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激混みの高額PCR検査、24時間のPCR検査を受けて見えてきたこと

北原みのり2021.07.15

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少し前のこと。ランチを一緒にした人が食事中にむせた。蕎麦をすすりながら気管にゴマが入ってしまったみたいだった。その時はたいして気にはしなかったけれど、その翌日に彼女からLINEがきたときは少し慌てた。

「昨日、職場で陽性確定者がでました。ワクチン接種したばかりだったのにデルタ株に感染しちゃったそうです。私は濃厚接触者とは認定されてないけれど、念のために会社が支給する民間のPCR検査キットで検査することになってます」

とのこと。その瞬間、彼女がゴホゴホッとむせた瞬間が脳裏に浮かび、ああもし彼女が感染していたら私も感染の確率は高いのだろうと、すぐに随分前に買っていた抗原検査キットを使用した。陰性の結果は出たが正直言えば抗原検査などは本当にはあてにならない。精度の低い検査なのにオリパラ関係者をはじめ、海外から入国する人はの検査が抗原検査であることは本当に大きな問題だとも思っている。ちなみに抗原検査は唾液で行うため、空港では唾液採取の場所に梅干しとレモンの写真が飾ってあります・・・すごいね日本。(写真は空港に飾られている写真です)


抗原検査で陰性は出たもののやはり心許ないので、ネットで申し込みすれば3時間以内に検査キットを持ってきてくれるサービスをネットで見つけたので申し込んでみた。デルタ株は検出はできないとはあるが、リスクはある程度分かるとのことだった。ただ・・・申し込んでみて、気がついた。ポチっとしたのはもう23時を過ぎていた。3時間以内に取りに来るといったら・・・深夜1時とか2時!?  そんな時間に民間検査会社の人が本当に来るのか? ポチってはみたものの焦りと後悔で落ち着かなくなり、友だちに「怖い」と連絡などしバタバタしていたのだが・・・果たしてその会社の人は午前1時30分に私の家の玄関の前までやってきたのだった。

インターフォン越しに会社名を告げるその人はバイク便のような装いで、ドアを薄くあける私に検体検査キットを手渡してくれた。日本語に韓国のアクセントがある若い男性だった。感染リスクの高い危険な仕事を、こういう若い外国人が請けおっているのかと衝撃を受けながら、印刷された指示書通りに容器に検体を入れ予約番号のシールを容器に貼り、二重のプラスチックバッグに入れて玄関前で待機していた男性に渡した。それで、終わり。「ありがとうございました」と丁寧におじぎをしながら彼は帰っていったが、なぜこんな夜中に、全く行政の手を借りられることもなく、というかどこに電話してもきっと無駄だという諦めを感じながら自費でこんなことをしなくてはいけないのか・・・という空しさに朝まで眠れなくなった。

結果がでるのは約半日だという。バイク便で受けとりに来てくれて検査までして料金は3000円とかなり安いものだと思うが、そもそもPCR検査など原価数百円だと思うと、適正な金額・・・なのかどうかは分からないが、これも都心部に住んでいればこそのサービスだ。都心以外のサービス提供は出来ないとHPには記されていた。

不快感ともやもやが募る。日本のPCR検査数は世界最低レベルだが、他国ではどうなっているのだろう。私が確認しているなかでは、やはり韓国ソウル市は圧倒的に行政のサービスが手厚いようにみえる。デルタ株の陽性確定者が増えているソウル市のHPでは、日本語で丁寧にソウル市が提供する無料のPCR検査場の案内が表示されていた。今、50箇所以上の無料の検査場ソウル市内にあるらしい。いつでもどこでも好きな時に何度でも不安になったときにPCR検査を受ける権利が外国人にもあるのだ。

一方、日本はどうなのだろう。東京都のHPでは韓国語のページもあるが新型コロナウィルスなど重要な情報は全く韓国語も中国語もフォローされていない。もちろん無料のPCR検査場など、街で見かけたことなどない。というかない。私たちがPCR検査を受けるためには医者や保健所からの「認定」がなければならず、というかそれですら無料ではなく保健でやるというだけだ。1500円程度の支払いが発生する。
東京都も陽性者が増えているが、それでも1日の検査数は6000件レベル(週末ともなれば2000件まで落ち込む)だ。しかもこの検査数は新しく疑いを持たれた患者に行ったPCR検査数ではなく、抗原検査や、回復した人が行うPCR検査も含まれている。つまり東京都が公開している検査数は検査した人数ではない・・・って怖くない?

デルタ株感染者が出たよ、という声が身近に迫っている。いつか自分もかかるかもしれないという危機感が日に日に深まっている。そして恐らく私のように感じている人は少なくないだろう。翌日私は、やっぱり念のために・・・と、PCR検査専門の医療機関の予約したのだった。ネットで表示されている価格は30000円とかなり高かった(NEAR法という15分で結果が出る検査方法に至っては40000円だった)。が、迅速に結果が出ていることとクチコミが良かったことなどもあり、背に腹は代えられぬという思いで出かけた。予約は15分おきでネットで受け付けていて、午前中はほぼ埋まっていた。

そして時間通りにその病院に行ったのだが・・・、一歩病院の中に足を踏み入れ思わずヒーッ! と声をあげてしまった。30人ほど入ればいっぱいになる院内にそれ以上の人がぎっしりと順番を待っていたのだった。しかもグループで来ている集団が賑やかに笑ったり話したりしている。予約できなくても検査できる、予約者が優先だから待ちますよ、ということはHPにはあったが、まさかこれほどの人が待っているとは想像もしなかった。そして30000円〜40000円という高額な検査だからだろうか、ぱっと見る限りほぼスーツ姿の男性ばかり、奥の方に髪の色が薄い一人ヨーロッパ系の女性がいた。院内には十分な換気をしていますという案内はあったが、窓もない地下の院内に長くとどまりたくないという思いの方が先に立ち、受付の人に「すみません、キャンセルさせてください」と急いでお願いして外に出た。外に出た瞬間、大きく息を吐いた。無意識に息を止めていたのだと気がついた。

都内の検査数の少なさの一方で、不安を感じている人、PCR検査を必要としている人はとんでもなく増えているのを実感する。そしてそれが今、巨大ビジネスにもなっているのかもしれない。

モヤモヤがつのり、都内で10000円代でできるPCR検査を申し込んだ。ここも予約枠が1つしか空いていないほど混んでいるのがわかったが、他の患者と交わらないような配慮がしっかりしている病院だった。さらに私が「保健所の診断は受けていないですが、濃厚接触の疑いのある人と濃厚接触しています」と不安を訴え、頭痛があることを伝えると医師が保険適用での検査ができると判断をしてくれた。検査を金儲けにせずに不安に真摯にこたえようと迅速に対応してくれる病院に出会えたことに感謝した。

・・・結局、私の結果は陰性だった。でも、その確定を得られるまでの時間はあまりに重たい時間になった。そのなかで見えたのはCOVID-19の検査ビジネスの巨大化だ。政治に救われることなく、不安を感じる毎にPCR検査を自己責任で行わなければいけない東京。たぶん、私の頭痛は、私が味わった不安や困惑、そして目の前で起きている事実が引き起こしているのかもしれない。
そして改めてつくづく思う。人々を守るための最低限の検査を放棄しているこんな都市でこんな国で東京五輪・パラリンピックなど、やっぱりできないこと、というか、してはいけないこと、ですよね!?

最後に。先日、フラワーデモと日本女医会が中心になって呼びかけている「私たちが止めるしかない東京オリパラ」のメンバーと、外国特派員協会で記者会見を行いました。その様子です。オリパラ開催によって感染拡大は間違いなくおこりますし、新しい変異株もこれまでの流れからすれば発生するのは不思議ではありません。だからこそ、やっぱり生活と命を守るためにも最後まで諦めず、東京五輪・パラリンピックを辞めてくださいと声をあげていきたいです。

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北原みのり

北原みのり

ラブピースクラブ代表
1996年、日本で初めてフェミニストが経営する女性向けのプレジャートイショップ「ラブピースクラブ」を始める。2021年シスターフッド出版社アジュマブックス設立。
著書に「はちみつバイブレーション」(河出書房新社1998年)・「男はときどきいればいい」(祥伝社1999年)・「フェミの嫌われ方」(新水社)・「メロスのようには走らない」(KKベストセラーズ)・「アンアンのセックスできれいになれた?」(朝日新聞出版)・「毒婦」(朝日新聞出版)・佐藤優氏との対談「性と国家」(河出書房新社)・香山リカ氏との対談「フェミニストとオタクはなぜ相性が悪いのか」(イーストプレス社)など。

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