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思えば、今年は「トモちゃんとマサさん」というドラマを見ることから始まったのでした。それは、新宿二丁目で働いていた時にいつも行っていたバーのマスターとその友人の役者さん(知人なので、さん、付ける)が出演しているドラマで、70歳と68歳のゲイの友情とその日々を描いたものです。

脚本と監督はマスターのパートナーの方で、基本、静止画にアフレコをあてるといった形で撮られていて、「ボラギノール(のCMのような)ドラマ」と呼ばれています。
一篇20分くらいで全5話。それが1月の頭から毎週1話ずつユーチューブにアップされていきました。

毎回何かしらの「事件」が起こるのですが、それに二人が向き合っていく様子がとても愉快に描かれていて、楽しくて笑ってしまうドラマでした。

次回が待たれる作品で、毎週、仕事の終わりや休日に見ることができて幸せでした。

そういえば、木皿泉のお正月ドラマ「富士ファミリー」が今年はなかったわ、ということに気づいて、その分、このドラマが見られてよかった、ありがたい、という気持ちにもなりました。
ドラマから受け取るものが、木皿泉と似ている気がしたのです。

ほのぼの、愉快、コミカル、ユニーク……いろいろと言葉は出てきますが、なんだろうそれは、と思っていたところ、テレビで「きのう何食べた?」というドラマが始まりました。

よしながふみの原作漫画をほとんど読んでいませんが、1話目からハマりました。
現在2話目を見終わったところです。

こちらは40代のゲイカップルの日常と日々の料理が描かれていて、ほのぼのシーンもありますが、二人の喧嘩も多い。
美容師をしているケンジが、弁護士のシロさんを怒らせるパターンが多いようですが(って、まだ2話目)、すごいな、と思ったところは、これまでゲイの男性に会ったことのない人たちが毎回出てきて、主人公たちと接触することでした。

登場するノンケの人たちは、ゲイに対してさまざまな偏見を大なり小なり持っていて、ドラマの中でそれが惜しみなく開陳されます。
二人はそれに戸惑いながらも対応していくのですが、ノンケとゲイが一人ずつの個人・別人として描かれているので、とてもリアルな展開になっています。

私はそれを「引っかかる感じ」と思いましたが、職場のスタッフの女性は「生々しい」と表現しました。わかるー、よしながふみって生々しい! 漫画の絵はあっさりしているのにね! なんて言い合いました。

2話目のシロさんがスイカを食べるくだりで、田中美佐子が急に西島秀俊に怯え始める様子が白眉で、見ていて、どちらの立場もよくわかる、というのは、なかなかないことではないかしら、と思いました。

*大玉のスイカが一玉880円で売られているスーパーの現場に居合わせたゲイ・二人暮らしの料理担当と、スイカ大好きの主婦。スイカをにらみ合っているうちに、半分コずつにしない? と意気投合。主婦は知らない男を気安く自分の家(団地)へ招き入れてしまう。主婦・田中美佐子がスイカを切り分けている最中に、残り物のスイカをゲイ・西島秀俊にふるまう。西島は普段はスプーンですべての種を取り除いてから食べるが、そんなことをしたら「ゲイだとばれてしまう」かもしれないので、「男らしく」かぶりつく。口をぬぐって田中を見る仕草に、田中はふいに我に返る。
「なにこの男、イケメンすぎる。堅気に見えない、なんでこの男がウチにいるの? 強盗に来たのか、私をレイプするのか!」
ぎゃーーと主婦・田中が叫びだす。

たいていは、どちらかに感情移入をしながら見てしまうので、どちらかが変な人になってしまうところを、どちらも変で(「ジェンダーバイアス」によって)、しかし、その立場になってみるとそうなるかも、という双方の立場を一瞬にして押さえてくれた感じでした。

相手を落ち着かせようと、西島秀俊が「私はゲイです!」と叫ぶ、一瞬あっけにとられた田中美佐子が、その必死の形相を見て、「いやー! なんか怖い~!」とまた叫びだすなんて、視点が一つではなく二つあってほんとに素晴らしい。しかも、そこで私は大笑いしていました。

木皿泉とよしながふみとでは、暴力の表現の仕方が違うのかもしれません。
木皿泉のドラマは接していて暴力に怯えることがないようにできている。というか、すでに暴力に傷ついた人をどう癒してご飯を食べさせていくかに専念していて(少女マンガ)、よしながふみの作品は、人の暴力的な一面を日常的な擦り傷のように表現しながらご飯も食べる(24年組)。
羽海野チカは木皿泉寄りやと思います。線も柔らかいし。吉田秋生もそっちかも。

木皿泉のドラマは善悪がはっきりしていて、けれど、悪を退治するというより善のバリエーションを増やしていくことによって、よしながふみの作品は、善悪が誰の中にもあることを前提にしていてどちらもこまめに描くことによって、それぞれが、人生捨てたもんじゃないと思わせてくれる。
言葉足らずですが。

ちなみに「おっさんずラブ」は完全にファンタジーで、それに巻き込まれることによって生きる力を得るものだと思われます。

記憶が定かではありませんが、漫画の「きのう何食べた?」の中で、夜道を二人が手をつないで帰るシーンがあって、通りすがりの男の子たちに「おっさん同士で気持ち悪い」と言われ、聞こえなかったふりをしながら「気持ち悪くてもいいもん」と二人が笑顔で去っていく姿が好きでした。

差別と嫉妬と偏見とデマにまみれたこの国のニュースに接するたびに暗澹とした気持ちになりますが、そんななか、着実にアゲてくれる作品と出会えることは本当に嬉しい。

今に見てろ、幸せになってやる、というより(もう大人なので)、ずっと幸せでいてやる、なんならアンタも幸せにしてやるぜ、くらいのテンションをもらいます。
「おっさんずラブ」も続編が出るとか。「トモちゃんとマサさん」はシーズン2の撮影に入ったそうです。
もちろん楽しみにしていますが、願わくは、その作品について語り合える人たちがいつもそばにいてほしい。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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