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No Women No Music Vol.3『タトゥーの正体?』

ほんま えつ2003.08.14

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まさにタトゥー台風一過といったところでの、いまさらタトゥー。朝のワイドショーで連日放映のタトゥー騒動にすっかり食傷、タトゥー御一行について語るブラウン管内の人々にはウンザリ。ようやくそんなほとぼりも冷め、発売初日に購入したまま、とおり一片程しかきちんと聴いてなかったタトゥーのデビューアルバム『200KM/IN THE WRONG LANE』を、改めてじっくり聴いてみた。

アルバムリリース時には、彼女たちの焦燥感&哀愁感たっぷりのビデオクリップが、その当時放映中だった『高校教師』のソニンちゃんの不幸っぷりと重なって、出稼ぎ不幸ってなんかエッチな匂いかも…とひとり妄想を楽しんたけど、もうタトゥーにそんなイメージは論外…。いまややりたい放題の超わがまま少女が売りの彼女たち。でもどこかひっかっかる。なんかイタイ。何度も何度も彼女たちの歌声を繰り返して聴いているうちに、あぁぁぁぁなるほど見えてきた見えてきた。

 タトゥーの音楽って、まさに80年代のポップ音楽を受け継ぐプラスティックなエレクトロ・ポップに90年代~のデジタル・サウンドをぶっかけたような聴き易さ。

そこで、まずアルバム英語盤プロデュース名記のトレバー・ホーンという人に注目。T・ホーンは80年代の英国ポップ界においてはとても重要な存在。元バグルスというユニットで「ラジオスターの悲劇」というNo.1ヒットを生む。更に緻密なマーケティングと戦略的な音作りを掲げたZTTなるレーベルをつくり‘プロパガンダ’、‘アート・オブ・ノイズ’というユニットをプロデュース。同じくZTTから、ハード・ゲイを巧みに売り戦略のイメージとして用いて大成功した‘フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッド’のフィクサー。その他マーク・アーモンドなど多くのゲイ・ミュージシャンのプロデュースで、80年代の英国ゲイ・ポップシーンにはなくてはならないようなキー・パーソン。よって、この‘タトゥー’サウンドには、80年代のゲイ・ポップを享受した私の琴線に触れる音のツボがてんこ盛りなのだ。

さらにスミスのカヴァー曲「ハウ・スーン・イズ・ナウ?」まで入れてくるとは…。このスミスも、やはり80年代、英国で狂信的な支持で受け入れられたロックバンド。詩を書いて歌うモリッシーはグラジオラスの花を持って身体をくねらせながら〈僕は絶対に結婚なんかしない〉と唄い、社会にベロだして挑発しまくった。男が弱々しくってもいいじゃないか!という新しい男性像をつくりあげる。カムアウトこそしていないが、多くの同性愛者たちの支持を得たカリスマンだ。彼のコスプレをした女子ファンも多い(私も)。‘I am human and I need to be loved / Just like everybody else doesユ と訴えるモリッシーの詩は、自らを虐げられし者とするタトゥーの反社会性と挑発的な部分にすんなりとマッチする。

80年代の英国ゲイ・ポップと90年代のクラブミュージックを盛り込み、スミスのような虐げられし人々の痛みを代弁する21世紀のアイドル‘タトゥー’。でもタトゥーがなぜスキャンダラスだったかっていうと、レナとジュリアの2人がレズビアンかもしれないってところだったはず。

80年代の英国・音楽シーンは、ゲイであることの苦しみと誇りを、リアルに率直に表現して成功したポップ音楽(イレイジャー、ソフト・セル、ペット・ショップ・ボーイズ、ブロンスキー・ビート、コミュナーズなど)が多い。そのほとんどはリアル・ゲイの声だった。ミュージシャンたちはつぎつぎにカムアウト。

んで、このタトゥーの音楽、聴けば聴くほど少女たちの心の叫びというよりも、ゲイたちのそれに聞こえてくる。タトゥーの黒幕たちが、ゲイ・メンかどうかはしらないけれど、「マルチック・ゲイ」なんてタイトルの曲まであるのよぉ!詩の内容だって、なんでこれを〈レズかもしれない〉いたいけな少女たちがうたうのよぉぉ!ってくらいゲイ・テイスト。それをロシアのティーンの、しかもレズビアン(かも)という少女が…?。美少女アイドルの多くは、黒幕の男達が、自らの内なるオンナ性浪漫チシズムを投影して作り出す。このタトゥーもしかりか?。  一方、けっこう男子にも大人気のタトゥー。私はここに、ちょっとやおいの逆現象的な要素を感じてしまう。ガールズ・ラブに憧れて、美少女になりたいっていう男子が増えているのではないかしら。それもあくまで、大人でないオンナ性で表現されるレズっぽいものに憧れてんだわぁ。

といろいろ分析してみたが、気持ち的にすんなり受け入れがたいのは、やっぱりレズビアンを“使った”というところなのかしら…。2人の濃厚チューにはドキッ。彼女たちのリアル・レズ否定は、ちょっと残念。日本でのタトゥー営業には執拗にレズ否定がセット。リアル・レズビアンが日本のメジャー音楽業界においてはマイナス要素でしかないってことだろう。

ほかにも、赤の広場でタトゥーとそのコスプレ達を集めてのゲリラ・ビデオ撮り、来日時には、国会議事堂前で同様なゲリラ撮影が…なんて噂も飛んだ。どこかしら漂う政治的な匂い。音楽ビジネスを生業とするオールド・アウトサイダーたちが、左翼チックな幻想を少女たちに託したのだろうか…。

このタトゥーを生み出したのは、メジャー音楽業界のグローバリズム総本山でもあるユニヴァーサルミュージック。ジャケットにはちゃんとユニヴァーサルミュージック・ロシアなんてクレジットされて、ロシアの音楽業界も着々とアメリカ侵略されています。

でもタトゥーが本当の正体を現すのは、レナ&ジュリアのふたりが主体的にセルフ・プロデュースをし始めたときでしょう。もしかしたらホントはレズビアンかもしれないよ!このまま1発または2発目で沈下しちゃったら単なる時代のあだ花だものね。がんばれよ、タトゥー!

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ほんま えつ

ほんま えつ(ほんま・えつ)

音楽、映画、本をこよなく愛して生きる趣味人女。
小学5年生のとき同級生の友達宅で聴かせてもらった「クィーン」に感動。
以後、洋楽を貪り始める。初めて買ったLPレコードは「アバ」のベスト盤。
いまではこれぞと思った音楽はジャンルを超えてなんでもござれの雑食派。
本連載、約10年ぶりのカムバックです。

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