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痴漢被害防止キャンペーンポスターが軽すぎる!

牧野雅子2020.08.27

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警察の痴漢被害防止キャンペーンの話である。またか、と自分でも思いもするが、問題だと言い続けないと、もっとひどくなるのがわかっているから、またもや、書く。

新聞に掲載されて、その記事が話題になった、愛知県警の痴漢被害防止キャンペーンポスター

ゆるーい感じのデザイン、ファンシーなロゴ。真剣さがないというか、被害を軽視している感じというか……。
まず、目に飛び込んでくるのは「ちかんやめて!!」「ふれあいコール」の文字。「ちかん」と「ふれあい」? ああ、この文字面のおさまりの悪さといったら! 「ちかん被害相談電話」の名前が「ふれあいコール」で、その電話番号が[チカンハイヤヨ]の語呂合わせになっているらしい。「ちかん」と「ふれあい」。これ、犯罪被害者がかける電話の窓口の名前としてふさわしいだろうか。ネット上でも、この「ふれあいコール」という窓口の名前に怒っている声があった。

「ちかんやめて!!」「この言葉が言えず悩んでいませんか? 列車内での痴漢にお悩みの方はご相談ください。」
そして、そして、このコピーのおかしさをどう言えばいいのか。性暴力とかいう前に、言葉そのもの、文章はじめからやり直し! 
被害者は、「ちかんやめて!!」の言葉が言えないから、悩んでいるとでもお思いか? 言えれば痴漢被害にあっててもOKなのか? っていうか、犯罪の被害にあって悩んでいるっていう見方自体、おかしい。しかも、ご相談くださいときている。警察は取締りの権限を持つ公的機関なのに、痴漢被害をご相談レベルの問題だと言っているのと同じだ。

痴漢被害経験者がよく言う、被害にあっても声なんて出せない、というのは、声さえ出せれば大丈夫だということではない。
この啓発キャンペーンを紹介した新聞記事によれば、警察は防犯ブザーを携帯して鳴らすこともすすめているようで、これまたアタマを抱える。声を出せないのは、人に知られたくないとか、声を出した後に何をすればいいのかわからないとか、誰も助けてくれなかったらどうしようとか、迷惑がられたらどうしようとか、そういうことをぜーんぶひっくるめたことの表現であって、声が出ないという発声の問題ではまったくないのだ。声が出せなきゃブザーを鳴らせばいいじゃない、っていう話ではない。そういうことすら、説明してあげなきゃいけないのか。

痴漢対策などの防犯情報を提供するという愛知県警の公式Twitterアカウントの名称は、「愛知県警察あんあん情報ツイッターアカウント」。「あんあん」とは、「安心・安全」からとったものだというが、このネーミングにも、アタマを抱えてしまう。性的な意味で用いられる俗語でもある「あんあん」をあろうことか、性暴力関連情報を発信するアカウント名にしてしまうこのセンスはどうだ! 

この公式Twitterによれば、痴漢被害の防止ポイントは、触られたら「明確に拒否する」ことだという。すでに触られていて、ということは、痴漢行為は既遂なわけだが、なぜそこで「拒否」という言葉が出てくるのか。それ以上の被害を食い止めるために言っているのだろうことはわかるけれど、被害にあったら「拒否」しましょうというのは、まるで、痴漢されても加害者が途中でやめれば問題ない、とでもいうようだ。
公式Twitterでつぶやかれている痴漢対策では、目撃者に、犯人に声を掛けるようすすめているが、犯人を捕まえてもいいのか、捕まえるためのポイントや、誰に通報し、その後の手続きに要する時間はどれくらいかかるのか、その後の対応には全く触れられていない。被害者の自衛以外に、具体的なことは示されない。
こうした中途半端な啓発が、被害者非難に繋がっていくことを、どう考えているのだろう。相談や届出をする気力を削ぐために、全力を傾けているのではないかと思うほどだ。

以前は、警察は痴漢をびしびし取り締まります! と言っていたし、実際に、取締りが行われていた。
1988年に、大阪で地下鉄御堂筋線事件と呼ばれる性暴力事件が起きた頃、痴漢をはじめとする社会の性暴力認識はとても甘かった。現在の強制性交等罪にあたる強姦罪の法定刑が2年以上の懲役だったと言えば、当時の性暴力に対する認識の甘さが伝わるだろうか。ちなみに、現在の法定刑は、その後2度の改正を経て、5年以上の懲役になっている。
そんな、性暴力に甘々な頃ですら、電車の中の痴漢取締りはたびたび行われていた。地下鉄御堂筋線事件が起こる4カ月前の7月に大阪府警が御堂筋線で行った痴漢取締りでは、昼間、たった2時間の取締りで、痴漢行為で10人が逮捕されたという。私服・制服の警察官が駅やホームで痴漢行為の取締りを行っている様子も、頻繁に報道されていた。
今では、こうした痴漢取締り結果の記事や、取締りを行っているという警察発表も目にすることはない。それがなくなった時期を見てみると、痴漢事件の無罪判決が続き、痴漢といえば「冤罪ガー」と言われるようになった頃と重なっているのは、たぶん偶然ではない。

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牧野雅子

牧野雅子(まきの・まさこ)

龍谷大学犯罪学研究センター
『刑事司法とジェンダー』の著者。若い頃に警察官だったという消せない過去もある。
週に1度は粉もんデー、醤油は薄口、うどんをおかずにご飯食べるって普通やん、という食に関していえば絵に描いたような関西人。でも、エスカレーターは左に立ちます。 

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