東京で自分らしく暮らすこと そして韓流 第 18回「自殺対策その二」
2021.05.18
4月の東京の自殺者数は前年比で6割増だった。全国全体でも女性の自殺が4割増だった。長期化する日本のコロナ禍で、社会的抑圧を強く受ける立場への影響が鮮明だ。以前このコラムで書いたが、ウイルスは人から人に伝播して感染が拡大する。早期発見・早期保護・早期治療が感染症対策の基本のキだ。それを徹底できた地域はワクチンを待たずにゼロ・コロナ国となり収束した。アジア太平洋で最も失敗したのが本邦だ。PCR検査でもワクチン接種率でも世界で100位以下だ。女性の地位の順位と同機している。
昨年の日本の10代の自殺率は過去最悪だった。諸外国は世代別の死因トップは事故死だが、日本だけが若年1位が自死だ。孤立、将来の閉塞感、性被害。コロナ禍は若年層に確実に影響した。また丸川男女共同参画担当相は「全国のワンストップセンターに寄せられた2020年度の性暴力や性犯罪の相談件数が、前年度から23.6%増の5万1141件だった」と発表せざるを得なかった。彼女は、日本のワンストップセンター予算の大規模削減を政策として目下推進している政府与党の一員だ。新型コロナ感染拡大で在宅時間が長くなった影響で、近親者から受けた性暴力の相談が増えているのにもかかわらず。こういう政策が女性差別の国際ランキングを悪化させている。
筆者は高校時代、性的指向を理由とした凄惨ないじめ被害に遭い死を考えた。いろいろあって健康的とは言えないものの生き延びたが、そのサバイバル体験は医師の常岡俊明先生が言う「つらさの回避」という「自己治療」だった、と振り返って腑に落ちる。生き延びて中年になって、でもこれまで受けてきた暴力被害や喪失体験で一番つらいのは、悲しかった親友や家族の病死以上に、仕事でのサポートが終わった後も仲良くしてくれていた若者の自死だ。数年経った今も苦しく悲しい。自分の余命は未知だけど、意識がある限り学んだ喜びと痛みを感じて生きるのだと思う。
<常岡俊明(*):アナタの知らない依存症治療の世界~依存症治療のハマったさんにきいてみた!>
KARAのハラちゃんも同じ年頃で自死した。日本ほどの発生率ではないが韓国でも若年への影響が議論されてきた。筆者推しのSHINeeジョンヒョンも、命日が3度巡り3度過ぎて行った。残された我々は、ソロ音源やグループ活動の映像を胸に年齢を重ねた。今もいるような気がしては、あもういないんだと思い出して涙ぐむ。悲しみに蓋をして感じないようにするよりも、つらいけどジョンヒョンが伝えたかったことを今も考え続ける方を選ぶようにしている。ハラちゃんは元交際相手からリベンジポルノ被害に遭っていたそうだ。ハラの親友で、少女時代の妹グループf(x)のソルリも、悪質なサイバー・ハラスメントに遭ってうつ病に苦しみ自死に至った。
古くは同性愛をカミングアウト後、ネットの中傷書き込みで追い詰められて自死を選んだ俳優キム・ジフを思い出す。現在、石川優実さんが長期間受けてきた誹謗中傷は命に関わる。韓国では悪質なネット上の中傷書き込みを厳罰化するソルリ法、虐待加害者が近親者だった場合に相続権をはく奪するク・ハラ法が立法された。ク・ハラ法請願には10万人以上の署名が寄せられた。フラワーデモ同様、当事者の側に立って声を聴き、共に生きられる社会づくりが問われている。
筆者はマスコミにも要望がある。LINE速報で著名人が亡くなったニュースを通信社から広めるだけでなく、死にたい気持ちを強く抱えて、あるいは試みて一命を取り留めた人たちがどう過ごしているのか、どう生きているかについても、最低限でも同じ量、可能なら訃報を上回るだけ、メディアからのメッセージとして伝えてほしい。安全な環境で希死念慮を語るのは悪いことではない。崖っぷちで似た逆境経験を持つ人と共感することだって、もし死なないで済むとしたら何かが可能かもしれない、ともう一度考える力がもらえるかもしれない。Eテレ・ハートネットTVの『わたしはパパゲーノ 〜 死にたい、でも生きている人の物語』というシリーズでは中川翔子さん始め、匿名の自殺企図を経験した人々含めた証言を伝えている。また以下のような、死にたい気持ちが強い人のバーチャル居場所サイトもある。
ソーシャルグッド、と言う言葉がある。ソーシャルグッドの名の下に行われる支援には、力関係がある。弱っている人・救いを求めている人の弱みを悪用して、支援者の力で行われる加害には根深い構造がある。支援者だけでなく教師・医師・施術者・カウンセラーたちはみな、痛みを抱えた人に対して専門家として非対称な密室の権力を持っている。評判がある人ほど同業者が擁護するので、被害者への二次被害も深刻だ。日本でLGBT相談員をしている時に、筆者の流動的な性同一性を理由にした業務内でのパワーハラスメントがあり、職業上のトラウマ経験になった。上司に当たる加害者に(福祉業務歴はないものの)長い運動歴があって、コミュニティー内で定評ある活動家だったのでかばう声も強く、秘密を守れる第三者的な法律家に相談している。
人権法律家でもあるムン・ジェイン韓国大統領は、コロナ第三波が来た際国民に向けて不安にさせた責任を謝罪する会見を行い、真摯に時間をかけて向き合った。そして第三波は収束した。もし絶望の淵に立った人が、社会に信じられる制度や人がいなかったら、どれだけ深い孤独を感じるだろうか。公的でもプライベートでも安心できる人や居場所があったら、どれだけ生きやすくなるだろう。今の日本社会にはそれが足りていないのが、冒頭に示した統計のおひとりおひとりに影響したのではないだろうか。そして信じて助けを求めた相手に裏切られたら、どれだけ傷つくだろうか。
ラブピースクラブ代表の北原みのりさんと、今月のフラワーデモでも心強かった日本女医会理事の青木正美先生と、『ラジオでCOVID19』という、コロナ禍を生きる今をジェンダーの視点で語ることで記録していく夕刊便を続けてしばらく経つ。それぞれの職責で、コロナ禍の抑圧で影響を受けた人々に出会ってきた思いを記憶するために分かち合ってきた。今週の木曜(5月20日ですね)で10回目になるそうだ。毎月、前月の悲観をさらに大幅に下回る、あらゆる想像の斜め上を行く政府の悪策で、毎回新鮮な驚愕を共有してきた。プロフェッショナルの自分たちでこうだったので、おひとりで聴いてくれるリスナーの心配は想像に絶する。引き続き三人で力を合わせて、孤独を抱えた人たちの不安を聴き取る力を高める努力を続けたい。(5/20 木曜日 20時からです。ご参加下さい)
今日のラジオ: ラジオ夕刊便 COVID19の今を語ることで記録する