アジュマブックスのブックトーク「根のないフェミニズム フェミサイドに立ち向かったメガリアたち」出版記念イベント
2021.09.19
韓国フェミの最前線に立った
無名のフェミニストたち
韓国社会を震撼させたオンラインから生まれた匿名のフェミニストたち「メガリア」。本書は、「メガリア」の女性たちが自らの戦いの記録をのこしました。
メガリアはオンラインの掲示板からスタートした匿名のフェミニスト集団です。女性嫌悪の凄まじいオンライン上の文化で、オンラインならではの手法を使って、メガリアたちはその存在を圧倒的なものにしていきました。
メガリアがはじめたことはたくさんあります。
ポストイット運動、ミラーリング、ポルノサイト閉鎖、オンラインフェミサイドの公論化 脱コルセット運動・・・。
社会変革の急先鋒になりながらも、メガリアは、リベラルな言論人や良識的なフェミニストからも批判され続けました。それは彼女たちがはじめた「ミラーリング」(女性への侮蔑語や、侮蔑行為を逆手にとるように女性嫌悪者に対する攻撃に転じる手法)が、政治的に正しいものとは限らず、その攻撃的な振る舞いはこれまでの女性運動とは全く違うものだったからです。
そのような「批判」こそが、いかに社会が、女性嫌悪の行為や言葉に慣れてしまっているかの証でもあるのですが、結局メガリアは、内部でも分裂を繰り返し、社会批判にさらされながら消されていきます。今はその変遷を見ることもできません。
本書は、ネットではもう存在が消えてしまったメガリアの誕生と、メガリアがなぜ多くの20代の女性たちを魅了し、韓国フェミニズムの中心的存在になったのかという背景が、実際に女性たちが「巻き込まれた」戦いを記すことで明かになっていきます。
「根のないフェミニズム」とは、「根本のない」という韓国語独特の言い回しで、「権威もなければ歴史もないのに最前線に立たされた自分たち」に対する自嘲的な意味も含まれています。メガリアは常に論争を呼び起こし、批判され続け、それでもオンラインから飛び出して実際に韓国社会の#MeTooを牽引し、フェミサイドと闘う急先鋒になっていくのです。
本書には、女性嫌悪表現をしている男性漫画家に対して「チンコ蛇」(男性にたかる女性を表す侮蔑語のミラーリング)と批判した女性が、その男性漫画家から名誉毀損で訴えられた事件も収録されていますが、日本でも性暴力を訴えた女性が提訴されたり、誹謗中傷に対してネットで抗議した女性が逆に提訴されるなどの事件も起きています。右傾化する社会で、女性は標的になります。そのようななかで、女性たちが連帯する意味、意義について本書は一筋の光のような存在になるでしょう。
もちろん、本書が「答え」ではありません。メガリアは、その徹底的な「女性主義」という立場でミラーリングという手法をとることで、繊細な議論が必要な性的少数者や、移民に対する韓国社会の差別や葛藤そのものも内包する危険性と常に隣り合わせでした。実際にメガリアは一枚岩ではなく、そのために何重にも分裂していきます。
そのような現実は、「女性」という経験による連帯の「希望」と同時に、「限界」も私たちに伝えてくれることでしょう。
本書は韓国フェミニズム出版if booksから出版されました。議論を呼び続け、右からも左からも批判され続けた「メガリア」の記録を本にする出版社が殆どないなか手をあげたのが、創立されたばかりのif booksでした。ajuma booksはシスターフッド出版社として、if booksと強い連帯を持っています。if booksのその強い思いに連帯し「根のないフェミニズム」の出版を決めました。
メガリアたちにインタビューして書かれたフェミニズムドキュメンタリー小説「ハヨンガ」は、本書「根のないフェミニズム」を読んだチョン・ミギョン氏が衝撃を受けて書き始めたものです。この二冊を読むことで、より韓国フェミニズムへの理解が深まると同時に、世界最大のポルノ大国であり、韓国よりもジェンダーギャップが下位をいく日本社会そのものの問題がより明確になります。
日本社会のフェミサイド・オンラインフェミサイドに立ち向かい、女性たちが自由に安心して、尊厳を奪われずに生きられる社会を目指すために、多くの方にこの本がとどくことを願っています。