学年末考査が終わり、国語表現の授業で小論文の書き方について扱った。いま社会で起こっていることや解決すべき諸問題について、他人事ではなく、いかに自分とのつながりを考えることができるかが、小論文を書く姿勢として大切なことの1つであると話し、いま、社会で起きている事で一番興味関心があることは何か聞いてみた。
すると、真っ先に発言があったのが、「ロシアとウクライナ」だった。「それでは、ロシアとウクライナについて、自分とどんなつながりがあるか、考えてみよう」と、考える時間を少し取った後、生徒に意見を聞いてみた。
「エネルギー」と声が上がった。単語だったので、さらに詳しく説明してみてと促した。「石油や天然ガスなど、ロシアやウクライナが供給しているエネルギーが少なくなって、石油が高騰して、物流価格が上がって、物価に反映されて物価が高くなり、自分たちの生活が苦しくなる」。
「小麦」と次に声が上がった。これまた単語だったので、小麦と自分とのつながりを説明してみてと促した。「ウクライナとロシアは小麦を輸出していて、その輸出ができなくなると、小麦の値段が上がる」。小麦でできている食べ物にはどんなのがある?「パン」「麺類」「お菓子」次々に意見が出た。
「自分たちは、テレビやインターネットで今回戦争について知ってしまったので、戦争をしてはダメだと後生の人たちに伝えることができる」「ウクライナの人を支援することができるのでは」「デモに参加する」「Twitterなどで情報発信する」など、こちらが予想していた以上に、生徒たちは口々に意見を出した。頼もしい限りだった。
そんな授業をした次の日の朝のことだった。通勤途中に交差点で通学途中の小学生に遭遇した。ランドセルを背負った、小学校3年生くらいとおぼしき男の子だった。横断歩道を渡り終えた直後のその小学生は、振り向きざまに運転手の私に向かって中指を立てた(ように見えた)。表情が険しかった。一体何が起こったのか理解できなかった。こちらは彼に対してクラクションを鳴らしたわけでも、ましてや怒鳴ったわけでもない。気のせいかもしれないと思いながらも、朝から嫌な気分になった。
次の日の朝、またしても、同じ交差点で同じ小学生に遭遇した。今度は、こちらが右折しようとしたところを、その小学生が横断歩道を歩いて渡るところだった。その渡り方が、不自然だった。歩幅を妙に小さくして、明らかにゆっくり時間をかけて渡っていた。車の運転手をじらせるような渡り方だった。こちらも、内心「おかしいな。どうしてそんなに時間がかかるのかな。早く渡ってくれないかな」と、じれったく感じるほどだった。
その小学生がようやく横断歩道を渡り終え、やれやれ右折できると、アクセルを踏みこんだ次の瞬間、彼はまた振り向きざまに、こちらに向かって中指を立てた。気のせいではなかった。明らかに、運転手に向かって攻撃的な表情で、中指を立てていた。
通りすがりの見ず知らずの小学生に、突然怒りをぶつけられる筋合いはない。全く身に覚えのない、怒りのぶつけられ方だった。筆者に向けられた怒りなのか、それとも車を運転する全ての人に向けた怒りなのか……。
その小学生への対応について、このまま何もしないわけにはいかないのではないかと、あれこれ考えた。よくあるのが、その小学生が通っているであろう小学校に抗議の電話をするという方法。教員として、学校へのクレーム電話はよくかかってくるのを知っている。高校へも、「自転車通学生のマナーが悪いから指導しろ」などとよくかかってくる。
しかし、その小学生は、中指を立てるということの意味を知っていてその行動しているのか、そうせざるを得ない怒りを持っていて、中指を立てると言う行為で自分を表現せざるをえないのか、様々考えると、ただ抗議の電話を学校にするという行動に出るのもためらわれた。その他にどんな対応があるか、色々と考えてみた。
その1
その子が中指を立てたら、こちらも中指を立ててやり返す。…これは大人としてどうかと思うので却下。
その2
その子が中指を立てたら、こちらは二本指を立てて「ピース」を示す。……これでは意味が伝わりそうにないので却下。
その3
その子が中指を立てたら、こちらは3本指を立てて民主主義を示す(ミャンマーの軍事政権に対して抗議の態度を示す行為の象徴)。その小学生が「3本の指を立てるとは、一体どんな意味なのか」と疑問を持ち、その小学校で3本指を立てるのが流行ることを期待。
その4
その子が通学する時間よりも早く出て、その子を待ち構えて、交差点で中指を立てる現場を押さえて、なぜそんなことをするのか詳しく話を聞き、誰にも彼にもそんな仕草をしてはいけないと伝える。
その5
その子の小学校へ直接赴き、その小学校の教員と話をして、もしかしたらその小学生が虐待を受けているかもしれないし、過去、車の運転手から嫌な思いをされたのかもしれないので、詳しく話を聞いて、今後誰かれ構わず中指を立てることのないように指導するよう依頼する。
その4かその5が現実的かなと思いながら、もし明朝、交差点でその小学生と遭遇したら3本指を立ててみようなどと考えながら出勤した。が、残念ながら次の日、その小学生に出会えなかった。3回目に中指を立てられたら、4日後の対応をしようと考えている。
誰かれ構わず攻撃する姿勢、この小学生とウクライナを攻撃するプーチンを一緒に捉えるのには無理があるかもしれないが、攻撃に対して攻撃で対応するだけでは、エスカレートするだけで、事態は悪化の一途を辿る。
3月8日は国際女性デー。第一次世界大戦の時に、ロシア二月革命が政権を倒したように、市民一人一人が声を上げることで、プーチンを平和裏に倒すことを期待する。