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しっかり買い物カゴを握りしめ、コロナが曝いた日本の性差別を許さない。

北原みのり2020.04.25

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「女の買い物は長い」(大阪市長談)

当たり前だ。買い物は吟味すること、その過程の喜びと知の行為なのだ。思考しているから、時間がかかるのである。どこかの政治家みたいに、判断できなかったり改竄したり隠蔽するために時間がかかっているのとはわけが違う。

鮮度はどうか、産地はどこか、ああ立派なタケノコだ、予算はあるか、今日は魚か鶏肉か、味噌汁の具はどうしよう、卵が切れていたな、あれもうさくらんぼがあるよ! 食べたいけれどこれは一月後のお楽しみにしましょう・・・・。
美味しいものを食べたい、食べさせたい、ちゃんと生きたい、健康のことを考え、命を考えるからこそ、私たちの買い物は「考えずに機械的に買う」野蛮とは違う。スーパーに通う女性の日常を見ることもできない男が政治家として女性を見下す発言をし、嘘や暴言や差別をまき散らしながらも税金で食ってる野蛮な国であることは知ってたけれど、もうこんなせっぱつまった状況で野蛮が政治しているのはまずいと思う。

大規模なパンデミックによって、今、他国のリーダーの力量や発言、その政策を、自国のそれと簡単に比較できる状態だ。やはり納得いかないのは、韓国や台湾よりも、日本は最初の感染者を出しているのに、なぜここまで差が出たのかということだ。
熱があるのに検査もできず、マスクも手に入らず、一人路上で、一人家で死んでいく人が何人もいる。補償も約束されず商売自粛しろと言われ、言うこと聞かなければ名指しで批判され、石を投げられる。今の日本で生きていることは、かなり残念なハズレクジ(命の危険あり)をひいた感が募るが、パンデミックが浮き彫りにした「現実」をしっかり見つめなければと、買い物かごを握りしめる。

先日、東京新聞で、都内の感染者の年代別の男女の感染率の違いがグラフ化されていた。

※東京新聞(4月20日)

また、twitterでこういうグラフをつくっている人もいる。これは人口比のグラフにコロナ感染者を年代、性別でわけているものだ。

私自身でも23日の東京都福祉保険局で公開されている数字から、男女別に年代でまとめてみた。

女性 10才未満21人 10代31人 20代300人 30代281人 40代179人 50代195人 60代116人 70代124人 80代95人 90代54人

男性 10才未満23人 10代19人 20代304人 30代397人 40代452人 50代389人 60代261人 70代211人 80代92人 90代21人

40代は感染者の8割が男性で、これは他の世代に比べ最も高い割合になっている。50代は7割が男性。これを世代別の人口比のグラフと重ねたのが杉本氏@sugi2000 のもので、このグラフによってより、よりこの数字の歪さが際立つのがわかる。40代50代より20代は人口が少ないのに、感染率は女性に限って20代の方が圧倒的に高いのだ。 

いったいこれはどういうことなのか。念のためにUN Women(国連助成機関)のHPをみて・・・本当に驚く。WHOによる年代、ジェンダー別の感染者数のグラフだ。(青い棒が女性)

「ウィルスは差別しない」
国連女性機関 のHPにはそう明確に書いてある。
男女の感染率は変わらず(どういう理由かまだ分かっていないが、男性の方が重症化し、致死率が高い傾向はある)、世代でいえば男女問わず50代が最も感染している(世界では)。世代別の人口は各国で違うので一般的にならすことはできないけれど、それでも、世代で男女の感染率が極端に違うということは、その国の社会的状況を表しているということだ。なぜなら、ウィルスは差別しない、から。

先日、NHKでこのデータが取り上げられていたときは、「20代女性に接客業が多い」ことが一つの要因ということがサラリと言われていたが・・・サラリと言うことじゃないだろう。
立憲民主党の男性議員(50才)が外出自粛が求められるなかセクキャバに行ったことが報じられていたけれど、20代女性にお金を払って、または無料で「癒してもらう」ことを当然と考えている中年男性の「日常」がこの社会にはある。男にとっては「癒し」かもしれないが、若い女性側からすれば「搾取」であることが明かにされていても、未だに、ある。
また、40代、50代の女性が男性に比べて感染していないのは満員電車での通勤しない仕事に就いている人が多いことも、関係しているだろう。「家事」と「仕事」の「両立」、またはどちらかを「選択」するような生き方を女性に強いる社会故に。

韓国に暮らす友人から連絡が時々くる。今、韓国では日常が戻りつつあるという。今週は一日の感染者数が20人程だったという。
韓国は、とにかく「事実」こそが人々を救う、という立ち場に立った。だからPCR検査を迅速に数多く行う政策を打ち出した。ドライブスルー、ウォークスルー、街角での検査受付。不安を感じる人が迅速に検査できるように動いたのだ。それは、多くの高校生が犠牲になったセウォル号の教訓が強く意識されている。事実を明かにすること、議論の過程を透明にすること、迅速に動くこと。事実が人を救うという、徹底した態度で実際に国を救ったのだ。

一方の日本は、人類史上最悪の原発事故を起こしたにもかかわらず、その後、事実はより不透明に、議論の過程もより不透明に、人命以前に経済優先・オリンピック優先で政治が動いてきた。その延長に今がある。今回も「事実」を見ないことでパニックを防ぐという対策を取った。オリンピックの開催にこだわり対策は完全に遅れた。マスクの枚数と予算が合わないことを福島みずほ議員が指摘してくれたが、事実は曖昧に闇の中にある。条件の厳しい30万円の給付金が一律10万になったことはありがたいけれど、その議論の過程は誰も知らない。不透明で、不誠実で、どのような決定がどのようにされ、私たちの税金がどのように使われているのかが、見えない。「事実」が分からないのだ。

それでも不思議なことに、事実は不透明なまま、「真実」はコロナ禍のもと浮き彫りになりつつある。どこかの市長の差別発言しかり、感染者のジェンダーの偏りしかり、こんな風に、ぽろぽろと日本の「真実」が明かになっている。日本という国がどういうレベルのどんな国なのかという真実だ。
それはそれは目を背けたくなるリアル。それでもここでしっかり目をあけて、買い物カゴを握りしめて命を守りたい。人から預かった金をしっかり吟味し、真剣に丁寧に慎重に使う政治家じゃなきゃ、だめでしょう。「買えよ」とアメリカに言われてほいほい武器やらオスプレーやらを何台も何も考えずに買い物カゴに入れるような、そんな男政治家ばかりいるから、こんな風になっちゃったんだし。

今日も財布を握りしめ、人との距離を考えながら、なるべく滞在時間を短くしながら、数日分の献立を練りながらスーパーに向かう。そんな日常を送りながら、スーパーで思考し買い物をする人たちが政治の場に立つべきなんだよと、強く思う。そういう声が見える人が、政治に立つべきなんだよ、と強く思う。

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北原みのり

北原みのり

ラブピースクラブ代表
1996年、日本で初めてフェミニストが経営する女性向けのプレジャートイショップ「ラブピースクラブ」を始める。2021年シスターフッド出版社アジュマブックス設立。
著書に「はちみつバイブレーション」(河出書房新社1998年)・「男はときどきいればいい」(祥伝社1999年)・「フェミの嫌われ方」(新水社)・「メロスのようには走らない」(KKベストセラーズ)・「アンアンのセックスできれいになれた?」(朝日新聞出版)・「毒婦」(朝日新聞出版)・佐藤優氏との対談「性と国家」(河出書房新社)・香山リカ氏との対談「フェミニストとオタクはなぜ相性が悪いのか」(イーストプレス社)など。

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