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#MeToo 荒野になっちゃってる世界からの発信

北原みのり2020.07.17

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ソウル市長と直接会った人たち(「慰安婦」問題に関わる運動家や、政治家たち)に「どんな印象を受けた?」と聞くと、「いい印象しかない」と返ってくる。弁護士として「慰安婦」問題に関わり、弱い立場に置かれた人を政治で助けた。だからこそ、セクハラを告発された直後の自死を受け止めきれない思いでいる。

そんなことをアエラ.dotで記した。セクハラ告発された韓国ソウル市長が自死「なぜ男たちは極端な選択をするのか

今日、記事を読んだ読者の方から「分かりにくい点がある」とメールをいただいた。私が批判的に記した”男性の振るまい”についてだ。

性暴力問題に関わる男性研究者(60代)が「毎朝行くカフェで若い女性店員と目があって。恋心は大切」とうれしそうに言うのを聞いて、言葉を失ったことがある。

この男性の何が問題なのか具体的に知りたいと、メールには記されていた。曰く「老齢の男性が若い女性に恋心を抱くことは、逆も然り、一般的だと思う」「人間の当たり前の感情を否定しているように読める」と。その方は私を批判したいのではなく、「こういうことを書くと北原さんが損をする。この一つの例のために、全てが暴論に思われるのではないか」という視点で連絡を下さっている。ありがたいと思いながら、「人間の当たり前の感情を否定している」という ”指摘” に多少動揺したのも事実だ。メールを読み、じっと固まっていたら、あ、と思い出した。そういえばあの60代男性研究者自身も「何が問題なのか、全く分からない。人間なのに。」という反応だったな。

私は「言葉を失った」だけではなく、「配慮のない不愉快な発言です」と彼にすぐに伝えたのだった。私とこの男性は友達ではない。この発言は性暴力運動関係者の近況報告で、”微笑ましいエピソード”として語られたので、言わずにはいられなかった。それでもあの時、男性は私の発言に驚き、また周りの人たちは関わらないように慎重に見て見ぬふりをした。他の人から見れば、私は彼に”恥をかかせた”のかもしれないし、彼からすると「人としての当たり前の感情を否定された」と思われたのかもしれない。

彼の心象風景とはこのようなものだった。

毎朝立ち寄るカフェで親切な店員さんがいる。気がつけばよく目があう。もしかしたら向こうも私に少し特別な感情を持っているのかもしれない。最近は一言二言話かけてくれるようにもなった。ああ、幸せだ。人間は何才になっても、このような柔らかい感情を持ち続けたい。微笑ましい私の朝。

人に焦がれる熱情もセクシーな感情も、年齢に関係なくわき上がるときはわきあがるものだろう。もちろん、そのことを否定しているのではない。ただ、彼が楽しげに語る心象風景がほぼ痴漢、ということを、なぜ性暴力問題に関わる男性研究者が理解できないのか、ということに私は驚いたのだった。

女性として日本社会を生きている日常は、まさに”そんな眼差し”との戦いだ。
「この女、オレの隣に座った。オレのことが好きなのかな」と思われないように、なるべく電車では男性の隣に座らないように気をつける女性がどれほどいるか、あなたは知っているだろうか。男性の集団の前を通る時に、値踏みされるような視線の屈辱を全身で味わうような気持ち悪さを、どのくらい知っているだろうか。無遠慮に若い女を見つめる中高年男性の無礼な視線に、どれほどのストレスを味わっているか、ご存知なのだろうか。しかもそういう「眼差し」に過敏になることで、「自意識過剰になってんじゃねーよ、ぶーす!」と罵られるリスクに押しつぶされそうになることもある。女性に対する異常な認知の歪みの中で、平常心で生きるための技術を日々磨き続けるのが、この国を生きる女性たちだ。

メールを送って下さった方は、「老齢の男性が若い女性に恋心を抱くことは、逆も然り、一般的だと思う」と記していた。
「逆」の意味が分からないが、恐らく「老齢の女性が若い男性に恋心を抱く」ことを「逆も然り」とはこの文脈では言わないと思われるので、「若い女性が老齢の男性に恋心を抱く」こと指しているのだろう。それは「一般的」なのか? と動揺した私は、会社のスタッフ20代、30代に聞いた。「カフェで働く若い女性が、客の老人を好きになることって、一般的かな?」 みな、乾いた笑いの後に「ないないないないないないない」と延々言い続けるのだった。それからじわじわと怒りが沸くように、こんな話をする。

「そういうオジサン、怖いです。私もそういう目にあったことあります。無駄に親切にしなければよかったとどれだけ後悔したことか」
「見惚れたとしても、『気持ち悪いと思われてないか』『見つめすぎちゃってごめんなさい』とか、そういう気持ちになると思う」
「自分より数十才若い人に見つめられたら・・・まず自分の顔になにかついているかとか、自分が変なのかと不安になる」

と次々との大否定が・・・。これは「恋心」という人間の感情を否定しているのではなく、「恋心」の名で許されてきた数々のハラスメントの経験が、私たちを雄弁にさせているのである。
もちろん、「老人は恋すんじゃねーよ!」というエイジズムではなく、エイジズムのターゲットに最もさらされる女としての怒りを滲ませているのである。
当然、年の差カップルを否定しているのではなく、年の差の大きなカップルの殆どが男年上女年下(加藤茶以来、”茶婚”と呼んでます)の構造にもやもやするからこその、戸惑いなのである。
ジェンダーギャップ指数は、経済力、社会的地位、教育などが数値化されているがここに「自信」というものを入れたら、日本のジェンダーギャップは、121位どころではなくなるかもしれない。「私は男なので」と生きてこられた日本社会男子の「自信」と、「女のくせに」というミソジニーな飛沫を浴び続けた日本社会の女の「自信」。それは、そちら側からみれば「恋」なのでしょう・・・でもね・・・という話だ。

私が「それは問題発言」といった時、その男性は「わからない」と言いながらも、その発言を引っ込めた。「あ、めんどうくさい人と思われた」と思った。フェミニストは、ポリティカルコレクトをふりかざし、人間の愚かさや、非合理なふるまいや、抑えられない感情を否定する、正しく清くあることを誰にも強いる者たち・・・と思われたんだろうな・・・と。
何度もそういう思いをしてきた。例えば性産業を構造的な問題として批判的に語れば「性産業で行われているのはただの性交ではない。人間と人間の心がぶつかるようにふれ合い、痛めつけられている者たちが癒し、癒される場でもある」(「万引き家族」で描かれたような性産業のイメージ)で返されることなども含めて。まるでこちらが”正しさ”に囚われるあまり、繊細な感情のひだが理解できないかのような立ち場に立たされるような居心地の悪さ。

いえそうじゃないんですよ。こちらから見えている世界を、話しているんです。自分の言葉で、自分が見えているものを、実況中継しているようなものなんですよ。なぜなら私からみれば、この世界はずーーーっと、男語りでつくられてきてきたから。文化も、法律も、医療も、セックスもなにもかもね。13才の女の子だってオジサンや父親とセックスの合意するかもしれない、人間とはそういうものかもしれない・・・みたいな「男語り」の性犯罪刑法にだって、うんざりしているんですよ。だから今、もう語らなきゃいけないよ、って#MeToo始まってるんですよ。だって、そんなそちらの妄想で、こっちの世界、ずいぶん荒野になっちゃったんで。豊かに優しく心地良く乱れるためにも、もう少し、想像力というものを持っていただきたいんですよ。そんな話なんですよ。

ということで、ご理解いただけたかどうかははなはだ不安ですが。メールを下さった読者の方への返信にかえさせてください。

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北原みのり

北原みのり

ラブピースクラブ代表
1996年、日本で初めてフェミニストが経営する女性向けのプレジャートイショップ「ラブピースクラブ」を始める。2021年シスターフッド出版社アジュマブックス設立。
著書に「はちみつバイブレーション」(河出書房新社1998年)・「男はときどきいればいい」(祥伝社1999年)・「フェミの嫌われ方」(新水社)・「メロスのようには走らない」(KKベストセラーズ)・「アンアンのセックスできれいになれた?」(朝日新聞出版)・「毒婦」(朝日新聞出版)・佐藤優氏との対談「性と国家」(河出書房新社)・香山リカ氏との対談「フェミニストとオタクはなぜ相性が悪いのか」(イーストプレス社)など。

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