大統領選を半年後に控えたフランスでは、次々と候補者が名をあげ始めている。そんな中、立候補の宣言はまだながら、2017年の選挙でのマリーヌ・ルペンに代わって、現職マクロンと決選投票を闘うかもしれないと話題になっている人物がある。「密売人のほとんどはアラブ人と黒人だ」など、差別的、挑発的な発言を繰り返すジャーナリストのエリック・ゼムールだ。
ゼムールは長年、「フィガロ」紙の政治記者として知られ、最近ではニュースチャンネルCNewsで政治解説を担当していた。シラクの評伝を書いたり、小説も発表している。エッセーは日本語にも翻訳されている(『女になりたがる男たち』新潮新書)。「雇用者はアラブ人と黒人を採用しない権利がある」、「フランスは30年来、イスラム教徒に侵略されて来た。コーランかフランス家を選ぶべきだ」などの発言を問題視され、何度も罰金刑に処されている。
死刑の復活を求めたり、移民の文化を尊重する「統合」に反対してフランス文化への「同化」を主張し、子どもには「フランス風の名前」をつけるべきなどの主張もしている。
キワモノ扱いして危険視する人々がいる一方、着実に支持者を増やしている。
ルペンは移民排斥を訴えるRN(国民連合)を率いて極右勢力の増大を印象付けたが、この10月末、複数の世論調査でゼムール支持の伸びが確認され、そのうちHarrisの世論調査では、ゼムールに投票するという回答がルペン支持を上回った。両方を足すと、極右への支持は33%に上り、マクロン支持の24から25%を上回る。単独でもそれぞれ共和党候補の10から15%を上回り、現時点で大統領選が行われた場合、決選投票に残るのはルペンかゼムールということになる。
左翼は、候補が社会党の現パリ市長のアンヌ・イダルゴ、エコロジー党のヤニク・ジャド、「屈服しないフランス」のジャン=リュック・メランションと乱立しており、その支持を足せば35から38%になるが、統一候補を立てられないので第一次投票で票が分散し、いずれも決選投票に残れそうもない。保守の共和党はまだ候補を絞り込んでいない。
興味深いのは、ルペンとゼムールでは支持層がみごとに異なることだ。マリーヌ・ルペンの支持者は女性、若者、貧困および低所得層、農村および地方在住者が多く、ゼムールは男性、高齢者、高所得、パリおよび近郊在住者が多い。
票の食い合いを起こさないだけに、両者の支持がまとまると脅威である。フランス人全体への極右傾向の浸透が感じられる。
ルペンにせよゼムールにせよ、極右候補が大統領になるのを阻むため、左翼支持者は早々に戦略的投票を行う意志を示している。その票のおかげでマクロン大統領が再選される見込みが大きい。
ところでゼムールは、「日本スゴイ」と言いたい人が有頂天になってしまうような発言をしている。
「手本にすべきは40年前から移民を拒んでいる日本。失業率3%、高い生産性、貿易黒字、完璧な治安、そして監獄には空室! 要するにこれらすべてがフランスには欠けている。」
RNの前身、FN (国民戦線)の創始者、ジャン=マリ・ルペンも相当だったけれど、どうして日本はこうもフランスの極右に愛されてしまうのだろうか!