玖保樹です。以前ここで取り上げた女優の石川優実さんによる #KuTooのアクションが、この6月に大きく動きました。
女優業と並行して葬儀関係のアルバイトをしていた石川さんは、職場で「ヒールの高さは5センチ~7センチ程度の黒の革靴(パンプス)」と書かれた小冊子を手渡されたことから、連日足の痛みと格闘しながらパンプスで仕事をしていました。
その経験をもとに「仕事でヒールやパンプスを履かなきゃいけないという風習をなくしたいと思ってるの」とつぶやき、多くの賛同を得て #KuToo なるハッシュタグが生まれ、 Change.org で「 #kuToo 職場でのヒール・パンプスの強制をなくしたい」というオンライン署名が始まりました。
6月3日にオンライン署名を厚生労働省に提出したところ、6月5日の厚生労働委員会で尾辻かな子議員がこの問題について質問しました。根本匠・厚生労働大臣は「怪我した人への(ヒールの)強制はパワハラに該当しうる」と言ったかと思いきや(ヒールやパンプス着用の強制や指示は)「社会通念に照らして業務上必要かどうかということ」など、認識の甘さが見える発言をしましたが、国会で取り上げられたというのは非常に大きい。だから署名に参加し、うっすら見守ってきた玖保樹としてもとても嬉しく思っていたのですが……。
6月11日、石川さんは60人以上を前に泣き出してしまったのです。
この日は石川さんと、彼女と #KuToo キャンペーンを続ける仲間による、院内集会が開催されました。赤いトップスに黒のロングスカート、足元はローファーに白靴下の石川さんはまず、2017年に #me too が起きた際、グラビア撮影現場でのセクハラや性暴力を告発したことに触れました。以来ジェンダーに興味を持ち自分なりに勉強し、葬儀の仕事は走ったりするのに男性は革靴でOKでも女性はヒールを履かされる状況について「これは個人の問題ではなく社会の問題と気づいた」と語りました。そして「確かに健康や労働問題でもあるが、男女の靴の違いを忘れてはいけない。マナーや当たり前と思っていたことに性差別があることを、 #KuToo は身近な場所から気づくきっかけになるのでなないか」と続け、署名を提出して以降自身に降ってきたバッシングについても話し始めました。
「なぜ会社に言わないのかという人が多いが、多くの人が苦しんでいる状況をなんとかしないとならないのではないか。そして『スニーカーで仕事に行くのか』と言われるが、なぜフラットシューズの存在を忘れるのだろうか。男性と女性が違うことが平等という前提があるのではないか」
「被害者の『痛い・苦しい』を嘘だと思って証拠探しをする人たちがたくさんいた。『どこの葬儀会社か突き止めてやる』『(石川優実は)嘘つきだ』という人がいて会社に迷惑かかっている。怪我していることは無視し、粗探しに力を入れる人がいるが、これでは問題の解決が遠のいてしまう」
と、泣き出してしまったのです。
優実さんは当初から「ハイヒールを履きたい人は履けばいい。でも私は辛いから職場での強制は嫌だ」と言っていたに過ぎません。なのに、
「私は職場でヒールを強制されたことはない」
「私はハイヒールを履きたい」
「男性へのスーツやネクタイの強要もやめて欲しい」
「女性差別だー!って言う割に女性を利用して本業に勤しんでるんだから、まったく共感できない」
「女売り物にしててそれが出来なくなったら女性差別とか騒ぐんかい」
「売名行為」
「被害者ヅラ」
といった、よくある「私は辛くない」「男だって辛い」(だからお前も我慢しろと言いたいのかな?)や「女性差別ではない」に加え、彼女がグラビアやヌード撮影をしていたことを根拠に「売名行為」などと貶めるつぶやきの多いこと、多いこと。
で、玖保樹はあることに気づきました。それは彼女をバッシングしているアカウントには葬儀関係者もいますが、いくつかのプロフが「日本が大好き」「日本を良い国にしたい」的な内容だったことです。
たとえば声をあげた女性が外国籍だったり性に関する仕事をしてたりすると、必ずと言っていいほど「日本が大好き」なアカウントによるバッシングが加速します。彼ら彼女らにとっての良い日本とは、声をあげる女性をつぶすことなのか。俺や私が認めない、気に入らない属性や仕事の女性を貶めることなのか。日本が大好きだったら、おかしいと思うことに誰もが声をあげて変えていく方が良くない? どんな人間だろうと、ともに暮らせる社会こそが「良い国」につながるんじゃない? そう玖保樹は思いますけどね。つらさを訴えることから生まれた運動が売名とは思わないし、ヌードグラビアを披露した女性がフェミニズムを考えて語るって、別に矛盾していないし……。
と、ここまで書いたタイミングで、石川さんが受けているバッシングは「スラット・シェイミング」なるものだということがわかりました。
石川さんは #KuToo を取材した海外メディアの担当者から、「これはどう見ても『スラット・シェイミング』ですね」と言われたという。
スラットは「尻軽女」などと訳されることが多く、スラット・シェイミングとは、いわゆる“性的に奔放な”女性を非難することだ。石川さんのようなグラビアやヌードの仕事をする女性やセックスワーカーへの蔑視、性被害にあった女性を露出度の高い服装だったからだと批判することなどを言う。
(Business Insider Japan『グラビア女優には人権ないの? 声上げる女性の過酷な現実。#KuToo で退職へ』より)https://www.businessinsider.jp/post-193051
初めて聞いたよそんな言葉。でも確かにそうだ。そして石川さんが職場を特定するような動きがあったことで恐怖を感じ、バイト先の葬儀会社を辞めることもわかりました。
バイト先の葬儀の会社、辞めることにしました。葬儀会社裏取りする、のツイートから今日まで私が嘘をついたかのような話がまわり、(真相はこちらなのですが) https://t.co/sJVCJcsIDh
— 石川優実@#KuToo署名中👞👠 (@ishikawa_yumi) June 13, 2019
取引先と顔を合わすのも怖くなったです。なんかいいバイト紹介してください。#KuToo
声をあげたら仕事をおわれるなんて、心底ぞっとする。そしてそんなやり口をスルーしたら、もっと恐ろしいことになる。これってどうしたらいいのだろう……?
今すぐに思いつくのは、彼女をひとりにしないこと。それは孤独な戦いではないと、本人に伝えることでしょうか。でも署名提出時は1万8000余りだった署名は、6月21日現在で約3万弱まで集まっています。石川さんを傷つける言葉だけがすべてではないことがわかり、玖保樹も少しほっとしています。
ということで玖保樹なりに今後も、#KuToo について紹介していきたいと思います。では今月はこのへんで。