今回は、1回目のタラ・ジェイン・オニールのところでもチラッとでてきた“MR.Lady”というレーベルについて語ろう。私は長いこと音楽を偏愛し、たくさんのCDを買い続けているが、レーベルというものにこだわって収集する楽しみを知ったのは、このMR.Ladyに出会ってからなのだ。
いまは渋谷にあるイメージ・フォーラムがまだ四谷3丁目にあった頃のこと。セディ・ベニングという女性作家の映像作品集を観に行った。‘これぞ私が出会いたかったもの!’と感激しきりで席を立ち出口へ向かった時、あるコピー使用の手作りチラシが目に止まった。それは、このセディ・ベニングがメンバーの1人であるレ・ティグレ(Le Tigre)というバンドを知らせるためのもの。このバンドの音楽が聞きたい方はぜひとも連絡ください…というミニコミズムなものだった。もち、さっそくコンタクト。入手したレ・ティグレのCDレーベルがMR.Ladyだった。
何よりもうれしいのが、このチラシ発信者の女性から、たっくさんのUSインディーズ系ガールズ・バンドを教わったこと。それまでも多くの音楽を聞いてきたのに、彼女の口からでたGirls Pop&Rockの世界を私はぜんぜん知らなかった。以後MR.Ladyを中心にインディーズのGirls Pop&Rockを買い漁る日々はいまも続く。
まえふりが長くなってしまった…。でもこんな出会い方がインディーズならではのものだと思うし、こんな出会いこそが宝物。そこにひとつ枝葉を広げた横つながりのコミュニケーションが、まさにMR.Ladyというレーベルの引力。
アーティストのカイア・ウィルソンと、彼女のパートナー、タミー・レイ。この2人のレーベル・オーナーが自ら「レズビアン・フェミニスト・ビジネス」として打ちたてたMR.Ladyレーベル。非人種差別主義で、現在の資本主義社会をグッドではないとし、ポリティカルな視点から眼をそらさない主義主張を持って活動。カイア&タミーに共鳴する女性アーティストのCD、レコード、ビデオなどをリリースし続けている。
活字で書くと、ちょっといかついレズビアン・フェミ団体みたいだけど、このMR.Ladyの背骨にはつねにパンク&ポップ、それにアートの精神がある。メジャー音楽業界(メジャー資本でぬくぬくインディーぶりっ子してるヤツラも)で大きな顔してのさばってるパンクなんかとは全然別次元の、パンク本来のDo It Yourself の心持ち。ここからリリースされた作品のジャケットやサウンドの1つ1つに、このDIY精神の愛おしさがあふれている。
パンクにはただ無邪気に反抗するだけではなく、自分たちの置かれた理不尽な立場にたいする怒りを表明して闘うという意味があると私は思う。でもそれだけじゃ、ちょっと息切れ。だからPOPで楽しくやらなきゃ。おふざけにも、にやりとしちゃうような英知と、いわゆる普通の一般社会(ストレート)にアンチするアイロニーに満ちたにユーモア・センス。この“MR.Lady”って‘パンク→闘う’&‘POP→楽しむ’のバランスが絶妙なんだわぁ!
日本でミスター・レディというと、ニューハーフみたいな意味になってしまうけど、アメリカでは‘かっこいい女性’を意味するようだ。これもMR.Ladyレーベル独特のユーモア・ジョークなんだろうけれど。
オーナーのカイア率いる女3人のバンド‘ブッチーズ’の骨太なパンク・ロック・サウンドを聞けば、MR.Ladyレーベルの逞しさがわかるは ず。力強い演奏でグイグイと引きずり込まれる音の中に、居心地のいい安堵感を覚えるのも、きっと彼女たちのでっかいハート&抱擁力から。“Population 1975” というアルバムにて、数十人のブッチたちが揃う記念写真ジャケは壮観。
このブッチーズの‘Sex(I'm a lesbian)’という曲が入っているMR.LadyのコンピレーションCD“the New Women's Music Sampler”は
MR.Ladyのフェミ観を圧縮したお買い得品。ジャケットのライナーには“What?”フェミニズム、“Why?”フェミニズムが、英語不得手の私にも伝わるやさしい言葉で書かれている。
―Feminism is a political analysis of society and not a counterculture.―
彼女たちの音楽に触れながらだと、なんとなく解ってる感じのフェミニズムという言葉も、改めてそうだったのかと一層説得力をもつ。
先に挙げたセディ・ベニングはレ・ティグレを脱退(映像に専念)し、入れ代わりにJDというミスター・レディな女性が加入。01年の来日公演で披露したDIY的創意工夫にあふれたパフォーマンス。
<フェミニズムはダサくない(アメリカでもフェミなんてカッコ悪いみたいな女性が少なくないらしい)。あらゆる人々にとって、とても重要な思想なの>
という真摯な思いが、ユーモア・元気・楽しさを伴って伝わった。最後にステージに映された電話番号とアドレスのインフォメーションには緊急救命ダイヤルのように‘なにかあったらここに連絡して’と添えられていた。みんなも、ぜひいちど‘mrlady.comを覗きに行ってみて!(現在はリンク切れ)