定しようという流れが起きてるというのに、時代の趨勢を逆行する大阪府警。
コロナ禍で女性の貧困や自殺率増加が報じられる中、お金のためにリスクを冒す女性たちが逮捕され、罰金刑まで課されたという報道に目を疑いました。
「立ちんぼ」と呼ばれる女性たちは、性売買の形態の中でも最も立場が弱く、リスクに晒された人たちです。安定的に稼げるわけでもなく、運が悪ければ殺されるかもしれない、それでもその日に必要な金を稼ぐためにそこに立つしかなかった女性たちです。
そんな風に、社会の中で最も権力を持たない女性たちに説教をし、罰金を徴収する国…
「立ちんぼ」の排除は、ジェントリフィケーションによるホームレス排除と本質的に同じ行為です。私には、この一斉摘発が国による女性たちへの虐待行為にしか思えませんでした。セクシズムと嗜虐趣味に満ちた公権力に吐き気がします。
泉の広場を管理する「梅田地下街」の担当者はこの一斉摘発を受けて「女性や若者の通行量が増え、全体的な雰囲気も明るくなり、活気のある街になった」と喜んだそうですが、「立ちんぼ」たちを物色し、一方的に性的な眼差しを向けていた男性客たちを逮捕する方が遥かに治安向上に貢献したはずです。
そして逮捕された女性たちに必要だったのは、説教や罰金といった懲罰ではなく、安心して寝泊まりできるシェルターや、生活再建に必要な福祉制度や医療、教育機会に接続するためのサポートだったはずです。私自身がそうでしたが、こうした女性たちは、過去の虐待や性被害といった逆境体験で精神的なトラウマを抱えながらも、本人が自分の過去を被害として認識することが困難なため、医療に繋がれないまま何かしらの依存症に陥ったり、実は障害があるのに、これまた医療に繋がれないせいで検査を受けることも出来ず、診断が降りないまま障害に気付かずに生きづらさに耐えている、ということが多くあります。
「立ちんぼ」たちは罰金刑を課されたことで前科が付き、今後の人生でさらなる制約を受けることになってしまいました。ただでさえ就労経験がなく履歴書に空白が多かったり、学歴などでハンデを抱えている女性が多いのに、この先の人生を立て直そうとして就職活動をしようにも前科があるせいで絶望的な制約を受けてしまいます。
一体これのどこが「保護更生」になると言うのでしょうか。
◆常態化した権力の非対称性◆
さらに納得がいかないのが、警察です。
警察官だって風俗店を利用する「性の消費者」なのに、自分たちの性消費を棚に上げて、偉そうに女性を逮捕して説教する権限を握ってます。
私は様々な形態の性風俗店で警察を接客したことがあります。
「風俗利用歴ゼロ」の男性って、果たして何%いるだろうかと思います。
警察だって自衛隊だって弁護士だって医者だって教師だって、堂々と店に来て射精して、賢者タイムに気を緩ませて油断して、ペラペラと仕事の話や愚痴を聴かせてきます。
彼らは「利用料」という名の口止め料を払うことで、自分たちの性暴力を隠蔽させ、正当化させることができるのです。
売る側の女性だけが身バレに脅え、ストーカーに脅え、盗撮被害や物理的な暴力といった接客中の事故に脅え、客の機嫌を損ねないように精一杯演技しながら、身体をいじくられる不快感に堪える一方で、買った男性客は「サービスが良かった/悪かった、顔がどうだった、体がどうだった、テクニックは、コスパは…」と、消費者権利丸出しで女性を一方的に評価する特権性を持ってます。「払った金額の元が取れなかった」と感じれば露骨に不機嫌になる、その図々しさは一体どんな前提に支えられているんだろう。
さらに言えば、なぜ男性たちは性を買う金を持ってるのでしょう。
なぜ女性たちは、性を売るしかないほどにお金がないのでしょう。
日本の性別賃金格差はOECD加盟国中ワースト2位です。
日本政府はこの格差を長年放置してきたし、今も「取り組んでるフリをしながら」放置しています。
男性社会が独占する富を、女性たちは性や愛嬌やケア労働を提供しない限り分けて与えてもらえない、そんな非対称でグロテスクな構造が性売買の需要を揺るぎないものにさせてきました。
この非対称な社会構造の中で、女性だけが責められる、女性というだけで意見を否定される、軽視される、苦痛を矮小化される、労働を過小評価されるということが正当化され、冒頭に書いたクソリプのような「女叩き」がある種の娯楽文化として発展してしまったんだなぁ…と嘆息します。女はフリーサンドバッグじゃねえんだよ! と言いたくなりますが、女性蔑視があまりにも常態化した社会の中で、ほとんど無意識的に女性を記号化してしまい、女性が独立した人格を持つ対等な人間だと認識すること自体が困難な男性も多くいるように思います。
◆春は一層死にたくなる◆
今日はここまでにします。書きたいことはたくさんあるんですが、恐る恐る小出しに書くことしかできません。歯切れの良い痛快な文章を期待する人は冗長に感じるかも知れませんが、素晴らしくない私が素晴らしくない生活を当たり前に生きてることを証明したいので、読み難い文章でも自分の言葉で書いていきたいと思います。
桜が咲いて、暖かくなって、寒さに対する警戒心が解れてくると死にたくなる。平和な世界に自分の居場所を見出せなくて心細くなる。私は抑圧された環境に長期滞在しすぎた反動なのか、春になると拘禁反応に近いような症状が強くなります。
「死にたい」はセンシティブな言葉です。死にたさを隠し持っていても、言えば周りに心配をかけてしまうから口には出さずに封印してる人、死ぬ予定はないんだけど死にたい気持ちがずっとある、そんな人が安心して吐き出せるような場所があってもいいんじゃないかと思って書いてみました。ここだけの話として。これからも生きていくために、そこにある感情をそのまま吐き出す作業はとても大切だと思います。
卒業式や入学式が苦痛で仕方なかった、おめでたい日には隠れたくなる、賑やかな場所が怖い…そんな人に届くといいなと思って書いてます。
素晴らしくない人が否定されずに生きていける社会を目指して。またね。
@lunuladiaryの質問箱に言葉を寄せて下さい。
◆追記 支援に懲罰は要りません◆
この原稿を入稿したあとで、『コロナ禍で生活困窮女性の売春増 警視庁が支援担当者配置へ』)というニュースが舞い込んできたので追記します。
支援担当窓口を設置・・?
訝りながら記事を読むと、2022年4月からは、「検挙された女性を対象に自治体の相談窓口に同行するなどの支援を専門に行う担当者を配置する」という内容でした。
支援対象は「検挙」された女性・・・?
さらに記事を読み進めると、「警視庁は路上に立つ女性たちの様子を確認したあと、捜査員が長時間立っていた1人の女性に声をかけました。そしてホテルの近くまで来たところで売春が目的であることを確認し、その場で逮捕して捜査車両に乗せていました。」とあります。
つまり、ただ立ってるだけの女性をわざわざ「おとり捜査」で逮捕して、その後「再発防止目的」で相談窓口を案内する、というのです。彼女たちは客引きも勧誘もしてないのに逮捕されるのです。
なぜ逮捕する必要があるのでしょうか。
逮捕せずに相談窓口に接続すればいいのでは?
困ってる女性を一発ぶん殴ってから助けるってDV野郎ですか?
前科が付けば、彼女たちのその先の人生はより険しいものになってしまいます。
困窮した人にさらに鞭を打つような「おとり捜査」を実践した警察官は、良心が痛まないのでしょうか。
警察の目的はあくまで「路上から"売春女性"を撲滅させる」ことに終始しており、そこには困難を抱えた女性の生活の再建だとか、彼女たちが剥奪されてきた人権を取り戻すために支援がの必要性を感じて、といった動機は感じ取れませんでした。
先述の通り、こうした女性たちに必要なのは、まずは安心して寝泊まりできる環境です。
そして彼女たちを長年蝕んできた経済的な不安や、就労のプレッシャーから一旦完全に解放し、傷付いたメンタルのケアに専念できる環境を作ることです。
住居と医療を提供する際、逮捕という懲罰をくださずにはいられないってどうかしてます。
あまりにも腹が立ったので、警視庁のHPから「御意見箱」にアクセスして、
・「立ちんぼ」を逮捕することなく相談窓口に接続してほしい旨
・もし警察が声を掛ける場合、威圧的な制服ではなく私服でもっと優しく声を掛けて、まずは体調面を心配してほしい旨を訴えました。
(※この記事を読んでくださった方で、警察の威圧的な態度に疑問を持った方は是非、警視庁の御意見箱に意見をお寄せください)
目指すべきは、「懲罰により"売春女性"が駆逐された社会」ではなく、「女性が身体を売らなくても安全に生きていける社会」です。