「あれは私じゃない」が「あれは私だ」になると、世界は変わるのだけど……
玖保樹です。唐突ですが、ふと感じたことを聞いてもらっていいですか?
女性への性暴力事件が起きた際、被害者バッシングにいそしむ男性に対して「あなたの娘や妻、恋人が同じ目に遭ったらどうするの?」と問いかけるのは、そう珍しいことではありません。性暴力に限らず、ちょっとした事件が起きるとこの「あなたやあなたの身近な人にこんなことがあったらどう思うの?」的な声は、非常によく聞かれます。
でもこういう「あなたの身近な人が被害に遭ったら?」という言葉が響かないクラスタは、結構います。まずは自分にしか興味のない人ですね。そして「そうは言っても自分には縁遠いし」と、物事や出来事を自分事と捉えられない鈍感な人です。実は玖保樹も以前は性暴力に関しては、鈍感の一味だったのです。
だってマンガとかに出てくる男性から性的なターゲットにされがちな女性って、たいていが「学校1の美人で金持ちの娘」とか「地味なメガネっ子だけど、脱がせてみたらとんでもない美女の爆乳」とかだったんですもの。美人でも資産家の家に育ったわけでもなく、スタイルもアレな自分は、男に狙われる対象外だと思い込んでいたんですよ。田舎で育って中・高と自転車通学していた上に「色気より食い気」だったこともあり、一度も痴漢に遭ったことがなかったし。
高校生の頃、学校周辺をうろつく「●●(←地元の地名)太郎」なる露出狂の目撃情報はありましたが、太郎を見たと言っていたのはヤンキー系の子たちだった。ので決して陰キャだった訳ではないけど、「ああいう派手な子たちが狙われるのよね」と思っていたフシがありました。男友達も多かったのですが、未成年の頃は確かに性的な対象にされることはなかったので、ずっとそう生きていくと信じきってました。「あれは私じゃない」どころか、地球人から見た火星人ぐらい距離があったんです。
二十歳を過ぎた頃からはそれまでと一転し、フツーに自分もセクハラを受けまくるようになりました。でもまだ「私は女性と見なされてないはずだから、これはセクハラじゃない」と勝手に脳内変換してました。それどころか性的なトークに激怒する女性を男どもと一緒になって、笑ったり茶化したりなだめたりする側にまわってました。うわあ、なんという立派な名誉男性っぷり……。この頃はまさに「あれは私じゃない」期ですね。
でも社会に出て色々な話を聞く仕事を続けてきたことで、女性が受ける性的な被害は「私に関係ない」なんてことはないと、気づけるようになりました。そして自分が直接被害を受けた経験はなくとも、他者の痛みを「あれは私だ」と受けとめられるようになりました。そこでようやく、子供の頃に読みまくってきたアホみたいなマンガは、現実とまるで違うことを理解できるようになりました。以来ガラリと世界が変わったんです。
しかしこのコンテンツによる刷り込みというかある種のイメージの植え付けって、本当に罪深いと思うんですよ。というのも最近、こんなタイトルの記事を目にして「へっ?」と思ってしまって。
『いけてる子は全員フェミニスト』というのはロクサーヌ・ゲイの『バッド・フェミニスト』(亜紀書房)からの引用で、記事のオリジナルではないのですが……。
確かにここ最近の「フェミニズム」を巡る動きは素晴らしいです。好きです。でもこの記事で『バッド・フェミニスト』の訳者である野中モモさんが「エリート女性だけではなく、そこからこぼれ落ちてしまう人たちも一緒に救われるための思想として、フェミニズムが広がっていくことが大切だと思います」と語っているように、決してイケてる若い子だけのものではないはず。なのにここ最近、アートや文学、運動などの場でそれこそ見目麗しい若い方がフェミニズムを語ることで、逆に気後れしてしまっている人がいるのを私は知っています。玖保樹の年上の友人がある時、「私は自分の容姿や年齢のせいか、フェミニズムを語れない。叩かれるのが怖い。フェミニズムをテーマにした華やかな場所にも、気後れして行けない。そういうものを打ち砕くのがフェミニズムのはずなのに……」と言ったんです。
女性に生まれてきたことで生き辛さを抱えていたり、苦しんでいたりする人すべての杖になるのが、フェミニズムではないかと思います。でも「イケてる子はフェミニスト」という言葉が独り歩きをしてしまうと、イケてる自覚を持てない人は声を出せなくなってしまう。この友人は1人であれこれ立ち向かってきたステキな姉さんなのに、そんな彼女を気後れさせてしまう「フェミニズム」って、一体誰のものなんだろう? 私は超モヤってしまいました。
自分の実像とあまりにもかけ離れた人たちばかりが目に付くと「あれは私とは関係ない」と思ってしまうけれど、性の問題もフェミニズムも、女性だったら「関係ない」なんてことは決してないはず。だけど爆乳美女やイケてる子ばかり出されると、私ですら遠い世界って気がしちゃうのよね……。なのでせめて玖保樹は、キラキラしてない自覚がある人でも「あれは私だ!」と思ってもらえるような、人・モノ・コトをこれからも紹介していきたいと思ってます。よろしく!