2021年度版の自殺対策白書が今月2日に閣議決定された。2020年の女性の自殺者数は前年より935人(15.4%)増え、7026人だったという。働く女性の自殺者数が多いと分析されている。男性が微減しているのと対照的だ。
コロナ禍になる前から、女性の非正規雇用の割合は増えていた。派遣社員や契約社員といった、経営者にとっては都合の良い、いつでも解雇できる雇用形態で働く女性が過半数を超えていた。35歳以上の女性の正規雇用者は「マイノリティー」と言われるほどだ。
そこに新型コロナウィルスの影響が重なり、多くの非正規労働者の女性が仕事を失っていった。食料の無償提供に頼らなければならなくなるほど追い詰められている若い女性たちのニュースを見ると心が痛む。
追い打ちをかけるように、電気・ガス、ガソリンに小麦製品、ジャガイモ製品、コーヒー等々、生活必需品の値上がりが後を絶たない。この値上がりはまだ続くようで、今後、実質の「消費税増税」に匹敵するほど家計への圧迫になるのではないか。コロナ禍で収入が減った人にとっては、まさに死活問題だ。寒い冬が来る前に、安心して年が越せるような救済が求められる。
子どもたちの自殺者数も増えている。個別具体の自殺した理由はわからないので想像するしかないが、生活困窮のあまり将来に希望を抱けず、自ら命を断った子どももいるのではないかと危惧している。
また国立成育医療センターが10月21日に発表した調査結果によると、新型コロナウィルス感染症の流行に伴い、神経性やせ症(拒食症)と新たに診断された20歳未満の患者が、2020年度は前年比で約1.6倍に増えていたという。拒食症は圧倒的に女性が多い。
心と体が蝕まれている女性が急増しているのがわかる。自殺に追い込まれる手前で必死に耐えている人、拒食症と診断される手前の状態の人はもっともっと多いに違いない。
女性の安定した雇用が確保されれば、働く女性の自殺者数は減り、母子家庭の子どもたちも救われるのではないか。長期的な視点に立てば少子化対策にもなるはずだ。一時的な給付金だけでは、明るい展望は持てず、問題を先送りするだけに終わる。
非正規労働者にとって厳しい社会状況の中、子どもたちには1人1台タブレット端末が貸与された。タブレット端末の整備費用を中心に4600億円を超える予算が投入されたという。
タブレットを配る前に、コロナ禍で生活困窮している人たちにお金をかけるべきだったのでは? と思ってしまう(生活困窮者救済もタブレット端末対応も両方できるほど潤沢なお金があるのがもっといいのだろうが……)。
コロナ禍で、思うように学校に登校できない児童生徒への対応として、タブレット端末を使ったオンライン授業も進められている。確かに、タブレット端末の導入によって、いままでできなかった授業ができるようになったり、zoomやteamsなどを用いた新たな教育が可能になったりと、ICTの世界が広がっている。
しかし、1人1台タブレット端末が貸与された生徒の様子を見てみると、手放しには喜べない実態がある。休み時間にタブレット端末でゲームをしていたり、動画を見たりしている生徒が多い。「自分のスマホのギガを使わずにすんでラッキー」な感覚だろうか。中には、授業中こっそり(机の中に半分隠して)、ゲームをしたり動画をみたりしようとする生徒もいた(教卓から見ればすぐにわかるので、その場で注意してやめさせたが)。
授業でタブレットを使わない場合は、授業の開始の前に、まずタブレットの電源を切ってカバンの中に入れさせてから授業に入るようにしている。タブレット端末のおかげで、授業中に余計なことに神経を働かせなければならなくなったというのが実感だ。
これまでは、学校内でスマートフォンの使用禁止にしている学校がほとんどだった。前任校では、校内ではスマートフォンの電源を切るという決まりにしていた。いまの勤務校では、朝のホームルームの時間に生徒個人のスマートフォンを回収して、帰りのホームルームで返却している。
しかし「1人1台タブレット端末」で、このスマートフォン回収がほとんど意味をなさなくなった。タブレット端末をめぐっては、全国各地の学校でその対応に頭を抱えているのではないか。
11月7日(日)付の読売新聞では、一面トップの記事に1人1台タブレット端末の弊害について取り上げられていた。SNSによるいじめや不正アクセス、相手の承諾を得ない写真の隠し撮り、規制をかいくぐってのアダルトサイトの閲覧等々……。
それでなくても、1日のスマホ使用時間が数時間に及ぶ生徒に、拍手をかけてタブレット画面を見続けさせることが果たして良いのかどうか。使うときの注意事項や困ったときの対処方法、自己防衛策などの対応が不十分なまま、「1人1台タブレット端末」の海原へ漕ぎ出したような状態だ。
タブレット端末を使った授業をするよう、要求されてもいる。先日、「税の作文」(税務署から、生徒に書かせてほしいと依頼される)を書く授業で、タブレット端末を使って税について調べさせたのだが、そのときに気づいたことがあった。
調べる道具(タブレット端末)があっても、検索キーワードをこちらが提示しないと、何をどう検索していいかわからない生徒が数多くいたのだ。また、検索して出てきたHPを開いても、使われている漢字が読めずに、内容が理解できないといったケースもあった。
SNSでのやりとりにしても、読めない漢字があると意味が読み取れずに、お互い誤解を生じてしまうことが多々あると、他校の教員から聞いたこともある。「怠ける」と言う言葉を、送信する側は文字変換候補の中から選んで自分のSNSの文章に用いたところ、受信した側が「怠ける」と言う漢字が読めずに意味が通じなかったとその教員は話していた。
こんな事例はごく一部のことで、漢字が読めなかったり意味がわからなかったりすることによるSNSなどのトラブルは、おそらく日常茶飯事のことなのだろう。言葉の発達が不十分なままタブレット端末が与えられた状態だと言える。
若者の読書離れが言われて久しい。最近では若者が漫画さえ読まなくなったとも言われている。読書離れどころか、文字そのものから離れている。すべては「写真・動画」だ。
つい最近の授業で、メディアを比較するために、新聞を読み比べさせた。授業の最初に、新聞を購読しているか尋ねると、クラス内に3人しか購読していなかった。そのうち新聞を読んでいる生徒は1人。ニュースをどこから得ているか聞くと、TwitterやInstagram、TikTokと大半の生徒が答えた。これが子どもたちの実態だろう。1人1台タブレット端末は、その流れに拍車をかけそうだ。
スマートフォンをほとんどの生徒が持っているのに、「1人1台タブレット端末」はいま本当に必要なのだろうか。配られた4000億円超のタブレット端末も、配られずに6億円超かけて保管され続けている「アベノマスク」も、全ては税金だ。生きづらさを抱えている女性たちの支援に、その分を回せなかったのか。「税の作文」は、子どもたちより、まずは政治家に書かせるべきだと税務署に提案したい。