YURIさんのフェミカンルーム66 新型コロナとオンラインカウンセリング
2020.04.30
今日も静かにうちにいる。そろそろ1カ月、ひきこもり時間がゆっくり過ぎている。
3月末でこれまで引き受けてきた仕事をいくつか整理して、ひと区切りをつけた。4月から当面1年ほど、スケジュールにしばられない自由な時間をもつことにした。旅をしたり、家を片づけたり、やりたいことをゆっくりやろう。忙しいから、と言いわけせず、後回しにしてきたことにも時間をあてよう。これからやりたいことを、時間とエネルギーを考えて選びなおそう。そう、楽しみにしていた春だった……。
緊急事態宣言と同時に、所属するカウンセリングルームは自粛休業することになった。
3月はすでに全国一斉休校で学校や自治体主催の講演会、研修が軒並み中止となっていた。とはいえ、カウンセリングはキャンセルや様子見の延期がありつつも、私もまわりも、ボツにならないスケジュールはこなして動いていた。
今思えば、3月フラワーデモは開催できたし、実父から娘への性犯罪事件で逆転有罪判決を取った名古屋高裁前応援スタンディングも、ギリギリのところで行動できた。あの日、あの場に居合わせることができて本当によかったとつくづく思う。
うちにいる時間が長いので、ついニュースや報道番組を見てしまう。特にBS-TBSの「報道1930」は夜の定番。キャスターも進行もゲストもなかなかいい。高畑百合子さんのファンになった。
新型コロナウィルスの脅威、世界各国の蔓延のすごさを時々刻々見せつけられる毎日。
コロナに国境はない。でも、はじめは多くの国が対岸の火事と見ていた。先進的に対策を取っている国があったというのに、世界中があっという間に危機に陥っている。
すでに終息し始めている台湾や韓国は、世界のモデルと言われるだけのことをしている。ドイツやニュージーランドなど、女性リーダーが発するメッセージはうわべだけじゃない。わかりやすくてかっこいい。その姿や言葉を見聞きするにつけ、この国への落胆度が増していく。
韓国のカン・ギョンファ外相のBBCインタビュー(2020.3.16)の言葉が耳を離れない。
「わが国は国民が政府に求めるレベルが高い。まず透明性。証拠と科学で行動しなければならない。国民にすべてを見せて納得してもらわないといけない」と、実に毅然とかっこよく言いきった。そうなの、日本にその科学的根拠を示したスピーチをリーダーが心を込めて話をしたことがあっただろうか。
日本政府の悠長な対策と専門家会議の無責任さにつきあわされて、わかっていたつもりでいたけど、ここまで無能無策とは……。世界で、日本の医療体制がこれほど脆弱だったとは……思いも寄らなかった。
これまで見えなかったことや、隠されてきたことが、それほど関心もってなかったことまで、そう、見えてきちゃった。たくさんのことが暴露されちゃったね。
この国ではまだこれから先、何が起こるかわからない。信用できないことだらけ。リーダーを信用できないのに、政治家にもメディアにも、言っていること、発表されていることの何を信じることができるというのか。
私たちはまもってもらえないかも、見事に切り捨てられちゃうかも。いつ自分ごとになるかもしれない。
そう思っていた矢先、同世代の女優岡江久美子さんがコロナ感染で亡くなった。病気治療中で免疫力の低下があったと聞くと、やはりひとごとじゃない。
この1カ月、散歩と買い物以外はできるだけ家にいる生活を送っているのは理由がある。わが家には昨年二度も緊急入院した基礎疾患もちの相方がいるから。来月も手術の予定があるというのに。1カ月先、医療体制がどこまで保障されているだろうか。診療拒否だってありうる。もし感染したら、たぶんアウトだろう。そう、覚悟している。
カウンセリングは4月から当面オンラインで開催できるよう急いで準備を進めた。
どこも同じだけど、フェミカンルームも休業閉鎖再開のめどは立たない。ゴールデンウィーク明けの解除なんて、明らかにムリだろう。対面面接が基本の仕事だけど、今はそんなこと言ってる場合じゃない。ただ、すでにつながっている継続相談者に限定して始めてみることにした。
継続相談者であっても、こちらから連絡を取るのが難しい人、取りにくい人は少なからずいる。。
DVやモラハラ、虐待を抱えて、問題の出口を模索する渦中の人にとって、相談が中断してしまい、その後どうしているかが気になる。この厳戒自粛生活のせいで、厳しい状況が加速していないだろうか。
まだ同居中だったり、別居中だったりしても、経済的な遠隔操作でコントロールされているケースもある。暴力の加害者が一日中家にいる状況では、何が起きるか、起きているか、加害者のストレスのはけ口、矛先がどこに向かうのかは明らかだから。連絡を取ることさえ難しいとしたら。
最悪の事態を、そして危険を回避できているだろうか。
家にいる=24時間の監視・監禁状態を思うと、今、ちまたであふれる「ステイホーム」のかけ声がなんだか軽々しく聞こえてしまうのは私だけだろうか。
暴力を、その危険を過小評価してはいけない。
電話でもSNSでもメールでも、なんとかどこかにつながってほしい。検索したら、情報は出てくるようになっているから。
国や民間機関、団体が、独自のヘルプラインやSNS相談に動き出している。「DV相談+(プラス)🎀」も始まった。ミリ単位でしか動かなかった分野だけど、スピード感があると思う。
https://soudanplus.jp/
これ、#WithYouの追い風かな。女性への暴力や性犯罪に対する抗議や抵抗の声が、少しずつ少しずつ、社会変容を起こしていることの形かな。
オンライン面接はポツポツ動き出している。
でも、シングルか、別居で物理的距離が取れている人がほとんど。自宅でコンタクトできて、誰にも邪魔されないで話ができる安全があってこそ。この環境を確保できるかどうか、ここが一番難しい。家族全員が家にいるなかで、自分だけの時間をどうやって確保できるのだろうか。
つながることができない人がいるジレンマを抱えながら、連絡があることを待ちたい。
一時的な非常事態下でのオンライン面接という舵の切り方だけど、やってみると見えてくることもある。巣ごもり状態だからこそのつながる安心感、顔を見て話せる安心感、状況の確認もでき、そして感染のおそれもないこと、交通費と時間の負担がないことなどもメリットがある。
カウンセリングは対面だからこそできることがある、お互いに向き合うからこそ、双方向でリアルに問題に取り組んで深めることができる。そこが電話相談との違いだと、そう思ってきた。でも、画面を通して話すという違いはあるけど、そう悪くはないみたい。
4年越しのクライエントAさんとは、3カ月ぶりの(オンライン)面接。
「あ~、つながった。よかったー、元気だった?」
画面越しの顔はちょっと照れくさそう。3カ月無事に過ごしていたようだね、様子がわかってホッとした。2月以降、感染をおそれてキャンセルしたままだったから。
性被害や虐待のトラウマ(心的外傷)に向き合って、苦しかったこれまでを過去のことにしたいと自分を取り戻しつつあるAさん。
「ここまでよく頑張ってきたもの、大丈夫そうだね、また会おうね」
カウンセリングルームとは違う、プライベートスペースでのオンライン面接も悪くない。
10年の長いおつきあいのMさんは、オンライン終了後、感想が届いた。
「感情の面で普段の環境からアクセスできるので、私には利点が多かった。通常のカウンセリングだと、週末、休みの日に電車に乗って華やかな大きな街に出て、というプロセスを経ることで、「ハレ」と「ケ」が入れ替わってしまい、せっかくルームに着いても、普段悩んでいることの焦点がぼやっとしてしまったり、遠くに行ってしまったりするような感覚があった。ある意味“電車に乗っておでかけ”みたいな、一大イベントになっているということです。そういう意味でオンラインだと自宅からだし、私の場合は職場にも距離的に近いので、普段の感覚にシンクロしやすいと思いました」と(そのまま引用、了解あり)。
なるほど、そうだったのね。
ルームでおこなわれるカウンセリングは、「オン」と「オフ」の切り替えができる特別な自分時間と場所でもある。Mさんありがとう。今度はこのことを含めて話そうか。