3月に卒業した教え子から、近況報告の便りが届いた。サービス業に就職した生徒と、製造業に就職した生徒からだった。
サービス業に就職した生徒は、一か月半の新入社員研修で、基礎知識や現場実習、行動訓練等を学び、職場配属され、新たな研修が始まっていた。
製造業に就職した生徒も、新入社員研修の後、配属先が決まってまた研修と、目まぐるしい日々を送っていた。
見知らぬ土地で、見知らぬ人たちと始まった社会人生活。社会人のつらさも感じ、ホームシックも味わった様子。
新入社員として二か月が過ぎ、「新たな仲間もできて、毎日が充実しています」と書かれていた。
先日、街なかを歩いていたら、進学した卒業生がアルバイトをしている店の前を通りかかった。学校生活は楽しく、毎日が充実しているという。晴れやかな笑顔で働いていた。
販売員として働き始めた卒業生も、別の店で見かけた。せっかくだからと、その店の商品を購入して「簡易包装でいいよ」と言ったが、「包装の仕方を覚えたから」と、覚えたての技を駆使してくれた。短期間のうちに成長したんだなと感服した。
どの卒業生からも、生き生きと働いている様子がうかがえた。教え子たちの元気な姿を見ると、こちらも元気が出てくる。労働者としての権利を行使しつつ、楽しく充実した人生を送ってほしいと願うばかりだ。
数か月前に会った、社会人三年目になる前任校の卒業生は、「いまの企業はブラックだ。ボーナスも少ないし、昇給もほとんどない」などと愚痴をこぼしていた。
しかし、続けて、「社員はみんなほとんど有給休暇を取らないけど、私は休暇を完全行使している。年齢は一番下だけど」と、得意げに語ってくれた。
職場で一番年下なら、初めて有給休暇を取得するのには、勇気がいったことだろう。しかし、そこを乗り越えて、堂々と権利を行使し続けている教え子を、頼もしく思った。彼女の職場で、「誰もが有給休暇を取るのが当たり前」になる日が来ることを願う。
「有給休暇は使わないと基本的に流れ去っていく。一か月の勤務日数は20日前後。長年働き続けて有給休暇が20日まで取れるようになったら、完全に有給休暇を行使した場合、一か月働かなくても、一か月分の賃金が手に入ることと同じになるよ」などと、彼女が高校生だった頃、ホームルームで話をしたことを思い出した。
生徒に労働者としての権利を教えつつ、自分自身は「疲れがたまる前に休む」「疲れをためない働き方ができるのが、プロの労働者だ」などと自分に言い聞かせながら働いているのだが、最近実行できていない。反省することしきりだ。
実は先週末、この時期にしては珍しく、一日寝込んでしまった。いや、「珍しく」ではなく、自分の人生「初」と言っていい。記憶の定かではない乳幼児期を除いて、6月に寝込んだ記憶はない。
風邪をこじらせて冬場に寝込んだことはあったが、それも、前回寝込んだのは何年前だったか。記憶が定かではないくらい、基本的に元気だ。
なぜこの時期に寝込むことになったのか、我が身を振り返った。寝込む数日前、過労が重なっていた。生徒対応にも追われ、部活動が遅くなり12時間超の勤務時間も度々あった。
そして、トドメの週末の部活動試合引率。朝4時起床、6時30分学校到着。7時前に貸切バスで学校出発。一日試合に付き合って、20時前に学校帰着、そこから1時間かけて車を運転して帰宅。帰宅した時にはへとへとに疲れていた。倒れるようにして布団に入った。
専門でも何でもない種目の運動部の顧問としての仕事は、拘束される時間の長さ以上に精神的なストレスを増長させ、体力を消耗させる。部活動の生徒たちが慕ってくれているのがせめてもの救いだ。
疲れがたまって体力が落ちていたところに、ウイルスがやってきてダウン……と言ったところか。高熱にはならなかったが、微熱が続き、咳も止まらない状態が続いた。
体調がすぐれないながらも、気分転換に映画を見に行った。『RBG 最強の85才』という、アメリカ最高裁判事、ルース・ベイダー・ギンズバーグさんのドキュメンタリー映画だ。
女性を排除してきた大学や法曹界に、法の下の平等の実現にむけてメスを入れてきたルースさん。この映画のチラシには「1人の女性が、アメリカを変えた。」とあったが、彼女が社会に与えてきた影響は、アメリカのみならず、世界各国に広がっていた。主題歌の「I'll Fight」が心に沁みた。
映画の中で、ルースさんが筋力トレーニングに励んでいる映像が流れた。そう言えば筋トレに行かなくなって久しいなと、我が身を振り返った。寝込んだのは体力低下も原因の一つかもしれない。
ルースさんは、アメリカを変えた。有給休暇を完全行使している教え子は、その職場の慣習を変えているかもしれない。「1人の女性が、職場を変えた。」と、後に語られる存在になるかも。
映画の後、高校時代の同級生が経営しているトンカツ屋さんにトンカツを食べに行った。「病にカツ」とか「過労にカツ」などと思いながら完食した。
本当は、トンカツより休養が大事。
働き過ぎの自分にカツを入れて、しっかり休むことにしよう。