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ドイツの秋の到来は早い。8月も半ばを過ぎると朝晩の気温が下がり始め、空気がすーっと冷たくなる。今年もそんな感じで、9月の半ばを過ぎる頃には日中の気温もぐんと下がり、雨と曇り空の日が続く本格的な秋がやってきた。数年前には10月の初めに残暑か? ということもあったけれど、今年はそんなことはなさそうだ。

日本でも寒くなると、風邪薬のCMがテレビで流れるようになるけれど、それはこの時期のドイツも同じ。「風邪の季節(Erkältungszeit)」がやってきたと、薬の広告や風邪の予防や治療対策の記事をあちこちで見かけるようになる。総合感冒薬のような風邪薬の他、日本では漢方薬がどこでも買えるけれど、ドイツで漢方薬というと、処方箋の下に漢方薬局で調合してもらうもので、日本のように製剤として一般的に売られているものはない。代わりにドイツでは薬草学、いわゆるハーブの効力を使った民間療法が昔からある。代表的なものは、ハーブティーやハーブ風呂。それに使うティーバックや入浴剤はドラッグストアやスーパーなどでも手軽に買えるが、より強い効果を求めたければ、薬局で調合してもらう。ちなみにドイツ発祥で有名なホメオパシーは、実は医療関係者の間でも賛否両論で、日独の医者いわく、薬草学の療法と重なる部分が効いているだけでホメオパシーは薬草学とは別物、その効果については臨床研究の証明はされていないのだとか。私自身は日本で買ってきた葛根湯などの漢方薬を服用しているけれど、ハーブティーの効果も信用している。

さて、そのドイツのおばあちゃんの知恵、とでもいうか、昔ながらの風邪の治し方をちょっとご紹介。
「なーんか、寒気がする、風邪っぽい!」と思ったら、まずは「風邪用の風呂(Erkältungsbad)」と書いてある入浴剤を入れた風呂に浸かる。そもそも普段はシャワーですます生活習慣なので、お風呂はリラクゼーションやケアという目的のちょっとした贅沢なのだ(それを思うと、日本の毎日風呂という習慣はなんという贅沢!)。このタイプの入浴剤はメーカーによって入っているハーブの成分が多少違うけれど、ユーカリやミント、松やモミの樹のオイルが主に使われる。その他カモミールやタイム、フェンネルなどのハーブも抗ウイルス効果があるそうで、それらが調合されたものを風邪の症状や気分に合わせて選んだり、自分でも調合できるレシピがインターネットでもすぐに探せる。松やモミの葉とか、ミントの葉なんて、そこらへんから拾ってきてお風呂に入れている人もいそうだ。

さてそのお湯に浸かり、汗をちょっとかくくらいまで体が温まったら、風呂上りに水分を適量補充。ここで温かいハーブティーを飲み、体が冷えないうちにベッドへGO! しっかり眠って体を休めれば、すっきり回復するよという、まあ至極簡単でまっとうな治し方である。そもそも体調が悪ければすぐに仕事は休む思考の国である。日本みたいに、熱があっても仕事を休めない、なんてことはないから、風邪を引いたらすぐに休め、の基本的な治し方で治るんだろうな。日本で解熱剤や総合感冒薬が売れるのは、風邪を引いてもがんばろう、という社会風潮が間違いなくある……。

さてハーブティーの方だが、こちらも各メーカーが「風邪用のお茶(Erk?ltungstee)」という名前で出していて、その成分は英語名でエルダーフラワーと知られているニワトコの花、そしてシナノキこと菩提樹の花を主に、タイムやフェンネルが加わったりする。こちらも各家庭に伝わる配合レシピがいろいろなところで紹介されている。私も風邪っぽいなあと思ったら、この風邪用のお茶のティーバッグを取り出すし、ちょっとした旅行にも持っていく。

ちなみにこの風邪用のお茶の他、咳、喉の痛み、胃腸の不調や泌尿器系、心臓系の不調、そして不眠や神経鎮静など、各種の体調不良に効くハーブティーが手軽に入手でき、我が家の台所の棚にも常に数種類を揃えている。なお、幼児用に成分量を控えめにしたものもあるので、家族全員の健康維持はこれで対応できるのだ。

その他にも、ハチミツにフェンネルのエキスを加えた咳止めシロップだとか、ハーブティーやお湯に精油を垂らしてその蒸気を吸い込む吸入療法、鶏肉を骨ごと煮込んだスープは病人食として定番中の定番など、まさにおばあちゃんの知恵とも言うべき民間療法が、本当に一般的に生活の中に浸透していて、家庭医からもアドバイスされるし、普段の友人たちとの会話でも登場するトピックなのだ。

さて今年はしかし、このコロナ禍である。日本と同じく、高齢者と低年齢の子どもたちへのインフルエンザ予防接種の推奨が大きなニュースになったりと、なんだか民間療法だけでは頼りない感じもして、ちょっと悩むところ。さらにドイツは10月半ばの秋休みを前に1日の感染者数が4000人を軽く超えるようになり、このままでは周辺国のように1万人を超えるのも時間の問題と、国立ロベルト・コッホ研究所が警告を出し、政府が厳しい制限策を出すまでになってしまった。気がつけば私の住む町もなんと危険地域になっていて、これからは店内や公共交通機関だけではなく、野外の公共の場でもマスク着用が義務付けられるようになるんだとか。とはいえ、街中の様子を見ていると、道を歩く人たちはマスクをしていないし、カフェやレストランでは一緒に食事のみならず、ハグの挨拶もしているし、これはもう感染拡大は避けられないだろうなと私は思っている。

我が家の感染対策は、民間療法と同じく、本当に基本的な衛生対策をしっかりやるのみ。マスクはもちろん、手洗いとうがいをまめに、規則正しく清潔な生活を送るしかできないよね。これでかなり防げると思うが、むずかしいのは小さな子どもで、大人ほどそこまでしっかりできないところから感染が広がるのかも、と一抹の不安はある。冬の子どもたちの間での感染拡大を防ぐために、冬休みを例年の2週間から4週間に延長するという提案も国会では出ているようだし、となるとロックダウンの時のようにまた保育が休みになるのか……、という不安も。ああ、頭が痛くなりそう。というわけで、頭のリラクゼーションのためのハーブティーでも飲みますか。おばあちゃんの知恵は心にも効くのだった。


© Aki Nakazawa
我が家で揃えているドラッグストアPB商品のハーブティー。手前から風邪に、胃腸の不調に、咳と気管支炎に、喉の痛みにとそれぞれに効くお茶です。一番左はヨギティーというアーユルヴェーダのお茶なのですが、これも風邪に効くと聞いて以来常備しています。3週間ほど前に保育先で風邪をもらってきた子どもから私、そして夫へと、おなじみの風邪の連鎖が起きた我が家。もちろんこれらのお茶にもお世話になりましたとさ。また買い足しておかねば。

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中沢あき

中沢あき(なかざわ・あき)

映像作家、キュレーターとして様々な映像関連の施設やイベントに携わる。2005年より在独。以降、ドイツ及び欧州の映画祭のアドバイザーやコーディネートなどを担当。また自らの作品制作や展示も行っている。その他、ドイツの日常生活や文化の紹介や執筆、翻訳なども手がけている。 

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