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 このところ海外の避妊と中絶の値段を調べていた。もちろん、以前から何度も調べてはブログに書き込んだりしていたのだけど、それを改めて見直してみた。

 たとえば、イギリスでは避妊も中絶も保険が適用されるので女性の97%が実質無料。外国人などで保険を使えない人の場合は、中絶薬を使うと480ポンド(約7万円)、外科手術で680~1510ポンド(約10万~22万円)を払う。

 フランスも、2012年に妊娠14週までの中絶費用は全額保険適用となったのだが、それ以前は「450ユーロ(約5万6000円)も払わねばなかった」と書いてあった。5万円で「高い」という感覚なのである。

 ドイツは強制カウンセリングと3日間の待期期間を経ないと中絶を受けられないが、それさえ我慢すれば、外国人でも350~500ユーロ(約4万4000~5万6000円)で中絶を受けられる。ただし、ドイツ国民は保険でカバーされる。

 カナダも中絶に保険がきくが、入る保険によっては自費になることもあり、その場合、中絶薬の1パッケージあたり300~450カナダドル(約2万7000~4万円)、中期中絶は450カナダドル~900カナダドル(約4万~8万円)だという。カナダの場合も「300カナダドルもするからすべての女性が選べるわけではない」ことが問題視されている。

 アメリカでは、妊娠初期の薬による中絶は平均504ドル(約6万円)だが、レイプや女性の生命に危険がある場合などはメディケイド(健康保険)を使える。

 一方の日本は、妊娠初期の中絶でたいてい10万円以上、中期の場合は20万円以上かかる。そればかりか、国から出る「一時金」に合わせて40万円以上の値段を付けている母体保護法指定医師も少なくない。海外とは大違いなのである。

 ちなみに、いわゆる「出産一時金」は、妊娠4ヵ月(85日)以上であれば、流産や死産、人工妊娠中絶に対しても払われる。そのために妊娠初期に中絶を受けに来たお金のない患者に、妊娠中期に入るまで待たせて中絶を行い、クリニックが「出産一時金」を得るという「中絶ビジネス」が新聞ネタになったことがある。

 「産科医療補償制度」に加入している分娩機関で分娩(妊娠22週目以降の“死産”を含む)すると、1児につき約42万円が支給されるのだ。この本来産んだ(死産あるいは中期中絶した)当人に下りるお金だが、それをまるまる懐に入れている医師たちもいる。

 緊急避妊薬(アフターピル)は、アメリカのオンラインショップ(つまり割高)の価格で「プランBワンステップ」という商品は33ドル69セント(約3800円)、「アフターピル」という商品は22ドル(約2500円)で売っていた。イギリスでは保険がきかない人の場合でも、前者のタイプは10ポンド(約1500円)、後者のタイプは15ポンド(約2300円)である。

 ちなみに、「プランB」は性交後120時間使用可能で、その期間内であれば時間が経ってもさほど成功率は落ちないとされている。一方の「アフターピル」の方は日本で認可されている「ノルレボ」という緊急避妊薬と同じレボノルゲストレルという成分を使っており、一般に性交後72時間以内に使用すれば8割が成功すると言われている。しかし、意外に知られていないのは、次のようにこの薬の成功率は時間と共に急激に落ちるということである。

  • 24時間以内 95%
  • 25-48時間以内 85%
  • 49-72時間以内 58%

 「緊急避妊薬は性交後72時間、3日以内にのめばいい」のではなく、できる限り早くのんだほうが妊娠を防げる率が上がるのだ。だから、「薬局で」販売できるようにするのはもちろん、処方箋をなくして女性たちが常備薬にしておけるようにするのが望ましい。そのため緊急避妊薬は世界90か国で店頭販売されている。

 ちなみに日本の「ノルレボ」は、後発品がなかった頃には1万円以上もしていたが、2019年にジェネリックが出たことで4000~6000円くらいで手に入るようになった。しかし、ジェネリックのことなど知らぬ顔をして、1万5000円~2万円くらいでノルレボを処方しているクリニックは今もざらにある。そして今も日本では緊急避妊薬には処方箋が必要なのである。(オンライン処方も可能になったものの問題は山積している。)

 低用量避妊ピルは、日本でも一シート(月々)2000~3000円程度とだいぶ安くなった。しかし今でも診察料や検査料が別にかかる。子宮内避妊具(IUD)は5年間有効だけど、挿入代も込みで5~6万円ほどかかることが多い。これも、たとえばイギリスのオンラインショップで販売されている低用量避妊ピルは15~20ポンド(約2300~3000円)くらいで、一見、日本とあまり変わらないように思える。しかし通常のイギリス人は、1961年に避妊ピルが認可された時以来ずっと国から無料で入手している。イギリスの子宮内避妊具は、保険を使えない人でも挿入代と合わせて100ポイント(約1万5000円)だった。日本に比べてだいぶ安い。

 こんな具合で、ざっくり言えば、日本は避妊も中絶も料金が高めだなぁとずっと思ってきた。ところが、今回、国連人口基金(UNFPA)が家族計画を支援している国々に提供している避妊手段の価格比較表を見つけて認識がすっかり変わってしまった。

 UNFPAは毎年世界各国で支援した1カップルが一年間に必要とする経費を避妊方法別に統計を取っている。2020年の統計表を見た私は、あまりの安さに目を疑った。

 男性用コンドームが2ドル75セント(約300円)、女性用コンドーム51ドル52セント(約5600円)、銅付加IUD8セント(約9円)、ミニピル4ドル49セント(約500円)、低用量ピル3ドル37セント(約400円)、緊急避妊薬5ドル17セント(約600円)、避妊注射3ドル34セント(約360円)、避妊インプラント2ドル49セント(約300円)といった具合なのだ。

 くりかえすが、一年間に1組のカップルに使われている避妊方法の経費である。女性用コンドーム以外は、いずれの方法でも年間数百円程度であり、緊急避妊薬は5.17ドル(約600円)と算出されていた。これは一回の費用ではなく、この方法で一年間に1組のカップルが妊娠を避けるために必要だとされる経費なのである。1個の価格はわずか26セント(約30円)になっていた。

 もちろん、UNFPAが示している金額は原価だろうし、しかも大量にまとめ買いをするためにおそらく世界最安値の域に違いない。それでも、ここまで安く供給可能なものだからこそ、世界では保険適用にしたり、無料で配布したりしている国もあるのだ。そういうことだったのかと今さらながら納得した。

 低用量ピルの費用が一か月分で2000~3000円、緊急避妊薬は6000円から下手をすると2万円もするような日本は、あまりにも世界とかけ離れている。ちなみに私はタイのバンコックの街中の薬局で普通に売られていた緊急避妊薬を購入してきたが、値段は55バーツ(約200円)だった。ここまで安いのは、おそらく政府がいくらか負担しているためだろう。

 中絶薬の方も驚くべき発見があった。世界保健機関(WHO)の必須医薬品コアリスト(絶対に揃えるべき必須中の必須の薬のリスト)に登録する際の申請書と思われる文書の中で、ミフェ・ミソの中絶薬のコンビ薬(ミフェプリストンとミソプロストールという2種類の薬のセット)の安さをアピールしている箇所があり、そこで示された最安値は3ドル75セント(約400円)、最高値は11ドル75セント(約1300円)だったのだ。

 日本で合法的に中絶を行うことを独占している母体保護法指定医師たちは、「病院経営のために」中絶薬の価格を従来の手術料と変わらないくらいに設定するつもりだという。世界の価格を考えると、とんでもない暴利である。女のからだで医師や製薬会社がぼろ儲けする制度はあまりにおかしい。

 国際産婦人科連合(FIGO)は、2021年3月18日の会議で「薬による中絶と自己管理中絶を妨げている法的障害」として、次の4点を指摘した。

  • 刑法で中絶を規制していること
  • 中絶薬が認可されていないこと
  • 中絶を医療機関で行うことを義務付けていること
  • 中絶ケアの提供に医療従事者は必須とすること

 これらすべてが日本はあてはまっている。刑法堕胎罪も母体保護法も、もはや時代にそぐわないものになっていて、日本の女性たちの権利を阻害しているのだ。

 自己管理中絶とは、妊娠を終わらせたい女性の元に薬を郵送するなどして、女性が自分の判断で薬をのんで行う中絶のことを指す。COVID-19(新型コロナウィルス)のパンデミック宣言があってから、フランスやイギリスなどいくつかの国で、感染リスクを引き下げ、医療のひっ迫を防ぎ、中絶へのアクセスを改善するために、臨時措置としてこの方法を合法化した。その結果、FIGOはこの3月、1年間、自己管理中絶を行ってきた国々の経験より、この方法が安全で有益であることが確認されたとして、臨時措置ではなく「恒久化」するよう宣言した。

 世界はもはやそこまで来ているのだ。世界標準の正しい知識をつけることで、日本の女性たちも自らの権利を主張していこう。

 

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塚原久美

塚原久美(つかはら・くみ)

中絶問題研究者、中絶ケアカウンセラー、臨床心理士、公認心理師

20代で中絶、流産を経験してメンタル・ブレークダウン。何年も心療内科やカウンセリングを渡り歩いた末に、CRに出合ってようやく回復。女性学やフェミニズムを学んで問題の根幹を知り、当事者の視点から日本の中絶問題を研究・発信している。著書に『日本の中絶』(筑摩書房)、『中絶のスティグマをへらす本』(Amazon Kindle)、『中絶問題とリプロダクティヴ・ライツ フェミニスト倫理の視点から』(勁草書房)、翻訳書に『中絶がわかる本』(R・ステーブンソン著/アジュマブックス)などがある。

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