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初めてテレビでバレエ白鳥の湖の公演を観たのは6歳頃だったろうか。同じプリマひとりで鳥にも悪魔にもなれる自由とタイツの王子に完全にもってかれてしまい、しばらく日中も学校でチャイコフスキーの情景世界に捉われてボーッとしていた。「バレリーナになりたい」と思い詰めた。もろもろあって習わせてもらえなかったが、ニジンスキーの昔からヌレエフ、ジョルジュ・ドンに限らずゲイダンサーと女性プリンシパルがしのぎを削る伝統の倒錯は、ホラー映画ブラックスワンも記憶に残る。

替わりにではないのだが同時期にピアノに打ち込んで、たぶん性格もあってのめり込んだ。17歳まで精神生活の中心はピアノだった。こちらも学校のいじめや家庭での阻害で精神崩壊して、自分から続けられなくなってしまった。今で言うセルフネグレクト、自己放任か。音楽は大好きなのに出来なくなったトラウマとでも言おうか、三つ子の魂恐るべしである。今も魂の中心に音楽があるのに、ピアノだけはかなり心しないと観られない。

そんな近況にも美談はあって、ずっとYouTube好企画(自分で言う)「ラジオ水曜夕刊便・新型コロナの日本を語ることで記憶する」でご一緒の、日本女医会理事・青木正美先生が、外傷療養の巣ごもり中何もできなかったけどショパンコンクール公式無料YouTubeで全日程をご覧になっていらしたと伺い、ご回復の見事さにはそれも右脳に作用したのかしらなどと思いながら、筆者も数十年ぶりに楽しむことにした。曝露療法と呼んでほしい。お蔭で五輪は観ていない。ショパンという人は筆者は現役時代は良くわからなかった人で、社交下手で内向的、情念というか感情の振れ幅が激しい。社交界の「男装の麗人」ジョルジュ・サンドに縋って子ども扱いされていたのも無理なかったのかもしれない。そんなことを思い出す中、あどけない笑顔が印象的な新進気鋭のイ・ヒョクを観て、そのオープンで豊かな感情表現が過剰適応にならないことを心から願っている。

イ・ヒョク ピアノ協奏曲1番

さてバレエ音楽と身体性の融合芸術は、サラエヴォ冬季五輪のアイスダンス「ボレロ」の演技を目撃したのも衝撃だった。すでに物心ついていたのでスケートを習おうとまでは思わなかったが、当時の冬季大会はプロ選手もいなくて、主催国自体すぐ崩壊してしまったくらい儲からない時代だった。渡部絵美さんが今なら御嶽海関と同じミックスルーツだったり、多様性に繊細な子どもとして追い続けてきた。平昌メダリスト、マイアとアレックスのシブタニ兄妹の幼い頃、同じボストンの街に住み同じ児童文学書店に通った縁があるが、トゥイズルが見事で今も一番好きだ。でも今回は一切観たくない。にも関わらず、ウイルスのように五輪映像はニュースにLINEに侵食してくる。

ゲイはフィギュアが好きだ。過去にエイズで亡くなった選手も少なくない。ジョン・カリーのドキュメンタリー映画は炭鉱のカナリアの歌のように美しいので機会があったらぜひ観てほしい。延世大学セブランス病院のエイズ診療科と研究連携していた関係で、以前冬のソウルのLGBTQ+コミュニティのみんなでキム・ユナと安藤美姫、トゥクタミシェワが出場したゴールデンスピン・ザグレブ大会の中継観戦に興じたことがある。シスターフッドがあって楽しかったのを覚えている。今は純粋に演技を楽しむには、通常競技会の方が五輪よりも向いているのかもしれない。

その伝説のサラエヴォ五輪の銀メダリスト、トロントのオーサー先生と北京まで二人三脚の現在20歳チャ・ジュンファンは、BTS筆者の推しメンJINくんの面影も思い起こさせる姿勢の良さだ。とにもかくにも右と左の膝関節がまっすぐピッタリくっついていて隙きなく曲がらない。あと数年競技期間をこのまま怪我なく楽しんでほしい。というのも、一方で加熱するメダル関連報道で日本女性選手の姿を見て驚愕した。半年前NHK杯でぴったりだった衣装が、北京では明らかに背中のフィットが大幅に余って肩甲骨が窪んでいる。固いビニール素材の背中全開きデザインなので隠しようがない。顔色も優れず頬骨と鼻筋のシャドウが濃く歯に光がない。

演技後インタビューで開口一番「でも、もっと完璧に」と自分にダメ出ししていたのが、相方選手の会心の笑顔と対照的だった。悔しさ・団体メダルへの執念・向上心が、あと100g軽くなればそれだけ点数が上がると自分自身の存在を削る強迫観念になっている。解説者にも摂食障害をカミングアウトした元選手がいた。メディアも連盟もリスクを見ていて「絶え間ない努力」に報酬と賞賛を強化し、勝者バイアスで自己犠牲が再生産されてメダルを美化するばかりで選手本人を守らない。(※摂食障害の相互支援ピアサポートはコチラから)

WHO世界保健機でも、摂食障害は回復はあるが現在の医療では一生付き合うまだ根治のない行動制御障害の一つだ。亡くなるかたもいる。関心のある人は上の相互支援ピアサポートのサイトも参考にしてほしい。選手の一生よりも大事なメダルだろうか。帰化選手が「メダルは僕のアイデンティティーよりも大事です」と答えたと知り、いろいろ悲惨な認知のゆがみを感じる。フィギュア経験のある友人も足首・腰椎・脊椎・頚椎・全身の関節を痛める体に悪いスポーツと言って今も接骨院に通い試合は観ない。

昔フランソワーズ・モレシャンさんが、オリンピックは巨大スタジウムいっぱいの観衆が熱狂するので見ると具合が悪くなる、とおっしゃっていたのを覚えている。パリ占領下でのナチス党大会の記憶だそうだ。モレシャンさんはポーランド系だったのだ。そう言えば日本の学徒出陣壮行会も神宮外苑国立競技場でNHKの実況付きだった。子どもの頃は知らなかったが五輪も重度障害者差別のパラも、多くの人に複雑性PTSDのフラッシュバックを起こすトリガーを日々産出する優生思想と同調圧力の暴力装置だったのだ。

ドラマ「glee/グリー」コーチ役でおなじみの俳優ドット・ジョーンズも実はソウル五輪国内予選の砲丸投げ選手だった。女性に生まれてアスリートとして生きてきた彼女も身体的特徴から、ヘテロ・ゲイ両方のシス男性またシス・トランス両方のヘテロ女性から一方的な規範や憎悪を押しつけられる被害があったそうだ。多数派から外れた見た目をしていることで排除するのはルッキズムだろうか。gleeで名声を得た後も一貫して少数者のサイドに立つ姿を見習いたい。

サーカスの綱渡りは「落ちるかもしれない」スリルで成功報酬の喝采を浴びる。「猛獣」は「調教」されて、ムチ使いが聴衆に恐怖と興奮を与える。波動ポエムの河瀬直美監督は、障害や疾患・生活困窮者搾取を繰り返す。大会中の北京市はちょうど2年前都市封鎖された時の武漢市のようだ。オリパラは権力に都合の悪い周縁の人生を合法的に次々と排除できる白色テロだったのだ。それがこれからみんなで目指すべき社会の姿だろうか。翻って水俣・スモン・薬害エイズ・過労自死・震災関連死・公文書改竄・入管殺人みな同じ構造だ。依存症カウンセリング現場で被暴力サバイバーのかたがたと一緒に学んだ大切な知見と共に、今抑圧下にある人が孤立しないためにもYouTube東京一揆やFLOWER DEMO、ajuma booksチャンネルや岩波書店等をフォローして連帯、勉強を続けたい。

今日のシスターフッド: 「武漢支援日記 コロナウイルスと闘った68日の記録」岩波書店
https://www.iwanami.co.jp/book/b530033.html

 

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