出勤前にテレビをつけると、「スピード感を持って進めてまいりたいと思います」と、この国の首相なんだかなんなのか、よくわからなくなってしまった人の声がしたので、テレビを切ってしまいました。
っておい、もう五月だよ。すごいスピードだな、素人の私の目には見えないくらいの速さだよ。さすがプロは違うね、なんて。
職場の本屋では、非常事態宣言に伴って、四月の半ばあたりから時短営業を始めました。
いま、開店時刻と閉店時刻をそれぞれ二時間縮めて、営業時間は八時間と言ったところです。
社員にはフルで入ってもらって(申し訳ない)、アルバイトスタッフは4~5時間の交代制、レジカウンターにはスーパーやコンビニみたいにビニールシートをぶらさげ、スタッフ用のマスクとアルコール消毒のハンドジェルを完備……したものの、これらが感染拡大防止につながっているのか、と考え始めると微妙なところです。
なぜならお客が増えたから。
近辺の大型書店が軒並み休業したことが原因かと思われ、時間を短縮したのに売り上げが伸びて、なにここ繁盛店? という賑わいを見せています。
加えて、普段なら訊かれない専門書やテキストの問い合わせに、「今日は営業してますか電話」がひっきりなしにかかってきます。
スタッフを減らして労働時間を短くして、人との接触を減らそうという意図もありましたが、逆効果になりました。
それこそなんでもスピーディーにこなしてくれる当店の精鋭たちをもってしてでも、手に負えない状況です。それでも笑顔でていねいに対応してくれている彼女たちに比べて、どんどん無愛想になっていくのが店長である私の対応となります。
営業時間の問い合わせ電話など、同じ内容が続くとぶっきらぼうな対応になってしまいます。
そのなかでも、なんなんの? と思うのが、欲しい本があったら買いに行くけどなかったら行かない、という合理主義者の問い合わせです。来るなら来る、不安なら家から出なければいい。電話一本で仕事を増やさないでほしい。こっちだって不安倍増の中、いろいろな判断や決断をして店を開けてるんです。なぜそんな、「おんぶに抱っこ」みたいなことを平気で人様にできるのか。
つい鼻息が荒くなってしまいました。すみません。
世界がこんなことになっていなければ喜んで対応します。ほんとか。
そんなとき私はいつも、すべての市民に、スーパーのレジ打ちか、居酒屋のホールか、ビルの清掃の仕事を三年以上義務付けるべきだ、と思ってしまいます。そこから教師や医者や政治家が生まれるのであればなおのこと結構、くらいの極論です。
あと来店者数でいえば、地下街や百貨店も閉まっているので、行き場をなくした人たちが増えたともいえます。
「だから家にいればいいのに」とかみつくのは、居心地の良い家がある人でしょう。なんとなく今、シャッター街となった繁華街を出歩いているのにおじさんが多いのはジェンダーの話かもしれません。
数は減りましたが、開けている飲み屋もあります。
感染拡大の影響があるにもかかわらず、店を開けていてよかったな、と思うことのひとつは、人と話す場があるということでしょうか。
公衆衛生上にはいけてないが、精神衛生上にはかなっている。
それでもマスクから鼻を出しているおじさんに近距離で問い合わせを受けるときには、「おい」と思ってしまいますが、高齢者には聞こえるように話さないといけないし、お互いマスクで、しかもその間にシートがあるとソーシャルなんとかもなかなか困難です。
あと気になっているのは、毎日のルーティーンで店に来る、自閉症と思われる男性たち。宣言の後、姿を見せなくなっている人もいて、家でストレス溜まってないか心配です。
本を売っているだけじゃないという感傷と、本を買う人がこんなにいたのかという驚き、そんな思いが入り混じりながら、このまま大型書店が潰れてくれたらウチも持続可能になるのにな~、という黒い算段も生まれます。というか、個人経営の専門書店(あるジャンルに特化した本屋)がたくさんあるほうが、出版業界の健全化につながると思いますがいかがでしょうか。って、おーい、誰に。
先日は、閉店間際にほろ酔いで来たオッサン二人組がマスクを顎にひっかけて、「ここはヒダリだからよぉ~!」と大声で笑いながら入ってきたので、カウンター越しに鼻までマスク姿で凝視していたら一瞬で出て行きました。殺してやろうか、と思いました。