貧しい少女たちを集めて性を提供させていたアメリカの億万長者、ジェフリー・エプスタインの事件は、この夏、世界の耳目を驚かせた。
未成年を含む女性の人身売買を問われて再審が行われようとしていたエプスタインは、8月10日にマンハッタンの拘置所で自殺。トランプ大統領やクリントン元大統領はじめ数多くのセレブリティとつながりを持つエプスタインの、奇妙に緩い監視の元での自殺は、多くの憶測を呼んだ。
エプスタインの突然の自殺で、彼の裁判は不可能になり、真相や関係した人物がどこまで明らかになるのかは疑問符がついたが、それでもすでにフランスではつながりのあった人物の名が上がっている。男女平等担当副大臣マルレーヌ・シアパと児童保護担当副大臣アドリアン・タケは、フランスでの捜査を宣言しており、今後の捜査によっては、さらなる事実が出てくる可能性がある。
エプスタインはフランスと強いつながりがあった。パリの16区、高級住宅街フォッシュ通りにアパルトマンを所有し、逮捕される直前にもパリに3週間滞在している。
2015年に、アメリカの情報サイトが公開した彼のアドレス帳には、フランス人が40人ほど記載されており、その中には、パリの「マッサージ」関係者として15人ほどの女性が含まれている。「マッサージ」は言うまでもなく、性的サービスを指す。中でもエプスタインと共犯した人物として浮かび上がるのは、2つのモデル事務所のオーナーで、パリのモード界では知られた人物であるジャン=リュック・ブリュネルである。
ブリュネルがエプスタインと知り合うのは2000年ごろだが、それ以前から、各国のモデル志望の少女たちを甘言で自宅に誘い、デートドラッグを酒に混ぜてレイプに及ぶなどの事実がモデル業界を告発するドキュメンタリーで暴かれている。エプスタインにはモデル事務所を使ってフランスの少女たちを提供していたと、エプスタインの犠牲者の一人で主な告発者であるヴァージニア・ロバーツが証言している。
彼女は、エプスタインの元にいた16歳から19歳の間に、何度かブリュネルにレイプされたこと、またブリュネルがエプスタインの誕生日にフランスから12歳の少女を2人プレゼントしたことなどを証言している。ブリュネルは親から彼女たちを買って送り、少女たちはエプスタインの相手をさせられた後、またフランスに送り返されたという。
ヴァージニア・ロバーツは大きなホテルチェーンのオーナーにも言及しており、詳しくは語っていないが、フランスにおける共犯者は他にもあるようだ。
アソシエーションIED(危機にあるイノセンス)が7月末に、エプスタイン事件の犠牲者、目撃者に名乗り出るよう募ったところ、1カ月も経たないうちに10人から反応があり、複数がジャン=リュック・ブリュネルの名を挙げた。IEDは現在、集まった情報を時効など法的な調査をした上で検察に送るとしている。
組織的に行われた未成年者の性的搾取は、2年前に世間を騒がせたワインスタインのセクハラ事件以上の犯罪行為だ。この事件は、未成年への性虐待を厳罰化する契機になるのではないか。
貧しい少女たちを金銭で性奴隷にし、「お金になるから」と犠牲者の少女に更なる別の少女たちを誘わせていたと聞けば恐ろしいが、少し考えれば「パパ活」にも通じるような話かもしれない。異常への入り口は意外に広いのかもしれない。
エプスタイン事件とは別に、フランス国内でも、小児性愛4件で告発された外科医の家から、手術後の患者を犯した記録が200件以上、詳細なイラスト入りで記されたノートが発見された。もし、ノートが事実の記録であるとすれば前代未聞の小児性愛事件である。
恐ろしく猟奇的な事件だが、小児性愛に対する見方を厳しくするきっかけになることを望む。