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こんにちは。梅雨が明けたと思ったら、猛暑続きで早くも夏をあきらめた行田です。

皆さま、日々の心身のお疲れ、ちゃんととれていますでしょうか?外は酷い暑さ、テレビやTLを見ればつらいニュースのオンパレード。「あぁ、疲れたなぁ」と動けなくなったり、もう嫌だと思ってもスクロールをやめられなくなったりした方がいたら、そっとこのブラウザを閉じてください。部屋を涼しくしてゆっくり眠ったり、可愛い動物の写真を見たりしてください

というのも、今回取り上げるテーマが「ヘイトクライム」だからです。

ヘイトクライム。憎悪犯罪ともいいます。
人種、宗教、性別、セクシュアリティなどに対する憎悪感情がきっかけとなる犯罪行為です。

これまでのこのコラムでも、ヘイトクライムについて触れてきました。

イギリスに住むムスリム女性へのヘイトクライムの増加ネット上の嫌がらせの書き込みと、「女性なら誰でもよかった」という理由で尊い命が奪われた「江南駅通り魔事件」、どちらも女性へのヘイトクライムです。

そして、セクシャルマイノリティを対象としたヘイトクライムも後を絶ちません。

2016年6月12日未明、フロリダ州オーランドのゲイクラブで無差別の銃乱射事件が起き、容疑者を含め50名もの死者が出ました。セクシュアルマイノリティをターゲットとした犯罪として、アメリカ史上最悪といわれている事件です。

また、アメリカとカナダを中心としたLGBTQへの暴力の軽減を目指す団体であるthe National Coalition of Anti-Violence Programsによる2018年の報告によると、近年LGBTQへの憎悪殺人は急増しており、中でも有色の若いトランス女性が被害に遭いやすいそうです。※1

テキサス州では昨年10月から3人もの20代の黒人のトランス女性が殺されており、そのうちのひとり、Muhlaysia Bookerの事件は人々に大きな衝撃を与えました。彼女は交通事故がきっかけで男性から群衆の前で暴力を振るわれ、その動画がネット上に出回っていたのです。その動画ではトランス女性への差別的発言が行われていました。そしてこの事件からたったの5週間後に彼女は遺体となって発見されました。

この事件を受け、Netflixの大人気シリーズ、Queer Eyeのカラモ・ブラウンもInstagramで哀悼の意と暴力への怒りを表明しました。

※実際の事件の様子を映した、暴力的な映像が含まれます※

 
 
 
 
 
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カラモのコメントの最後の叫び、”Enough is Enough!” 『もうたくさんだ!』。本当にその通りだと思います。この映像を見た時に「なぜこんなにも残酷なことができるのだろうか」という動揺と憤り、そして彼女がもうこの世にいないことへの悲しみが私を襲いました。

その悲しみをまだ引きずっていた5月末、さらなる衝撃と、自分の身の危険をも感じる事件が起きました。

ロンドンのナイトバスで、レズビアンカップルが4人の男性から暴行を受けたのです。2人がキスをするのを目撃した男たちは、彼女たちに卑猥な言葉を投げかけたり、より性的な行為してみせるよう囃し立てました。冗談でかわそうとするも男たちの態度は徐々に悪化し、暴力を振るわれるまでに至ったとのことです。

被害者の1人、Melania Geymonatは、このような女性やLGBTQ+へのヘイトクライムが日々起きていることをより多くの人に知ってもらうためにも、衝撃的な写真をあえて公開しようと決心したといいます。

※事件直後に被害者が流血している写真が載っています※

https://www.theguardian.com/uk-news/2019/jul/25/four-teenagers-charged-over-homophobic-attack-on-london-bus
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5cfca815e4b04e90f1ca951a

ロンドン市長もツイッターで「これは忌々しい、女性蔑視の攻撃だ。ロンドンはLGBT +コミュニティへのヘイトクライムを許さない」とし、犯人を強く非難すると同時に情報提供を呼びかけました。

その後4人の10代男性が容疑者として捕まり、事件の報道は減りましたが、私の心は沈んだままでした。6月半ばにパートナーとロンドン旅行を計画していたからです。

ロンドン。私の大好きな街です。

あの場所で、自分がヘイトクライムの対象になるかもしれない。

考えてもみなかったことでした。
ですが、かつて私がヘイトクライムを知ったのは、ロンドン留学中の2010年だったのです。

2009年9月に起きた事件の裁判開始についての記事だったのか、判決が出たことを報せるものだったのか、元の記事と詳細が見つからないのが大変申し訳ないのですが、Evening Standard紙で目にしたショッキングな見出しははっきりと覚えています。

『彼女のバレエパンプスは血まみれだった』

62歳のゲイ男性、Ian Baynhamはトラファルガー・スクエアでティーンエイジャーから暴行を受け、命を落としました。犯行に加わった少女が身につけていたバッグやパンプスにIanの血がついていたとのことです。※2

トラファルガー・スクエアは私にとって特別な場所の一つだったので、尚更衝撃的でした。

夏にはPride in Londonのメイン会場となり、私はひとりで何時間もその様子を眺めていたのです。

(2010年のロンドン・プライドにて:行田撮影)

トラファルガー・スクエアではWest Endミュージカルのキャストによるステージや、観客も一体になってのダンスが行われたりと、笑顔とパワーが溢れていました。まだ自分のセクシュアリティについてよくわかっていなかったのですが、あの光景は何とも幸せなものでした。

そしてその年の晩秋、この広場でIanの事件を始めとしたヘイトクライムの犠牲者、被害者への追悼集会が開かれることを知りました。被害者でも、その家族や友人でもない私が参加していいものか悩みましたが、Ianの事件のことがどうしても心から消えず、ある寒い夜、ひとりで出かけました。

そこは、夏の高揚感が嘘のような、静かな空間でした。遺族や友人らを中心としたスピーチが淡々と続きましたが、悲しみでいっぱいであることがひしひしと伝わってきました。

ひとつの場所でプライドが祝福される一方で、命が奪われる。
笑顔で歌う人がいれば、涙を流す人がいる。私は、どうしようもない虚しさに戸惑いながら、キャンドルの灯を眺めることしかできませんでした。※3

(行田撮影)


ロンドンでのバスの事件は、トラファルガー・スクエアの一連の出来事を思い出させました。

ふたつ事件の共通点は、ティーンエイジャーによる犯行である点と、彼らが犯行時にかなり酔っていたという点です。

力では敵わない相手が、さらに理性を失った状態で襲ってきたらどうすればいいのか。どうすれば、パートナーを守ることができるのか。

幸いにも今回の旅行は楽しく、ロンドンは変わらず愛しい街でしたが、帰宅するまで常に心配でした。

また、一度アンテナが敏感になると、次々とヘイトクライムのニュースが飛び込んできます。(これを書いている今もまた、ヘイトクライムと思われる大きな事件の報道がありました。テキサスのウォルマートでの銃乱射事件です。https://www.bbc.com/japanese/49223946

冒頭で私が皆さんにお声がけをしたのは、自分自身が疲れてしまった経験からなのです。傷つくとわかっていても、情報を求め続けてしまい、ヘイトに満ちた世界とどう付き合って行けばいいのか悩んでしまいました。

そうしてヘトヘトになった私に勇気を与えてくれたのが、英Stylist誌に載っていたアメリカプロサッカー選手・Megan Rapinoe選手についての記事でした。

https://www.stylist.co.uk/life/womens-world-cup-uswnt-lgbt-women-players-activists-megan-rapinoe/277321

女子サッカーW杯優勝後のパレードなどで男女の賃金格差撤廃などに取り組む彼女の姿勢が日本でも評価されていましたが、Stylist誌はイングランド対アメリカの準決勝前に、Rapinoe選手を含むアメリカ代表のQueerな選手を取り上げ、彼女たちのプライドを讃えようと呼びかけたのです。

記事では、Rapinoe選手が性差別やLGBTQ +に対する差別だけでなく、人種差別など、あらゆる差別に立ち向かい、社会正義のために闘っていることが伝えられました。(彼女はレズビアンであることを公言しているアメリカ代表選手のひとりです)

その一例が、Black Lives Matter運動です。2013年に起きた白人警官による黒人少年射殺事件をきっかけに活動が始まり、その後も同様の警察によるアフリカ系アメリカ人への過剰防衛と思われる事件が相次いだため、Rapinoe選手は行動を起こしました。サンフランシスコ49ersのクォーターバック、Colin Kaepernick選手らと団結して国への抗議の意を示すために、国歌斉唱時の起立を拒否したのです。こうしたアクションを起こしたアスリートは彼女が最初だったと記事は述べています。

女子サッカーW杯の決勝をご覧になった方はいらっしゃるでしょうか。Rapino選手1人だけが、国歌斉唱中に胸に手を当てず、また歌ってもいませんでした。その顔はPKの時よりも強張っていました。自分が行なっていることが、どれほどの物議を醸してきたことか、それを十分知った上で、彼女はその姿勢を貫いたのです。

優勝を決めた後も、賛否の嵐が吹き荒れましたが、The Guardian紙のインタビューからの引用されたコメントを読んで、私は彼女のように在りたいと強く思いました。

「同性愛者の権利、平等な賃金、男女平等、そして人種的な不平等について学べば学ぶほど、それら全てが交差してくるのです。バラバラにすることはできません。全てが絡み合っているのです」

彼女はどのような差別からも目を背けることなく、自分の問題として捉え、社会を変えようと行動し続けているのです。だからこそ、彼女を見る人をも勇気づけることができるのです。

彼女のコメントは、私を勇気づけただけではなく、「この言葉を決して忘れずに生きていこう」と決意した、ある瞬間を思い出させてくれました。

それは、梨木香歩の『村田エフェンディ滞土録』(角川書店、2004年)の一部分です。第一次大戦前夜、イスタンブールでイギリス人女性が営む下宿に集まった日本人、ドイツ人、ギリシャ人、トルコ人。彼らの青春と別れを描いた物語の中で、ギリシャ人のディミトリスが語った古代ローマの劇作家テレンティウスの言葉は、主人公の村田と、私にとって忘れられないものとなりました。

『私は人間だ。およそ人間に関わることで、私に無縁なことは一つもない』(p.79より)

Rapinoe選手のコメントは、まだ何も知らないけれど、まっすぐで、一生懸命な15歳の私に再び出会わせてくれました。「私もディミトリスのように生きるんだ」と泣きながら誓った日を思い出させてくれました。

残念ながら、この世界はまだ、30歳になった私にとっても、あの時の私と同じ15歳の少年少女たちにとっても、生き易い場所ではありません。多くの無理解と、憎しみと暴力、恐怖で満ちています。

それでも、そのことに怒り、悲しみ、変えなければと考えることをやめたくはありません。何も知らずに傷つかないでいる人生よりも、知って傷つく人生を選びたいのです。そして、立ち向かう優しさと力を得たいのです。どんなに長い時間がかかろうとも。

ただ、初めに申し上げたように、自分も大切です。長丁場になるのであればなおさら、自分自身を労わりつつ進んでいかなければなりません。そこのバランスが難しく立ち止まってしまいそうになります。

そんな時は我らがママ、 Ru Paulの魔法の言葉の出番でしょうか。ご存知ない方は、ぜひNetflixの『ル・ポールのドラァグ・レース』を見てください。私を含む、世界中の人たちに勇気を与え、奮い立たせてくれる番組です。

そんなル・ポールの決め台詞がこちら。

“If you can't love yourself, how in the hell you gonna love somebody else?”

『自分を愛せずに、どうやって他の人を愛せるっていうわけ?』


どんなに大変なことであっても、これだけは絶対に絶対に、あきらめたくない夏なのです。

 


 

※1: https://www.theguardian.com/us-news/2019/jun/08/trans-murders-texas-muhlaysia-booker-chynal-lindsey-brittany-white

※2: <判決時のThe Guardian紙> https://www.theguardian.com/uk/2010/dec/16/trafalgar-square-guilty-attack-gay-man

※3:当時は知らなかったのですが、10月にNational Hate Crime Awareness Weekのイベントとして行われていたようです。

<団体HP>https://nationalhcaw.uk

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行田トモ

行田トモ(ゆきた・とも)

エッセイスト・翻訳家
福岡県在住。立教大学文学部文学科文芸・思想専修卒。読んで書いて翻訳するフェミニスト。自身のセクシュアリティと、セクハラにあった経験からジェンダーやファミニズムについて考える日々が始まり今に至る。強めのガールズK-POPと韓国文学、北欧ミステリを愛でつつ、うつ病と共生中。30代でやりたいことは語学と水泳。

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