リアルタイムでテレビ番組を見なくなって久しい。見たいテレビ番組のほとんどを録画で見ている。リアルタイムに流れている時間に自宅にいないのと、番組の合間に流れるCMを見たくないからだ。
ジェンダーの視点でチェックするとアウトなCMが大半で、リアルタイムでテレビを見ていると、間違いなく血圧が上がる。録画ならCMを飛ばしてみることができるので、ストレスが軽減される。
2月1日は「メディアチェックの日」と日教組が位置づけて、毎年この日を中心にメディアチェックをしている。
そこでいつもなら飛ばしているCMを、久しぶりにじっくり見てみることにした。番組すべてを網羅するのは時間がかかりすぎるので、いつも録画して見ている深夜のニュース番組と、昼のドラマの間に流されるCMを分析してみた。
まずは深夜のニュース番組。CMを分析する前に、ニュース番組自体をチェックしてみた。
番組の視聴者の大半を、男性と想定しているのかもしれない。報道するキャスターは若い女性が2人、解説するのは年配男性だ。このニュース解説者、年配女性にはほとんどお目にかかったことがない。報道の世界はまだまだ「男社会」なのだろう。
報道されたニュース内容は、新型コロナウィルス、「桜を見る会」の公文書、楽天の送料無料、カジノ汚職、コンビニエンスストアの新しい形態、東京オリンピックのマラソンのチケット代金返金。
ニュース画面に登場した人物は、すべて男性だった。よくも悪くも女性はニュースに登場しない。「トップに立ったり表に出たりするのは男性」というメッセージを、ニュースが送り続けている。
続いて、スポーツニュース。野球のドラフト・ルーキー、バドミントン、柔道、飛び込み、水泳。報道されたスポーツ選手は、女性2人、男性4人。報道された時間も圧倒的に男性のほうが長い。人数も時間も男女半々にはなっていない。スポーツでも注目されるのは男性選手が多い。
CMはどうだったかというと、このニュース番組の間に流れたCMの本数は39本。そのうち女性のみが登場したのが4本、男女は16本、男性のみが16本、その他が3本。
女性のみのCMは極めて少ない。しかも女性のみのCMでも、中身を見てみると、「娘と息子と夫の体調を心配している妻」や「運転の下手な女性」として登場。旧来の女性のイメージを助長するものが多い。
「娘と息子と妻の体調を心配している夫」や「運転の下手な男性」が登場するCMは出てこないだろうか。
唯一女性が対等な関係で登場していたのは、パチンコのCMで、パチンコ店の店員の若い女性とその常連客の年配女性が登場するものだった。これは、パチンコに女性客を増やすためだろう。
男女で登場しているものも問題だらけだった。母子家庭かと思わせる「母と幼い息子」が登場して、仕事と子育てで疲れている母に「ママはいつも笑顔です」と息子に作文で語らせ、母親にいつも笑顔を強要する生命保険会社のCM。息子の恋人(女性)の手を握るセクハラ親父が登場する軽自動車のCM。スマートフォンに詳しくない母親を息子がサポートする携帯電話会社のCM。
男女入れ替えたら、そのおかしさは歴然だ。パパにいつも笑顔でいることを求め、娘の恋人(男性)の手を握る母を登場させ、スマートフォンに詳しくない父をサポートする娘が現れる。そんなCMがあったら、すぐに「おかしい」と思うだろう。
男性のみのCMで好感が持てたのは、男性が料理するもの。ただし、若い男性だった。普通の中高年男性が、当たり前に料理するCMは、まだ見たことがない。作ればいいのに。
洗剤のCMでも、若い男性が洗濯するCMはあるが、中高年男性が洗濯するCMは、お目にかかっていない。作ればいいのに。
登場人物だけではなく、音声にも注目してみた。ナレーションの声は、女性が11本、男性が28本。こちらも圧倒的に男性が多い。「困っているのは女性」「商品の性能や効能について解説するのは男性」というのが、ありがちなCMだ。
トイレの黒ずみやキッチンでの油汚れ、洗濯物の黄ばみ……汚れが落ちないと困っている女性に、お助けマンよろしく商品を持って登場するのは男性が多い。「家事などしないくせに……」と思いながら見てしまう。
昼のドラマの合間に流れていたCMの登場人物は、深夜ほどは偏っていなかった。視聴者に女性を意識しているためか。27本中、女性8本、男女18本、男性10本、その他1本。CMの中身は深夜のものと同様だ。アンチエイジング系が多いのは高齢の視聴者が多い時間帯だからだろう。
ナレーションは女性10本、男女1本、男性18本。こちらも深夜のCM同様だった。ジェンダーギャップ指数が121位と過去最下位を更新したこの国らしいCMの数々。
賃貸経営のCMでは、父から息子に賃貸経営を任せるストーリーに、その息子に恋人ができて結婚して妊娠してという展開。
先日見たサービスステーションのカーリースのCMでは、女性に恋人ができて結婚して子どもができて……とライフスタイルに合わせて次々とリースする車を変えるという夢を見る展開。
賃貸経営やカーリースと結婚・妊娠を無理矢理結びつけるCMの有り様は、小説『山椒魚』に繁殖活動を意識させる教科書の指導書と同じ流れだ。広告代理店が自民党のお抱えだからなのか、世界では通用しないようなCMが、この国では垂れ流され続けている。