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植物の育て方もメダカの飼い方もわかってきたし、次はカメでも飼おうかしら、と職場でつぶやいていたら、スタッフの子が、ウチの子、一匹あげましょうかと言ってきました。冬眠から覚めたばかりなんです、二匹いるんで、大きいのと小さいのとどっちがいいですか?

じゃ、じゃあ、小さいほうで……と勢いに押されて答えてしまいました。
するとしばらくしてから、店長……さっきの話はやっぱりナシにしてください、と後悔したような口調で言ってきました。寂しくなったんだ、と言うとうなずきます。

そのあと、二匹とも川で拾ったとか、衣装ケースで飼っているとか、夏は毎日水を替えないと臭いです、などの状況を聞きながら、臭いの困るわ……とか言っていると、じゃあリクガメがいいですよ、と押されました。

リクガメねー、とネットで検索していたら、熱帯地域から輸入された品種ばかりで、紫外線ライトやヒーターなど、環境を整えるだけでもひと手間ふた手間。しかも日本の環境では生きていけないので、絶対捨てないでください、とペットショップの注意書きもあります。そしてカメは長生き。20年から30年は生きるそうです。

そのうち、日本でよく飼われているミズガメが捨てられた後どうなるか、それを引き取っている動物園の話なども読み進みました。
飼い主が高齢となり入院や施設に入ることになって、泣く泣く手放しに来られる方も多いそう。

30年だもんな、と想像すると私は70歳を軽く超えている計算に。この先何があるかわからないし飼うのはあきらめました。動物園や寺の池で見るにとどめよう。

育てるといってもペットは巣立つわけではなくて、その個体が死ぬまで世話をし続けてそれまでずっと一緒にいるということ。
よく考えると、そこらへんが欠落していました。私には1年くらいで死んでしまうメダカがちょうどいいようです。

それはそうと、書店の店長になって4年、会社の役員(経営者)になって1年、人を雇うことの難しさを日々感じています。

同い年のスタッフの女性から冗談交じりで「恐怖政治をしてください」と言われます。
恐怖政治ってなんですか、と驚くと、怖いリーダーになって仕事場に緊張感をもたらしてほしいとのこと。
私の性質から言ってそれは無理です、とお答えしましたが、そういえば今まで働いてきた職場には、そういうリーダーが何人かいたわ、と思い出します。

雷を落とす人、黙って不機嫌になることによって威圧感を出す人、そういう人の顔色を窺いながら、といっても、その人の前だけですが、仕事をしていた日々がよみがえります。

そのおかげで、私がその仕事ができるようになっていったかというとそうでもなくて、ただ、その人を怒らせないようにする術を身につけていっただけなような気もして、気がつけば一緒に働いている人たちとその人の文句を言うことが日常と化していて、それが不毛だったとは思わないけれど、そういうもんだったわ、という実感しかありません。

カラオケなら大きな声も出ますが、普段出したいとは思わないし、不機嫌になってもそれを維持するエネルギーもない。なんにせよ、怒られ慣れてはいるけれど、怒り慣れてはいないので、怒鳴りつけようとしても声がひっくり返るのが関の山でしょう。

怖いリーダーになれないことを言いわけするように、働いている人が機嫌良くやってくれていたらそれでいいんです、なんて今は言っています。

ところが、私の知らない前の店長もその前の店長も激しく怒鳴りつける人だったらしく、そういう環境の下で働いてきた人たちが、いま戸惑っているというか、逆に働きにくさを感じているということがわかってきました。

加えて、ずっとその間社長だった私の父親も声が大きく、鶴の一声を多発していたようで、そうなると、リーダーが方向性を決めるのはいいとしても、言われてないことはやらない、という責任をとりたがらない人が残る、ということになるのではないか、実際そんな雰囲気もあります。

経営側になって、あれこれ思いますが、どうしても思ってしまうのは、こんな安い給料で身を拘束していて、あれもこれもしてほしい、なんならあなたを育てたい、なんてことは言えないし、できっこないわ、ということです。

私も過去は、誰かに育てられたいと思って働いたことはないフリーターでした。

それでも、一日の、というか人生の大半をウチで過ごすのだから、なるべく楽しみながら働いてもらえればいいかな、くらいです。自分でこうしたいと提案して、それを実行する、という働き方を推奨しているつもりでしたが、それはそれで不満が出るとはどういうことなのか。

されて困ることや、それはないんじゃない、と私が思うようなことは注意するし、お願いもするけれど、そんなことは怒鳴るようなことでもないし、と思ってしまいます。

面倒をみているとか、お世話をしているわけではなく、契約を交わして働いてもらっているので、怖い人になるよりは、そのつど話し合って落としどころを見つけていくほうが精神的にもいいような気がします。

あ、そうじゃなくて、恐怖政治への願望は、毎日に刺激を求めているという話だったのかもしれません。
悪口をもっと言わせて! とか。
そんなわけないか。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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