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痴漢モノAVは実際の痴漢行為に対してこんなに寛容とは!

牧野雅子2019.05.27

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AVは教科書だという言い方がある。
AVを見た男性が、女性はみなそう感じ、そう振る舞うものだと学んでしまい、実際に女性に対して同じことをしてしまう、同じことを要求してしまうというのである。

あるいは、AVは引き金になる、といった言い方もある。
性暴力行為が発覚した加害者が、その動機を、AVを見て同じことをやってみたかったからと語ることがある。実際、わたしがこれまで話を聞いた中にも、動機をそう語った加害者がいた。

一方で、AVは性犯罪を防止するのだと言われることがある。
フィクションだとわかったうえでAVを楽しみ、そこで性欲(?)を満足させることで、実際の性暴力に向かわないですむのだという。昔風に言えば、婦女子を守るためにAVがある、みたいな感じか。

調べ物のために男性誌をひっくり返していたとき、ある痴漢モノAVをオススメする記事が目に留まった。

「舞台裏徹底追跡! “AVは当たり前”世代にバカウケビデオの舞台裏と正しい楽しみ方一挙公開 『痴漢ビデオ』のスゴすぎる撮影現場っ!」
(『週刊プレイボーイ』2001年3月13日号 以下、引用はすべてp199から)
 
 記事の小見出しには、
 
 「これぞ正しい鑑賞法。5千円で女の羞恥心を買いたたけ!!」
 
とある。作品のオススメだけでなく、どう見るべきなのかという「正しい鑑賞法」までを教えてくれるのだそうだ。なぜかというと、
 
「やはり楽しみ方のツボを知っているのと知らないのでは、同じ作品を見ても『ボッキ度』が全然違いますから」

オススメされているAVは、一般客が乗車している電車で撮影されたものだという。ここで、一般乗客がいる、というのは、二つの意味を持つらしい。

一つは、リアル感があるということ。
こんなこと、あるわけないだろ、というシチュエーションでは、見ても楽しめない(=ヌケない)らしい。じゃあ、ほとんどのAVでヌケないんじゃ? とわたしなどは思ったりするが、ほとんどの、と言えるほどAVを知らないので何とも言えない。

もう一つは、周囲の乗客に痴漢場面を撮影していることがバレているということ。
ちなみに、いくら痴漢被害者役の女性が同意していたとしても、痴漢行為を見た一般乗客にとっては、撮影自体が公然わいせつ罪に該当する、これも一種の痴漢行為(犯罪!)である。で、乗客にバレているとどういいのかというと……、

「見知らぬ一般客たちにゃバレバレなんす。ジロジロ見られてるんす。『好奇心』と『侮蔑』に満ちた目で『視姦』されているんす!! これはあまりに恥ずかしすぎまっせ」。

「『こんなことまでされてやっと3万円しかもらえない……そんな低価値な女なのね、私』なんて思いながら乳首をツマびかれているのかもしれない!! うひゃひゃひゃ。タマラんでございますねえ」

販売価格は5000円。それで「貴重なモノ」が買えると記事の書き手は主張する。その「貴重なモノ」とは……、

「その1:小銭欲しさに痴漢されているような女のコッパみじんなプライド。その2:そんな女にでもかすかに残った羞恥心を限界まで引きずり出した心のシボリ汁……などなど。 そうです。痴漢ビデオ購入とは、知覚的な映像を買う以上に女の心を買いたたく行為なのです!! ほ~ら、激安っしょ?」。

この記事を読む限り、男性はAVをフィクションとして楽しんでいるのではなく、そこにいる「リアル」な女性の内面が陵辱されていることを想像し、そのことに興奮しているのだということがわかる。こんなにも、ひねくれた解釈をして見ているなんて、AVを見るのはとても「知的」なことなのですね。ああ、それにしても「買いたたけ」とはなんと的を射た表現であろうか。AVを買うという行為は、札束で女の頬を張り倒すどころではない、5000円札で女の頬をペシペシ叩く行為なんだ。
 
『週刊プレイボーイ』では、それまでにも、痴漢モノAVをおススメしていて、1999年6月8日号には、

「本物の電車での手マンでは、女優の喘ぎ声が控えめで臨場感最高。思わず満員電車に乗りたくなる」(p237)

なんてことが書かれている。痴漢モノのAVを見たら電車に乗りたくなる、って、それ、犯罪をそそのかしてない? AVを見て満足できるのなら、むしろ、電車に乗らなくてもいい、って話ではなかったの? いやはや、AVは性犯罪を防止する、ましてや一般の(!?)女性を守るためにある、なんていう戯れ言は休み休みででも言ってはならないと思うよ。

もっとも、こうした記事が出たのは20年近く前のことで、それから時代は変わっている。今は、痴漢モノのAVも、違う撮影方法がされていると聞く。ちなみに、1999年から2001年といえば、痴漢冤罪が大きな社会問題となった時期で、『週刊プレイボーイ』も、痴漢冤罪問題を取り上げていた。たとえば、

「恐怖のエンザイ事件続出! 女性が“チカン”と叫べば、もうそれだけで犯人。交通取締りなんてもんじゃない! キミも無実のチカンで逮捕されるぞ!」(2000年4月4日号)

と、痴漢冤罪は女の問題であるかのようなタイトルがつけられた記事まである。
痴漢「冤罪被害」を訴えるわりには、痴漢モノAVを紹介するのに「満員電車に乗りたくなる」なんて書いてしまうし、撮影自体が痴漢行為だという痴漢モノAVを推していて、実際の痴漢行為には寛容な印象を受けてしまうのですが、それも、そんな時代だったから、って話なんでしょうかね。

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牧野雅子

牧野雅子(まきの・まさこ)

龍谷大学犯罪学研究センター
『刑事司法とジェンダー』の著者。若い頃に警察官だったという消せない過去もある。
週に1度は粉もんデー、醤油は薄口、うどんをおかずにご飯食べるって普通やん、という食に関していえば絵に描いたような関西人。でも、エスカレーターは左に立ちます。 

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