「秋美愛の名前がニュースで呼ばれるたびにドキッとするw」日本にいる友達からこんなラインがきた。秋美愛って誰だっけ??調べてみたら、韓国で法務部長官を務めるチュ・ミエ氏のことだった。韓国でニュースを見ていると、名前を漢字で表記することがないので、一瞬、誰のことなのか戸惑う。友達はチュ・ミエ法相と名前が似ているので、テレビで法相の名前が呼ばれるたびにドキっとするらしい。
チュ・ミエ氏の息子が兵役中に休暇などで特別扱いを受けたとされる疑惑は韓国では大きく取りざたされている。いま世界で人気を集めている男性ヒップホップグループ「BTS」のメンバーに対して、「兵役免除」もしくは「延期」という特例措置をとるべきか、韓国社会でも世論がまっぷたつに分かれているくらいなので、兵役中に政治家の息子が特別扱いを受けていたかもしれない、というのは韓国人にとっては大きな問題なのだと思う。でも正直、私はそんなに関心を持って見ていたわけではなかった。意外に思って「日本でも報道されてるの?」と聞いたら「ワイドショーでめっちゃやってるよ!」という。
調べてみたら、テレビ朝日で「韓国・チュ法相 不起訴の背景」って特集までされているではないですか。さらに、番組公式HPやファクスで、文大統領の政権運営についての質問まで受け付けていたらしい。日韓関係に影響のあるような話題でもないのに、なぜ……。
ネトウヨじゃないけど、「いったいどこの国のテレビ局ですか?!」と聞きたくなる。韓国で河井克行元法相の大規模買収事件なんて、少なくとも韓国ではほとんど報道されていないのに。少なくとも私は見たことがない。韓国が好きで韓国に行った私としては、日本で韓国に対する関心が高まること自体はすごくうれしい。でもこれらのニュースはそういう趣旨の関心じゃないということがはっきりわかる。
先日も有名俳優が自ら命を絶ったことについての関連記事で「韓国でも○○(俳優名)訃報に衝撃 防止策行うも自殺者減らぬ現状」、「韓国でも人気の○○ 韓国の芸能界で相次ぐ自殺の連鎖」って韓国の自殺についての記事が目に入ってしまった。ともに日本の大手出版社が提供するニュースサイト。文脈的に、韓国の自殺事情は関係なくない?出版社勤務の友達曰く、これらの記事は「コメント欄にネトウヨ、嫌韓コメントが入ることも込みでバズる」んだとか……。いつから日本のメディアはこんな惨状になってしまったんだろう。そしてその背後にいる視聴者を想像すると、もっとぞっとする。他人の悪口を聞いて溜飲さげるなんて、どこまで追い詰められているのか。
先日、OECD(経済協力開発機構)のコロナ後の経済に関する報告書がニュースになっていた。報告書によると、韓国の国内総生産(GDP)は0.8%減にとどまる見通しで、OECD加盟国平均が7.5%減、日本が6.0%減と予想されるなか、最も小幅なマイナス見通しだという。
文在寅政権はこれまで一般の市民に2回のコロナ支援金を給付したほか、コロナによる経済危機を乗り越えるため、6月に35兆ウォン(約3兆円)を超える3次補正予算を組み、9月にも7兆ウォン(約7040億円)の第4次補正予算案を可決した。1年に4回もの補正予算を組むのは1961年ぶり。第3次予算もコロナによるダメージを受けた企業の支援や雇用の確保にあてられ、第4次補正予算も小規模事業者と自営業者の支援に充てるそう。
前回の原稿にも書きましたが、韓国も9月にコロナの感染再拡大があり、ソウルを含む首都圏の飲食店は営業が夜9時までに制限されたり、決して楽な状況ではなかった。観光客向けの店舗が集まる明洞は相変わらずガラガラだし、観光客の激減だって世界の他の国と変わりない。にもかかわらず、経済へのダメージが比較的小さく抑えられたのは、正確に状況を把握し、こまめに国会を開いてその都度その都度やるべき対策をとる。政治が当たり前のことをしたからじゃないのかと思う。防疫を厳しくし、命を守ることと経済を回すことは対立事項じゃない。そのことがよくわかる。
一方で、コロナ渦で多くの国民が苦しくて国会を開いて対策をとってくれ!と求めていたのにも関わらず、国会も開かず補正予算も組まなかった国はどこなんだろう。経済を回すためといって、人の移動を制限することもせず、経済状況も悪く、10月になった今も1日577人(10月3日現在)もの新規感染者が出ているのはなぜなのか。私が今知りたいのはそういうことなんですけど!韓国について、多くの人が知るべきなのもそういうことではないの?ワイドショーは文在寅の政権運営について意見を求める前に、菅や安倍の政権運営について、24時間、意見や質問を募集した方がいいと思うのは私だけですか?
先週から日本語を学ぶ韓国人の大学生と言語交換をすることになった。彼は日本語や日本の文化が好きで、日本にも4カ月留学していたことがあるといい、今は韓国語翻訳で大江健三郎の小説を読んでいるそう。「いまは休暇をもらって韓国に来ている」と話した私に、彼はサラリと「貴重な休暇を韓国で過ごすことにしてくださり、ありがとうございます」と挨拶してくれました。こんなこと大学生で言える?!とすごく感動したし、自分が育った国を愛するってこういうことだよね、とも思った。私は逆の立場だったら、同じことが言えるだろうか。日本ではテレビはあまり見ないほうがいいよ、本屋に並ぶ本も油断できない。どうか日本で嫌な思いをしないでほしい、そればかりを心配してしまうと思う。そんな現状が悲しくてたまりません。